新型コロナ検査-感度・特異度を越えた議論を

昨日、以下のニュースがありました。

予想通りこれに対して批判的な意見が多いです。私も現時点での知見からは反対です。PCRの感度は100%ではなく、抗原検査の感度はさらに低いため、感染者の見逃しがあるためです。このように切って捨てるのは簡単なのですが、もう少し議論を深めてみたいと思います。

検査というのは何らかのアウトカムを改善するために行います。アウトカムとは医療分野では死亡や上記の場合コロナの感染などが当てはまります。コロナ検査の有用性について、今のところ感度・特異度に議論が集中していると感じますが、これらの指標は真のアウトカムではなく、本来は臨床的・公衆衛生的に意義のある上記のようなアウトカムにどのような影響があるかを考慮することが重要です。

ここでは議論を①抗原検査の有用性、②マスクの有無に分けて考えたいと思います。

①抗原検査の有用性

陰性証明のためのPCR検査などにも当てはまりますが、よくある反対意見として、偽陰性による誤った安心感を与えるというものです。理想的には検査結果に関わらず、症状がある人は成人式に欠席する、また仕事の場合は休むというのが理想です。しかし、実際にそれがどのくらい守られているでしょうか。

一方、抗原検査やPCR検査によって陽性になればその人はほぼ100%欠席するでしょう。また、これら検査で陽性の人は陰性の人より感染性が高いかもしれません。したがって、抗原検査を行った場合、ただ症状がある人に休むように促した場合を比較し、結果として、抗原検査を行った場合のほうが、真のアウトカム(二次感染)を防げる可能性があります。

この二つの戦略を検討するには本来は集団をランダムに二つの異なる戦略に割り付けてどちらが二次感染者が少ないかを検討する必要があります。しかし現時点ではこのような試験によるエビデンスがないため、検査の感度・特異度からインパクトを専門家が想像して、対策を決めることになります。(これはエビデンスに基づくガイドラインを作成するための枠組みであるGRADEでも議論されています。

https://www.jclinepi.com/article/S0895-4356(17)31095-8/fulltext

上記同様に、臨床的な視点からすると感度が低い検査は約に立たないと思われがちですが、安価で簡便な検査は繰り返し行うことで感染伝播を防げる可能性があります。https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2025631

個人的にも賛成で例えばイベントなどで抗原検査を行うことで、二次感染を少なくすることができるかもしれません。ぜひ誰かが複数のイベントや地域をランダムに割り付けるなりして検討してくれないかと思っています。

②マスクの有無について

マスクくらいしてほしいとも思いますが、マスクをしないで成人式に出席するという思い出も当事者には大切かもしれません。このような受益者にとっても重要なことを考えるのは重要な視点ですので、もう少し考えてみたいと思います。これは臨床試験でいう非劣勢試験という概念で考えることができると思います。

例えばある感染症に対する既存の薬に対して、新たな新薬が開発されるとします。この新薬は既存の薬に対してほんの少し治療効果が落ちますが、安全性が非常に高く、また既存の薬が数か月の治療が必要なのに比べて数週間で治療できます。このように、新薬が治療効果以外の利益がある場合に既存の薬に比べて効果がめちゃくちゃ悪くなければOKとしようという意図から両者の薬を比べる研究を非劣勢試験といいます。

さて、これをマスクの有無にあてはめると、以下になります。

既存の戦略:マスク義務

新戦略:抗原検査

新戦略ではもしかしたら二次感染を防ぐ効果が若干落ちるかもしれません。しかし、その分マスクをしないという受益者にとっては重要(じゃないかもしれませんが重要ということにします)な副次効果があります。実際に両者の戦略を比べるともしかしたら新戦略の非劣勢が示せるかもしれません。

(追記:理想的にはマスク+抗原検査 vs マスクの比較がベストだと思うが、あえてニュース元の記事で提案された戦略について考えてます。)

残念ながら現在はそのようなデータはないため既存の最良のエビデンスに基づいて対策を行っていく必要があるでしょう。そうするとマスクをしないで抗原検査というのはやや無謀な感じも否めません。しかし、無下に否定するのではなく、このような集団レベルの対策についても新たな対策を考慮し、効果の検証を行いながら実施することで、より受け入れやすく、効果が見込める対策につながっていくのではと思っています。








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