臨床における感度・特異度について

感度について

しばしばPCR検査の感度は100% vs 特に臨床側から感度は低い(70%等)などど言われるが私の意見では両方あっている。前者はウイルスRNAが検体にあって100%見つかるということで検査自体の性能を指す。後者は来院する患者に検査をしてどのくらい見逃しがあるかという診療行為の感度を指す。

ウイルスRNAが検体に存在する場合の検査自体の感度が100%であってもそれは臨床における有用性を判断するエビデンスとしては不十分である。

臨床応用のためにはシステマティックレビューを行い検査の性能について検討した論文をレビューするがその際に各研究についてバイアスの有無など研究の質を評価する。その質の評価の枠組みはQUADAS-2やCochrane Handbookで説明されている。
https://bristol.ac.uk/population-health-sciences/projects/quadas/quadas-2/

https://methods.cochrane.org/sites/methods.cochrane.org.sdt/files/public/uploads/ch09_Oct09.pdf

さて、ある検査を臨床現場に適応するための感度・特異度を推定するための質の高い研究デザインとはどのようなものか。

これらの文献で述べられている質の高い研究の目安は対象集団をConsecutiveに、つまり来院した順番に組み入れたものである。なぜならそれが実際の臨床で使われる設定と同じだからである。このように実際の設定と似た状況で検査の感度・特異度を推定する必要がある。

すると中には感染1日目や2日目の患者もいれば、8日目の患者もいるだろう。

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このように研究対象患者の特性の分布が実際の臨床で対象となる集団の特性と似た状況で検査の性能を計ることで、「PCRを用いた診断行為」といういわば戦略の感度を計ることができる。また、リアルワールド同様、検体採取ミスもあるかもしれない。これも含んだうえでのPCRを使った診断戦略の感度である。

注:厳密には感染日からの日数で層別化して感度の違いを検討することも可能。しかし各層ごとに多様な集団を含むし、感染日からの日数の推定も難しい

すると一定の確率でウイルス量が十分でない早期の患者が混じるためPCRで検出できない場合がある。しかし、このような研究が臨床応用を検討する上での質の高い研究となる。つまり、いわゆる「PCR」の感度が低いとはPCR検査自体の性能の事ではないので注意が必要。

特異度について

特異度についても100%vs「100%でない」という論争があるが、これも感度の説明と同様にボタンを掛け違えている。検査自体の特異度はコンタミがなければ100%出せる事は海外の大量検査のデータから観察されている。ここでは検査自体の要因による偽陽性の割合については論じない。

コロナではウイルスの死骸により数週間~数か月PCRの陽性が続くことがある。臨床医がこれを偽陽性の要因の一つとして挙げたら、恣意的に基準を変えていると批判されているのを見た。しかし、臨床応用を考えるには検査の目的により「恣意的に」基準を決める必要がある。やや複雑だが以下に説明を試みる。

参考資料
https://training.cochrane.org/online-learning/cochrane-methodology/grade-approach/jce-series
https://methods.cochrane.org/sdt/handbook-dta-reviews
https://gdt.gradepro.org/app/handbook/handbook.html

検査はなんのためか。結果に基づきマネージメントを行うことで患者や公衆衛生的なアウトカム(例:死亡率、症状の期間、二次感染、不安)を改善するためである。アウトカムが変わらなければその検査は無意味である。ある検査を臨床等に使うか判断する際に目的とアウトカムを明確にする必要がある。

ここで重要なのがTarget condition を明確にすること。明確になっていないと混乱の原因になる。Target conditionとは単にウイルスが存在するか否かではなく、その検査の目的に応じて臨床的に妥当なTarget conditionを設定しなければならない(これが恣意的と思われるかもしれない)。

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自身が設定したTarget Conditionを正しく見分けるか否かの感度・特異度を考慮すべきである。よってPCRは「活動性のある新型コロナウイルス感染症」に特異的ではなく陽性になることがある(=偽陽性)。有症状者と濃厚接触者を対象に検査する場合と接触者歴のない無症状者を検査する場合を考える。

図示したように後者ではTarget Conditionの事前確率は低く「活動性のあるコロナではない=偽陽性」の確率があがる。しかし、感染が急速に拡大している状況では接触歴も症状もない者で相対的に急性期の患者である事前確率が高まると考える(説明は省略。参考:(https://medrxiv.org/content/10.1101/2020.10.08.20204222v1)

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一方、強力なロックダウン等を経て感染が収束している時期では無症状者に大量に検査すると「偽陽性」をみつける可能性が高まる。それでもすべてのPCR陽性例をみつけるのは有意義であり偽陽性ではないという反論があるかもしれない。それは異なる検査目的、Target Conditionの話である。その場合のTarget Conditionは「すべてのPCR陽性者」になる。またそれによってどのようなアウトカムの改善を目的にしているのか明確にするべきである。

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