インフルエンザの死亡者は年間3000人だからコロナは大したことがない?

ツイッターでインフルエンザは年間3000人死んでいて、コロナには2400人しか死んでいない。だからコロナで大騒ぎしているという意見をしばしば目にします。

コロナはかなり厳しい対策をして抑えられた結果ということは理解されているのでしょうか。

感染研の資料によると2018/2019年のシーズンに1200万人のインフルエンザ患者数が推定されています。

一方コロナでは史上稀にみるような厳しい対策をして現時点で17万人の感染者に抑えられ、その結果として2400人の死亡です。コロナ流行前と同じような生活したら何人の感染者がうまれるでしょうか。

現時点でインフルエンザの報告数は著明に減少しています。それにも関わらずコロナの感染者は地域によっては上昇傾向です。であれば、全く普通の生活をしたらインフルエンザの患者数と同程度またはより多くのコロナ感染者が発生すると想定できるのではないでしょうか。

仮に1200万人がコロナに感染したとして、現時点での死亡割合を当てはめると17万人が死亡します。しかし、今の時点で医療が逼迫している状況でこのような事態になればすでに医療崩壊で、コロナの治療もままならず、他の疾患による死亡者も増えるでしょう。すると西浦先生が推計した42万人の死亡も現実味を帯びてくるのではないでしょうか。

(追記:数字は大雑把な計算によるもので、正確な数字とは筆者も思っていません。趣旨としては対策下でのコロナによる死亡とノーガードで起きているインフルの死亡を比較して、コロナによる影響を矮小化するのはよくないという主旨です。ですが、もう少し詳しい議論を最後に追加しました。)

同様のことは自殺者との比較にも言えます。確かに現時点での自殺者はコロナよりも多いかもしれません。しかし、コロナの死亡者はかなり対策をして抑えられた結果のものです。また、コロナ如何に関わらずある程度の自殺者が毎年発生していますし、自然な増減がありますから、実際にどのくらいの自殺がコロナのせいで増えたのかはわかりません。

さらに、自殺者が増えるからコロナ対策をやめろと主張している人はコロナ対策をやめると経済が回復し、自殺者が減るという前提に立っていると思いますが果たしてそうでしょうか。上記に述べたように通常の生活をしたら、コロナは1200万人以上に感染するかもしれません。それでも経済活動は回復しますか。そして、経済活動如何に関わらず、それだけコロナが流行したら精神的な負担になるのではないでしょうか。

このように、現時点での死亡者、感染者数だけを基準に対策の必要性を議論すると、コロナのインパクトを過小評価することになると思います。しかし、対策をしなかったらどうなるかといった仮想現実をみる術はないので、実感が湧かないのはしかたない気がします。そういった際に数理モデルを用いることで、ある対策をとったりとらなかったりした場合にどうなるかを想定して、対策をとることができます。

ちまたではK値が話題ですが、K値は上記のように異なる対策をとった時の効果を推定することはできません。感染数が対策や人の動きにより減少し始めると一定の速度で減少するということしか教えてくれません。K値の対策上の役割は少ないと思います。

以下数字についての追加考察

インフルエンザの死亡数について

1.インフルエンザの死亡数について

インフルエンザの死亡数については報告ベースで数えられておりません。したがって、感染研では超過死亡を推計しています。よくある反論として、コロナによる死亡はコロナ以外も含んでいるというものがありますが、引用したインフルエンザの死亡数も間接的な死亡を含んでいます。

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2.インフルエンザの累計患者数について

インフルエンザの患者数もすべてが数えられているわけではなく、全国約5000の医療機関からの報告受診数をもとにした全国推計です。受診数ですので、当然症状がある人しか通常は受診しません。インフルエンザも軽症から無症状まであるので、実際の患者数はもっと多いと思われます。(インフルエンザの無症状率は幅があるようです。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4586318/)

3.コロナの患者数について

2020年12月12日時点で17.5万人が報告されています。これに対して約2400人が死亡していることから単純に2400/17.5万を致死率として適応しました。しかし、診断されていない感染者がもっといると思いますので、上記計算では致死率は高めに推計されています。特に第一波では検査も不十分で分母の数が少ないため、致死率が高めに推計されています。一方、上記に述べたようにインフルエンザの実際の感染者も無症状者を含めるともっと多いことを考えると、全くアンフェアな比較とも思えません。

4.コロナ死亡について

下記の記事にもありますが、コロナの死因の定義は自治体によって異なるようです。したがって、コロナによる死亡者数はウイルスによる直接死因以外も含まれています。

だからといって、コロナによる肺炎や呼吸不全の割合はインフルエンザより多く、全死亡のうちコロナに直接起因する割合はインフルエンザより高いことはあっても、低くはないと思います。

死因を決めるということは結構むずかしいです。例えば高齢者が心筋梗塞を発症して病院で死亡し、コロナ陽性が明らかになるとします。おそらく直接死因は心筋梗塞になると思いますが、じつはコロナが感染したことにより心筋梗塞を起こした可能性があります。実際にコロナによって心筋梗塞や不整脈が起こりやすくなることが報告されています。複数の持病をもつとコロナで死亡する可能性が高く、また、コロナによって持病が悪化する可能性もあるでしょう。コロナの軽症者がたまたま交通事故にあったということであれば全く関係ないでしょうが、コロナによる「直接の死因」かどうかを決めるのは複数の持病があったりすると難しいです。直接の死因ではないからといって全く関係ないかとも言い切れない場合も多いでしょう。

以上を考えると、コロナの対策を行わず、インフルエンザが1000万人以上に感染していたような通常の生活を行うと、3000人という死亡者で収まらないことは容易に想像できると思います。


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