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和竿一本で釣りと埼玉に向き合うWAZAO-IPPON立ち上げ物語

こんにちは!埼玉県でスタジオサイタマという会社をやっている加藤です。

この度、弊社メンバーの釣り好きがこうじて、埼玉県の伝統産業である竹釣竿「和竿」を中心とした釣り事業、並びに和竿特化のオンラインストア、

「WAZAO-IPPON(ワザオイッポン)」

を立ち上げました。イッポン!

ここ埼玉県は礼儀を重んじる国ですので、まずは感謝を述べさせてください。埼玉さん、釣りさん、イッポンに交わってくれて本当にありがとう。

先に述べておくとWAZAO-IPPONの活動は大きく2つあって

・和竿の認知向上とグローバルでのマーケティング、セールス
・釣りそのものの持つ魅力の多面性を示し、啓蒙、普及する

です。

今回はそんなWAZAO-IPPONの立ち上げ背景としてどんな出来事があったのか、ぼくたちが和竿を引っさげて何をどうイッポン取りたいのか、この辺り圧倒的埼玉目線で話してみようと思います。

始め!

埼玉的背景:川ディグ編

2020年、スタジオサイタマ民の活動1年目、3月。これから寝る間も惜しんで仕事に勤しまなければならない大事な時に、ぼくたちは毎週末渓流釣りに出かけていました。

大義名分は秩父を中心とする川アセットの開拓です。

明日イッポン取れる技ありサイタ豆知識1
・埼玉県は河川占有面積が日本一位。
・県土に占める河川面積割合3.9%と日本二位(2020年2月時点)。
・鴻巣〜吉見町の堺を流れる荒川の川幅は2,537mで日本一位。
・このように、荒川や利根川に代表される関東屈指の大型河川を中心として水辺空間が豊富な「川の県」である。

実際に、秩父に足繁く通う中、漁協の方々との交流が深まりヤマメの放流を手伝わせていただいたり、アドバイスをいただきながらヤマメの水槽飼育を行ったりと、様々な経験ができました。

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埼玉的背景:脱玉編

秩父遠征の日々はそれはそれで非常に充実したものだったのですが、肝心の魚がまったく釣れず... 気づかぬうちに「魚を釣ること」に執着し始めている自分たちがいました。そんな欲望はもはや抑えきれないほどに肥大してしまい、ついに禁忌に触れてしまいます。

脱玉です。※埼玉を出ていってしまうこと

脱玉は繰り返し行われました。

西へ...

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東京

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まだ足りないその先へ、山梨

北へ...

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県北の仲間、群馬

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もっと走りたい国道17号、新潟

東北へ...

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県北の仲間、栃木

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もう我慢できなくて、福島

...埼玉に後ろめたい、多分な罪悪感を背負いながら、一つの真実にたどり着きました。

ほとんどの場所、秩父に行くのと時間変わらない。
なんなら埼玉から全ての方角に等時間距離で伸びられる。

これって言い換えると、釣りをやる上で、埼玉県は東日本のハブになれるっていうことですよね。この埼玉から伸びる釣りテリトリー、いうなれば、埼玉圏。他の県からすれば、移動して釣りがしたければ、埼玉を通らずにはいられない。埼玉が関所を用意したら釣り人は困る。そんな埼玉に、こんにちは。

外から見た時に良さに気づくことってあると思います。実際、ぼくたちも東京にしばらく幽閉されていたからこそ埼玉っていいなと思ったわけですし。近づいたり離れたり、そんな駆け引きも埼玉。

明日イッポン取れる技ありサイタ豆知識2
・埼玉県は東日本の交通のハブ
・電車でも2時間県内に到達可能な県庁所在地の範囲が群を抜いて広い
・電車乗換なしでの到達可能範囲でみても広い
・東京西部からすると東北に伸びるには大宮経由の方が早い
・この現象から見えてくる埼玉の守備範囲を埼玉圏と呼ぶ

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埼玉的背景:飛び玉編

少なくとも釣り観点で見た時に、埼玉の立地的アドバンテージがありそうなことがわかりました。そうこうしていると、時がすぎるのは早いもので、9月。

脱玉編での出来事は、埼玉の釣りをとりまく環境を俯瞰して見ることに繋がったので、なんとかセーフ、仕事だと認定しました。じゃあ安心して夏休みを取ろう。

夏休みとか言いつつもさすが1年目、仕事熱心なもんで、埼玉×釣りの可能性リサーチは同時並行で進めていました。すると、埼玉県には日本最古のリールメーカーや最大の釣り餌メーカーなど、歴史ある釣り関連事業者が多く所在していて、釣り×埼玉の可能性をさらに感じます。立地だけじゃなくて、道具もある。

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こうなってくると、この埼玉産の釣具を持って、最高の舞台で釣りをしたい。となってしまうのは埼玉県知事にも止められません。仕方のないことです。

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ついに飛玉の時、北海道。

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川越五十鈴工業のリール、とアメマス。最高の景色。

明日イッポン取れる技ありサイタ豆知識3・埼玉県には国内屈指の釣具メーカー「上州屋」や「マルキュー」本社をはじめ、日本最古のリールメーカーともいわれる「五十鈴工業」(※2020年移転)など数多くの釣り関連企業が所在する。

埼玉的背景:再玉編

大満足の釣り旅を経て、やっと埼玉に戻ってきます。再玉です。

再玉した時点、釣りに関して北海道から持ち帰った宿題がありました。山や渓流に入り浸る日々の中で生まれた観点は大きく2点、

・もっと自然と対等に触れ合う釣りをするためにはどうしたらよいか
・埼玉にはもっと、眠れる釣りアセットはないのか

こう思うに至ったきっかけは、当時使っていた埼玉産の釣具が大きく影響しています。

北海道に携行した五十鈴工業のリールというのは、クラシカルな構造をしたいわゆるオールドリールというもので、昨今の進歩したリールとは異なって取り扱いに繊細さを求める、融通の効かないじゃじゃ馬な道具です。

そんな道具を持って山の中に入っていると、釣りのしやすさ、効率性以上に愛でるべき釣りの美学があるような気がし始めたんです。魚との1対1の密なやり取り、力でねじ伏せるのではなく、自然と対話して、一体になるような...

もっと自然な釣り味、魚のパワーをそのまま肌で感じられるような釣りをするにはどうすればいいのか。そしてぼくたちはロッドに着目します。

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ぼくたちの持っていたロッドはカーボン製のエリートなロッド。渓流釣りをするなら申し分のない最高のプロダクトです。ですが、圧倒的に使いやすくて、魚に対して有利すぎるんです。

イメージする釣りの世界観に近づくためには、素材から見直す必要があるのかもしれない。ということで、使ったことのない素材のロッドを探しました。その時に最初に訪れたのが、川口市のグラスアイさんです。グラスファイバーという弾力性の高い素材でバスロッドビルドを行っていると知りました。

僕らは渓流釣り(ヤマメやイワナといったトラウトと呼ばれる魚釣り)をするのでバスロッドは筋違い、みたいな固定観念はもはやまったく捨てています。人間の作り出したジャンルにはとらわれない。圧倒的自由な埼玉県民でいたい。

グラスアイの店長はとても親切な方で、ぼくたちスタジオサイタマのこと、埼玉メイドの釣りスタイルを模索していること、効率性の外にある釣りの美学を追っていることを、興味深そうに聞いてくれました。

聞けば、グラスアイさんはグラス素材づくりから自身で構えた埼玉の工場で行っており、過去にも渓流用のグラスロッドを作って欲しいと言われたことがあるらしい。君たちがイメージするような竿は作れるだろうね、となったところで、僕たちはテンションは埼高潮。埼玉産のNEWスタンダードなロッドが作れる!

と思ったらこう言われました。「グラスじゃなくてよくない?」「わざわざ埼玉にこだわらないでいいもの作れば良くない?」

いわく真意としては、どうせいいものをつくるなら全てにこだわり抜いて厳選すべきだ、埼玉産にこだわるのであれば、もっと注目すべきものがあるだろう。とのこと。

そこで紹介していただいたのが、今回のWAZAO-IPPON立ち上げにつながる、川口和竿の職人で埼玉県伝統工芸士、山野釣具店の山野正幸さんでした。

明日イッポン取れる技ありサイタ豆知識4
・川口、鳩ヶ谷エリアは鋳造などで栄えた背景もあり、町工場が多い。
・今では稼働数は少なくなっているが、ものづくりの文化に根ざしているので、地域レベルでものづくりを完結させるポテンシャルがある。
・グラスアイさんは店長一人で気ままに営業している。ほとんど店にいなくて工場で製品開発したりしていて、電話して待ち合わせないと、会えない。

埼玉的背景:和竿に会い玉編

言い訳はしません。半熟埼玉っ子で恥ずかしいのですが、ぼくたちは埼玉県川口市が古くから伝統的に和竿作りが営まれてきたことを、知りませんでした。なんか古くて高級そうな釣竿屋さん多いなぁとは思ってたんだよなぁ...

さておき、山野さんとの出会いはのっけから衝撃の連続でした。まず、初めてかしこまって見る竹竿。その精巧さと美しさ。山野さんの職人ぜんとしない物腰の柔らかさと、得体のしれない僕たちを受け入れる懐の深さ。

そしてこの時に振らせてもらった和竿。一瞬で、これだ、となりました。全ての要件を満たしてくれる。

日を改めて、振らせてもらった和竿を一本ずつ購入し、10月、北海道へ再飛び玉してしまいました。

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・川口は最盛期に国内の和竿の90%を製造していた一大和竿生産地であった
・現在従事者はほとんどが老齢のため亡くなられており、伝承が途絶える危機に面している

埼玉的背景:再脱玉編

北海道再び。山野さんの和竿に川越の五十鈴リールを乗せた装備でのテスト釣行。

"埼玉渓流和竿ベイト"

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50cm程度のアメマスも、40cmを超えるニジマスも、なんなく釣り上げられるパワー。竿先が魚に追従するように360度柔らかにしなり、自然に魚の力をいなしていく。布袋竹は粘り気のある反発が特徴、魚が無理をしていないのがわかる。長さ5ftぐらいで竿の長さがあるのでキャストは少し難しくなっていること、細い竹竿にそのままリールシートを乗せただけなのでグリップが細く、握りに不安定さは残ること、改善点はいくつか残しつつも、イメージしていた一つの完成系がありました。

ちなみに北海道トラウトとセッションしたそんな最高なこの竿、山野さんのところに居た時点では、"ハゼ竿"として売られていました。

もはや釣りジャンルってなんだ。

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・川口和竿は芝川沿いに群生していた"布袋竹"が原材料だった(今はもうない)
・布袋竹は細いが、粘り気のあるしなりが良い。

埼玉的背景:職人の付き玉編

和竿に衝撃を受けてからは、もう、付き人です。和竿のことがもっと知りたいし、山野さんのことも知りたい。なんでもかんでも付いて回りました。

小川町で伝統工芸の催事があればついて行ってお手伝いをし、週末は山野さんの工房に行って和竿作りを習い、郷土資料館や地域の小学校と連携して小学生向けの和竿つくり〜釣り体験イベントを一緒に開催したり...

その中でテンカラの神様とも言われる、「渓の翁」こと瀬畑雄三さんをご紹介していただき今では仲良くさせてもらっていて...

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その他釣りに関わるたくさんの方々と引き合わせていただきました。山野さんには感謝しても尽くしきれません。

和竿で繋がり人に恵まれた、WAZAO-IPPON。

埼玉的背景:埼玉to地球、グローバルTAMA編

ここまで来ると、単純に新しい釣りのスタイルを体現したい、そのために最適な道具を揃えたい、だけでは済まされなくなってきます。和竿をなんとかしたい。埼玉の伝統をなんとかしたい。山野さんと一緒に和竿を未来へ引き継ぎたい。そんな想いが強くなりました。

川口和竿を含む和竿全般は、昨今の釣り製品の工業化に伴い需要が減少傾向にあります。また、伝統の継承を巡っては、職人の減少や高齢化、地域での認知率の減少などが課題となっており、ようは、とってもピンチです。

一方で、自然由来の素材を活用した釣りのスタイルや竹材ならではの釣り味は、今もなお多くのファンを魅了し続けていて、特に定期的な海外需要があることがわかっています。

(ちなみにWAZAO-IPPON以前に、海外からの問い合わせ対応や発送などお手伝いをしたんですが、その時はイギリス、チリ、中国のお客さんでした。こだわりが強く、高い送料なんて全然気にしないコアファン。というか、どうやって川口和竿に辿りついたのか気になる。)

ここで、グローバルに向けたスタンダードな手法でのマーケティングセールス活動を試してみたいと思いました。特に奇をてらわず普通にやる。

伝統工芸の海外発信という文脈での催しごとは、国をあげて至るところで行われていますが、案外普通にユーザーへのベネフィトを示す活動ってなされていなかったんじゃないかなと思いまして。あと、和竿はそもそも伝統文化という文脈で語らなくても、普通に市場で比較したときに優れた商品だと思うから、変にラベルを貼りすぎる必要もないのかもと。

普通に埼玉からグローバルに発射する弾丸、WAZAO-IPPON。

明日イッポン取れる技ありサイタ豆知識7
・埼玉からチリへの和竿の発送は、DHLで57,500円、ヤマトで23,950円、EMSで7,300円。
・チリのお客さんはヤマトを選択。
・発送業者ごとの価格差、なんなの?

埼玉的背景:埼玉的背景をまるくまとめ玉編

2020年一年間の出来事を今一度まとめると

0. 埼玉の水辺環境アセットの発掘
1. 埼玉の釣りにおける地理的優位性の発見
2. 埼玉産の釣具で行う埼玉スタイルフィッシングの発見
3. ここで漠然と感じた、釣りという行為に潜む底しれぬ美学
4. 美学を再現するための手段としての和竿との出会い
5. 埼玉の伝統的釣り具、和竿への高まる想い
6. 和竿のグローバル発射への興味

以上が、和竿オンラインストアをオープンするに至るまでの、埼玉的背景からのストーリーでした。

埼後に:和竿を引っさげて何をどうイッポン取りたいのか

改めて、WAZAO-IPPONの活動目的は、冒頭で述べた通り👇の2点に集約すると思います。

・和竿の認知向上とグローバルでのマーケティング、セールス
・釣りそのものの持つ魅力の多面性を示し、啓蒙、普及する

一点目はこれまでの話で理解してもらえるのかな、と思うのですが、二点目についてはもうちょっと話したいと思います。ごめんなさいたま。

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「釣りのもつ魅力の多面性」このキーワードは何か。
これは個人noteの方にもちょっと書いたことと関連するのですが、

昔から釣りと魚が好きで、水タイプの添野くん(役員)とは中高大学生時代を通じてなにもかも一緒にやってきたのに、釣りに関してのみ、ぼくはまったく興味を持たずに生きてきた、ということが多分原点にあります。

添野くんはバス釣りにしょっちゅう行っていましたが、全くついていこうともしなかったし、まれについていっても、何が楽しいのかわからなくて、自分はいいや、という感じだったんです。

でも渓流釣りは違いました。初め何ヶ月か一匹も釣れなかったけど、最高に楽しかった。

あの釣りは興味持てないけどこの釣りはやりたい、楽しい。この感覚はそもそも釣りをやらない人からすると、よくわからないですよね。「釣り」ってなんでも一緒なんじゃないの?と思いますよね。それに、釣れないのに楽しいとはなんぞや、と。だけど実際に自分の身にはそういうことが起きていたんです。

なぜ自分は渓流釣りには惹かれたのだろうかと考えていると、一つ言えそうだなと思ったことがありました。釣りってすごく複雑性の高い行為で、切り取られて見えてきた一側面だけでは、釣りを捉えることはできないんだろう。

釣りというのは海、川、池、湖というフィールド、魚種、釣りの手法などで様々細分化されて、釣りは釣りでも行為としてまったく異なります。行為としても異なるし、向き合う心構えや経てきたプロセスによっても、見える景色、喜びは違うものになるのだろうと思います。

ぼくたちは、"和竿"という釣り具に出会ったことをきっかけに、そんな人々を魅了し続けてきた「釣り」そのものをもっと知りたい、理解したいと思うようになりました。縦割りの釣りジャンルだけではなく、横串で捉えた「釣り」全体のこと、そしてそれぞれを愛する人々の目線を知りたい。

自分たちが好きといっている釣りって一体なんなのか。何に自分たちは惹かれているのか。他の人が好きと言っている釣りとどう違うのか、みんなは何に惹かれているのか。そして「釣り」が人にもたらすものとは。

こうした探求の末に、多くの人がそれぞれの釣りのあり方を発見し、楽しみ、一つの文化として深まっていく、そんなきっかけづくりができればと思いながら、WAZAO-IPPONの活動をしていこうと思っています。

長文ここまでありがとうございました。イッポン!

WAZAO-IPPONについて
「釣りの魅力に向き合い続ける。」

WAZAO-IPPONは、
「釣りの魅力とは何か。」
この問いに正面から向き合い、解釈し、
価値として広めることを使命としています。

私たち釣り人が今日も水辺に向かうのは、
単に「魚が欲しいから」ではありません。

古くから釣りは「漁労」とは異なる
豊かな自然体験だと知られていました。

一方で工業化や商品の多様化を背景に
「効率的に釣れる道具はどれなのか」
「"正しい"釣り方はどれなのか」
そんな視点が強くなっていることに違和感を感じています。

釣りの魅力。それは、
自然の生き物を相手に、試行錯誤する時間。
次々と生まれる発見と問いの連鎖。
その先にいる一匹との幸福な出会い。

そして何より、釣りを取り巻く環境の全てが
簡潔で合理的で、静かに満ち足りている。
その大切さを私たち釣り人は知っています。

世界中で、そんな価値に気づく人を
もっと増やし、つなげていきたい。

そのために本当に必要な道具を
沢山の人に届けたい。

私たちは、釣り人が見つけ出したこの体験が
人々になくてはならないものだと信じています。

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