Episode 088 「幼馴染のローリー」
Episode087で触れた「アデレードオーバル」だが、この施設の管理を行う、総責任者として働いていたのは、アデレードハイスクールで同級生だったRory(Episode071参照)のお父さんだった。数年前、定年退職をされたのだが、(確か)45年間もの長い月日に渡りアデレードオーバルを守り続けた功績としてニュースや新聞等にも取り上げられていた。
ローリー一家はこのアデレードオーバルの敷地内に(至って通常の)家があり、そこに両親と妹のミーシャ(妹とは小学校からの友達で現在も仲良くしている)の4人で暮らしていた。
したがって、音楽のコンサートや、クリケットの試合(またはサッカーの試合も行われた)などは基本的にローリー一家はタダで全て観れたのだ。また、私や妹もそれにあやかることも多々あった。
さて、このローリーという男はなかなか面白い男である。我々が仲良くなったのは、確か15歳(2000年あたり)か、それくらいの年齢だったと記憶する。
彼はクリケットを専門的にやっていた(確か、南オーストラリア州代表にも選ばれていた)のだが、サッカーもそこそこ上手く、よく学校の休み時間に一緒にサッカーをしている内に仲良くなった。
彼はハイスクールを卒業後、大学にて看護師になるため、その学部を専攻したものの、PIVOT(ピボット)を行い、教育学部に変更した。晴れて大学を卒業し、教員免許を取得した彼は、地元のハイスクールで体育の教師として就職した。
時は経ち、2013年、彼は東京にあるブリティッシュスクール(アメリカンスクールの、イギリス版)に就職することとなった。日本に来るきっかけとなったのは(記憶する限りでは)、当時(日本に来る直前にアデレードにて)付き合っていた日本人(また彼女自身も教師だった)の女性がきっかけだったと思われる。
つまり、彼女がこの(東京にある)ブリティッシュスクールで働くこととなり、ローリーも(詳細はわからないが)体育の教師として同じ学校で働く事になった、という具合でアデレードから東京に来る事になった。尚、私はその3年前(つまり2010年)にはアデレードを発ち、日本へと帰国していた。
ブリティッシュスクールを経て、その後(世田谷区は)用賀にあるSeisen International Schoolに(体育の教師として)就職した。彼の容姿は、日本人が描く「外国人」、つまり、白色人種であり金髪、であり、そのルックスから、一部の(つまり、そういった外国人の男性を好みとする女性達)日本人の女の子からある程度人気があった。
それを良い事に、これでもかと、彼は日本で羽を伸ばして遊んでいた。彼は、新しい彼女ができる度に彼女らを(私に)紹介してくれた。その中の一人に、西郷輝彦(そう、御三家の一人)の娘さんなども含まれており、なかなかおもしろいなぁ、と感じた。
因みに、彼はその女の子(西郷輝彦)と別れる形になってしまったのだが、どうしてもあきらめられず、一度彼女の家(つまり、西郷輝彦の家)に花を持って(彼女には事前に告知せず)訪ねに行ったところ、彼女は家におらず、代わりに両親(つまり、西郷輝彦と、西郷輝彦の奥さん)にその花を渡してきた、というエピソードもある。これは、想像するだけで、なかなか面白い。
この様にして、大いに日本での生活をエンジョイしていた彼だが、結局この女性(西郷輝彦の娘)の事を忘れる事ができずにいた。約6年間日本にいたのだが、2020年からシンガポールのインターナショナルスクールにて新しい仕事(体育の教師)を得た為、2023年の暮れまでシンガポールに住んでいた。今年(2024年)に入り、オランダのインターナショナルスクールの仕事を得た為、(最近結婚した)奥さんとオランダに住んでいる。
尚、(日本を離れ)シンガポールに引越しをした理由が、これがまたユニークである。結論から言うと、日本を出る事になったのは、彼の意に反していた、という事である。
具体的に何が起こったのかと言うと、つまりこういう事(私はこの話を彼から細かく直接聞いた)である。
とある日、彼と彼の職場の同僚(マイケルと言う教師。私も一度会った事があった。確か、2018年ワールドカップの(日本代表の)試合を渋谷のとあるパブで一緒に観戦したのだ)と二人で飲みに行った際に、トラブルが発生した、との事である。
一軒目で気持ち良く酔いが回った二人は、2軒目のお店を探している際に、どうやら一軒のバーを発見したとの事。開いていたそのバーのドアから店の中を覗くと、そこには一人のお客がカウンターでうつぶせになって(おそらく酔っていた為)寝ていた、との事である。
彼ら二人は、店員の姿が見当たらなかった為、「スミマセーン」と大きめの声でお店の中に向かって叫んだが、なんの返事もなかった、との事。しかしながら、そこにはお客らしい人(そう、カウンターでうつぶせになり寝ている人)もいるし、とりあえず中に入ろうと決め、カウンターの席に座ったのだ。
しかし、待てど暮らせど店員らしき人が現れる様子がなかったとの事で、そこで(本来はその行為はしてはならないのだが)ローリーがバーの中に入り、お酒のボトルを(つまり、勝手に)席まで持ってきてしまったのだ。しかしながら、(彼曰く)二人は相当酔っ払っていたとの事で、そのボトルには手を付けずに、その場で(二人して)寝込んでしまった、との事である。
それから、どれくらいの時間が経ったのかはわからないと言っていたが、どうやらお店の主が(どこからか)帰ってきたらしく、カウンターでうつ伏せて寝ている二人(つまり、ローリーとマイケル)を発見するや否や、(ローリーとマイケルの二人曰く)どうやら自分たちは泥棒扱いをされた、との事。
つまり、お店の主としては、「勝手にお店に入った。そして、ボトルを勝手に開けて、飲んだ」と主張する中、ローリー及びマイケルの言い分としては、「お店のドアは開いていたし、中には人(そう、カウンターでうつ伏せて寝ていた人)がいたので、もちろん(お店は)開いていると思い、入った。そして、ボトルに関しては、確かに勝手に席に持ってきてしまったが、全く手をつけていない」と主張したらしい。
しかしながら、その場では埒があかず、お店の主は二人に対し、交番に一緒に来い、と告げた。もちろん二人としては、悪い事をしたつもりはないという認識であった為、交番に行ったのだ。しかし、その場でどうやらマイケルとお店の主が激しい口論となり、結果的に、マイケル及びローリーは刑務所(保留所)に連行され、(確か)10日間ほど三軒茶屋の(警察署の)刑務所(保留所)に保留される事になった。後に、ローリーは、「あの経験はトラウマになった」と語っていた。
尚、この事件があった翌日、偶然にも私は彼と会う約束をしていたのだ。約束の時間より少し早め(そう、私は誰かと待ち合わせをする際には、ほとんどの場合、約束の時間より早めに到着するのだ。そして、ポケットに忍ばせている文庫本を読む)に二子玉川の駅に着いたので、LINEで「本屋(TSUTAYA)に行ってるから、到着したら連絡して」とだけ伝えた。
しかしながら、待ち合わせの時間になっても彼は現れず、また、私からのLINEのメッセーも既読にならずにいた。何かがおかしいと思いながら、結局待ち合わせの時間から一時間ほどが過ぎた時点で諦めて、二子玉川をあとにし、帰宅したのだった。
つまり、この約束をしていた日の前日に、彼とマイケルは警察署に既に連れて行かれており、従って、彼のスマホは没収されていた為、(私にも、そして他の誰にも)連絡をする事が出来なかった、との事である。
そして、この騒ぎについての連絡が彼(及びマイケル)が働いている学校(つまり、職場)に入り、結局彼(及びマイケルも)は仕事を失うという状況に追い込まれたのである。
確か、この事件が起こったのは2019年の半ばであり、そこから半年(つまり、結果的にシンガポールのインターナショナルスクールにて仕事を就く事になった2020年の初め、まで)の間、彼は必死に様々な転職活動(その中には、仙台の学校、などの話もあった)を行う必要があった。しかしながら、最終的にシンガポールの有名なインターナショナルスクールにて再就職を果たす事が出来、本人も安心していた。
しかしながら、日本を離れなくてはならない事に関しては、(彼自身)非常に残念に思っていたのは確かだった。尚、シンガポールに引越しをし、新天地で新たなスタートを切ったと思った矢先にコロナウィルスに感染してしまい、かれこれ一ヶ月以上入院する必要があった。この様に、なんともジェットコースターの如く、上下の激しい人生を送っている彼である。
ただ、今は穏やかに奥様とオランダにて暮らしている。近い内、機会を見つけてオランダに遊びに行きたいと思っている。
アデレードオーバルでのコンサートを始め、ハイスクール時代は様々なライブに行っていたが、大学に入ってからは(ライブに行く機会は)少しずつ減ってしまった。しかしながら、ハイスクール時代に行ったこれらのライブは純粋に、非常に楽しかったという想い出に尽きる。モッシュピットで暴れまくったり。健全な遊びだった。
2024年現在でもアコギを手にしては、当時毎日の様に聴いていたバンドの好きな曲を弾いてみたりする。そうすると、突き抜ける様なアデレードの青空の光景、太陽に照らされた生き生きとした緑の木々、当時周りにいた人との光景、肌を優しく撫でる風などが頭の中に蘇る。(アデレードではなく、狭い東京の世田谷区の空の下だけど)
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