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【2つめのPOV】シリーズ

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#短編小説

【2つめのPOV】シリーズ 第6回 「しがみつく 」Part.2 (No.0219)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

 だいたいは7月頃から本格的な暑さがやってきて、それと同時にセミたちが騒ぎ出します。
仲間を求めて、パートナーを求めて、永い時間暗い土の中で過ごしてきた鬱憤を晴らすように、共感を求めるように元気いっぱいに夏を、命を堪能します。

彼らは暗い土の中で、その日を今か今かと待ち構えております。
時々、土の中に掘ったトンネルの中から出口へとよじ登り外界の

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【2つめのPOV】シリーズ 第5回 「実り 」Part.2(No.0204)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

Part.1のつづき

私はその固く黒い足元の土にクチバシを突き立てて、その土を食らった。
ひどい味だった。なんの旨味も無くとても臭い。どれだけ噛んでも砂やら砂利やらの感触と、いつまでも粘りつく粘土の塊だけが口に残り続けた。

とても飲み込めない。私はすぐさま吐き出した。

ーー違う、これはひどい。これは食べ物じゃない。これは柿とは全くの別物だ。土と柿は全く違う。土

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【2つめのPOV】シリーズ 第5回 「実り 」Part.1(No.0203)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

 私の止まっている民家の屋根からだとあの柿の木がよく見える。私は以前、あの柿の木に命を救われた。

私達カラスは初夏のあたりで巣立ちをおこなう。私もみんなと同じくらいに若鳥として巣を発った。
卵から孵って以来、同じ巣の中からしか見たことがなかった世界を、私は空から眺めることが出来るようになった。両親からは世の中のことを一通り教わってはいたものの、

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回   「波」 まとめ記事

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

もう、時間の感覚は無かった。

あるのは右手に握られたスナブノーズのリボルバーに取り付けられたクルミ材の握りが放つ暖かな感触だけだった。
ポケットにあるのは満タンのスピードローダがあと1つと、バラの9ミリ弾が僅かだけ。

もうだいぶ前からこのショッピングモールの空調は止まっているらしい。
風が無く、熱気がまとわりつく。

分厚いガラス窓から入って

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Last Part(No.0184)

Part.9のつづき

長老の巣穴に連中を入れ、皆で囲むようにして集まりいざ数えて見ますと、なんとあれだけの騒ぎを起こした張本人達の数はたったの6匹だったのです。

奴らの貝殻を取り払い、よくよく姿を見てみますと、自分達と似ているようで似ていない、あまり見かけない種類のカニ達でした。
しかし、中には同じ種類のカニ、それも顔なじみのカニもおり、それに気づいたカニ達は

裏切り者!

と罵声を浴びせ、

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.9(No.0183)

Part.8のつづき

遅れて来といて大声を張り上げる無遠慮なこの若カニに、少々目くじらを立てる古カニもおりましたが、しかしその質問に答えるられるカニはおりませんでした。

この若いカニはズイズイと集会の中へ中へと進みながら声を張って皆に尋ね回りましたが、やはり答えられるものは誰も居ない。

やがて長老の前まで来た若カニは 

長老さん、どうやらこの中には誰も理由を知るものはおりません。
理由がわ

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.8(No.0182)

Part.7のつづき

しかし、いつもの仲間たちとは少し違う、あまり見たこと無いカニ達でした。

どうしてそんなものを被っているの?

と、声をかけたものの、芳しい返事は無くどうにもハッキリいたしません。

みんなのもとに戻ったカニは 

変な奴らだなぁ 

なんて首をひねりながらも、井戸端会議にもうひと花咲かせて呑気に過ごしておりました。

しかし、その晩にまたしても誰かの声で

 危ないぞー 

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.7(No.0181)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

 悲しいことに、人の世にはどんなときでも悪巧みをする輩は居るものであります。

自分の利益のために人を騙す詐欺師っていう奴は、途絶えたことがありません。

ちょっとおつむを冷やしてみれば、子供だって解るような幼稚な詐欺に、普段は肩肘張った大人でも簡単に騙される事があるものです。

いやあ何であんなものにコロッと騙されたものかなぁ、なんて他人事みた

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.2(No.0176)

Part.1のつづき

俺は3つしくじった。

1つ目は走って逃げずに思わず銃を向けてしまったことだ。

すぐにさっきの喫煙所まで戻れば良かったのだ。

メインの通りはだだ広くて狙いが定めづらい。路地に入ってゾンビの行動範囲を狭めれば対処しやすい。しかし、走った時に感じた身体の違和感のせいで俺はこの基本行動に移らなかったのだ。

2つ目は、さっき残弾チェック時にウッカリ撃ち終わった空の部分が一発目

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【2つめのPOV】シリーズ 第4回 「波」Part.1(No.0175)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:D]

もう、時間の感覚は無かった。

あるのは右手に握られたスナブノーズのリボルバーに取り付けられたクルミ材の握りが放つ暖かな感触だけだった。
ポケットにあるのは満タンのスピードローダがあと1つと、バラの9ミリ弾が僅かだけ。

もうだいぶ前からこのショッピングモールの空調は止まっているらしい。
風が無く、熱気がまとわりつく。

分厚いガラス窓から入っ

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【2つめのPOV】シリーズ 第3回 「仕切り」Part.4(No.0163)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

Part.3のつづき

しかし、バニラに袖にされた不人気フレーバーは諦めずにバニラとは反対の、左隣に位置するこれまた人気のないフレーバーに対して、先程バニラに言ったことを話しました。

すると、このフレーバーはまんまと口車に乗ってしまったのです。
彼自身が不人気を気にしていた為に、混ざり合うことで人気になれるという甘い罠に引っ掛かってしまったので

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【2つめのPOV】シリーズ 第2回 「手」Part.3(No.0157)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

[side:F]

ある田舎の田んぼでカエルの卵が一斉に孵化しました。

あちらこちらにそれは沢山の卵塊がありましたから、この季節はおたまじゃくしの運動会のような有様で、それはそれは賑やかでした。

ひとつの卵塊から生まれたおたまじゃくし達は、それは兄弟として仲良く暮らし成長を共に生活していきました。

しかしその田んぼの端っこには、どういうわけか卵塊から外れてゼラ

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【2つめのPOV】シリーズ 第1回 「土台」まとめ記事

『パターンB〈ラウディのサングラス〉』

[Remove sunglasses]

いつの頃からかレジ袋が環境問題の対象として目をつけられ、やれ燃やすとダイオキシンが発生するやら原料が環境に悪いやらと叩かれ続け、その都度の業者の努力も虚しく、遂に完全に有料として扱われることになってしまった。これでレジ袋が使われる量が減ることでゴミとしての量も減りゴミ問題やそれから現れる環境破壊が改善に向かうという

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【2つめのPOV】シリーズ 第1回「土台」Part.4 (No.0147)

パターンC〈セルゲイのMix Up〉

閑散とした会場

中央のリングでボクシングをする二人の選手

ライトに照らされたリング以外は暗く、客の数は少ない

時々出される応援や野次の声と繰り出されるパンチの当たる音

両者のセコンドが出す指示の声だけが鋭く響く

右のまぶたが切れて血が目に入る青いグローブの選手

手が出せず赤いグローブの選手に一方的に殴られる

投げ込まれる白いタオル

誰も騒がず

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