Story of 366.

366の物語たち。

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最近の記事

朝食を食べると…

「行ってきま〜す」 「ちょっと、ユキちゃん、朝ごはんは?!」 「いらなーい」 家を出ようとしたところで母に呼び止められた。 母は私をリビングのテーブルまで連れて行き、椅子に座らせると、 「もう行くんだけど?」 「これだけ食べて行きなさい」 トーストを指差し、そう言った。 「お腹空いてないってば」 「あのね、ユキちゃん。 朝食を食べないと頭や体に栄養が回らなくて勉強にも力が入らなくなるわ」 「でも…」 「夕飯をヘルシーなものにするから、ね?」 「…わかった」 私は渋々

    • 人が動く力

      「何ぃ!今日中に終わらないだとぉ?! なら明日の朝までだ!」 「えぇ…」 「何ぃ!親が危篤だと! だからなんだ!働け!働け!」 「そ、そんな…」 *** 「と言う感じで、全国的に勤務状況が悪化しています。 ひいてはモチベーションの低下、体調不良による退職が増え、働く人の数も減っています。」 「うむ、それは困った事態だな…」 「どうしましょう?」 「よし、では「労働基準法」発令だ!」 「労働、基準法…ですか?」 「あぁ。例えば、労働は週48時間とする。や、理由を問わない休

      • カタチのヒミツ

        「それではこれより昼休憩に入る!」 「は!」 俺はとある国の陸軍に所属するマコロ。 今は訓練中で、これから昼飯だ。 今日は軍から支給されたこれ、コンビーフだ。 俺はこの濃い味付けと独特な風味が大好きなんだ! リュックの中からコンビーフの缶を取り出し、プルトップに指をかける。 カシュッと小気味良い音が響き、蓋が簡単に開いた。 「頂きます」 プラスチックのフォークを差し込み、一口。 「うんうん、この味!」 俺はコンビーフの味を噛み締めながら、ラベルをまじまじと見つめた。

        • 誰にでもある初めての日

          「ぎゃーーーー!!!!」 「まーくん、大丈夫よ! 大丈夫だから落ち着いて!」 「ぎゃーーーーーーー!!!!」 ここはとあるヘアサロンの一室。 個人経営の小さな店内には叫び声が響き渡っていた。 「ぼく、大丈夫だよ! 怖くないよ」 「うぇーーん!怖いよぉ〜」 「ちょっと髪の毛をちょきちょきするだけだよ。 頑張ったら飴あげるからね〜」 「うぇーーん!飴怖いよぉ〜」 今日初めてのカットに挑むまーくん3歳は狭い室内でパニックになっている。 俺はなんとか彼を宥めようとするが… 「

        朝食を食べると…

          たまにはいつもと違う場所で

          「わぁぁぁぁん、お腹すいたよぉぉぉぉぉ!」 「うふふふふ〜 グルメテーブルかけぇ〜」 「うわぁ、すごい! 美味しい料理がいっぱいだぁー! … ってちがーーーーう!!!」 「え?何が違うの?」 「僕はカバだよ?」 「うん、そうだね」 「こう言う時は顔の丸い赤いヒーローが飛んできて甘い顔を分けてくれるんだよ!」 「何それ、ホラー映画?」 「違うよ!うちではそれが普通なの!」 「でも、甘い顔よりいろんな料理の方が良くない?」 「それは確かに…」 「じゃあ、たくさんお食べよ」 「う、

          たまにはいつもと違う場所で

          人それぞれの

          駅前のカフェの道路に面した席を確保した私は、コーヒーを飲みつつ、道行く人たちをぼーっと眺めていた。 「あの女性は、持ち物からして32歳、独身ね。 綺麗めな服を着て急いでいるから、今から彼氏とデートに向かうんだわ」 「あの男の人は55歳ね。 スーツを着て力無く歩いているわね。 きっと大事な商談をおじゃんにしたんだわ…」 一人、そんなことを呟きながらコーヒーに一口口をつける。 年齢や状況は完全に妄想だけど、この人間観察歴20年の私が言うんだから、あながち間違っていないはず!

          人それぞれの

          うさぎのみみちゃん

          わたしのだいすきなえほんは 「うさぎのみみちゃん」 みみちゃんはしろくてふわふわでめがあかいこどものうさぎちゃんなんだけど、わたしとちがって、すごくゆうきがあるんだ。 あるときはおばあちゃんのおつかいにいっぴきでいったり あるときはないているおともだちにこえをかけたり わたしにはとてもむりだとおもうことをしているんだ。 そんなみみちゃんにあこがれて、わたしもこのまえゆうきをだしてみることにしたんだ。 ようちえんでいっしょのくらすのめいちゃんに 「あそぼ」ってこえをかけ

          うさぎのみみちゃん

          説得力

          「うむ!今日もしっかり仕上がっている!」 4月1日、新入社員たちが新たな門出をスタートさせる日。 人事課の課長である私はいつも以上に気合を入れていた。 しわひとつないスーツ、念入りなスキンケア、そして昨日みっちりと追い込んだこの体。 そう、うちの会社はトレーニング器具の製造・販売業社。 生半可な体では、客に示しがつかないのだ。 「さて、今日から新人たちのトレーニング、頑張るぞ!」 私は鏡の前で最高の笑顔を見せると、晴れ渡った青空の下、会社へと足を進めた。 半年後、ひょ

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          桜が満開のこの日、俺は学生生活最後の日を迎えた。 明日は入社式。 厳しく、苦しい就活を終えて、内定をもらえた第一希望の会社に入社し、晴れて社会人になるんだ。 両親が買ってくれた新社会人のお祝いのスーツをハンガーにかけ、持ち物も人事からのメールを見ながら準備した。 3回確認したからもう大丈夫だろう。 さて、残り半日何をしようか。 思い起こせば、俺の学生生活、いろんなことがあったなぁ。 小学校の6年間。 中学校の3年間。 高校の3年間。 大学の4年間… あれ?そう言えば、

          熱狂

          だだっ広いグラウンドの真ん中に立ち、私は空を見上げた。 目の前に広がるのは晴天。 春先の少し冷たい風が心地よく頬を撫でる。 ゆっくりと目を閉じると、沸き立つような歓声が聞こえてくる。 そこは満員の競技場。 日本だけでなく世界中の人たちが熱狂し、選手たちに声援を送っている。 私は割れるような声援を一身に受け、パワーをもらい、そして走り出す。 限界まで早く 自分の出せる力の限り 目を開けるとそこは誰もいない競技場。 さっきまで感じた熱狂はどこへやら、会場内は静まり返っている

          緑の生き物

          「えい!」 「え?なにこの緑の丸いの?!」 「さぁ?そこに落ちてたんだけど?」 ここは北海道阿寒湖 春でも夏でも秋でも冬でも。 ここは私たちの遊び場だ。 そしてある日、いつものように湖畔で遊んでいると、そこに緑のモサモサしたボールるが落ち得ていたのだ。 私たちはそれをしばらく観察していたんだけど、ゆうたくんは相当気に入ったのか家に持ち帰った。 次の日。 「ねぇ、この緑のボール、まりもって言うらしいぜ」 「へぇ〜なんか可愛い名前だね」 「あの辺りにめっちゃ落ちてるってじ

          緑の生き物

          足元の幸福

          「う〜んないなぁ〜」 「ここにもない!」 「ねぇ、本当にあるの?」 「嘘なんじゃないの?」 「絶対あるよ!お姉ちゃんが持ってたもん!」 真剣な表情で地面に這いつくばる友人3人を私はただぼーっと見ていた。 「絶対見つけて願い事するんだから!」 「見つけたら幸せになれるって言うよね」 「どんな願い事しようかなぁ」 「あ、カズちゃん、サボってるー!!!」 ウキウキと願い事を考えていた3人だったが、私が捜索に加わらずにぼーっとしているのを見つけたようだ。 「真剣に探さないと見

          足元の幸福

          思い出の季節

          今年も咲いた満開の桜の下、俺は思い出していた。 20年前の幼稚園の卒園式を。 この頃はまだ卒園がなんなのか?わかっていなかった俺は、父親や母親、友達の親たちが泣いている姿を見て、「何か悲しいことでもあったのかな?」なんて事を園長先生の話を聞きながら、ぼんやりと考えていた。 しかし、その後、大好きだったゆみ先生ともう会えないと聞かされて、大泣きして暴れ回った。 ゆみ先生は泣きながらも笑顔で「いつでも遊びに来ていいからね」と言ってくれて、なんとか納得して家に帰ったんだけど、結局

          思い出の季節

          時代は歌と共に

          いつだって時代は歌と共に移り変わってきた。 最新のアニメソング 激しいロック ダンスで魅せるヒップホップ 可愛さ勝負のアイドルソング 子供が歌ったり 食べ物が主役になったり そう、いつでもどんな時でも、人々は歌と共にあり 歌と共に生きてきた そして今から約110年前に大ヒットしたこの歌も… 今ではもう当時を懐かしむ人はいない。 それでもこうしてこの歌は歌い継がれ、そしていつまでも記憶に残っていくのだ。 *3月28日 カチューシャの歌の日 * 1914(大正3)年のこ

          時代は歌と共に

          「バブバブ〜」 「あ〜ちゃん、今日はとってもいいお天気なので、ベビーカーでお出かけしましょうか〜」 「バブ〜」 「そう、あ〜ちゃんは本当にお散歩が大好きですね〜」 「ねぇ、どうして葉っぱは緑から赤とか黄色になるの?」 「お、あ〜ちゃんは知りたがりだねぇ〜 ちょっと待ってね… ふむふむ、葉っぱにはクロロフィルって言う緑色の色素があって、これが寒くなると分解されてアントシアニンっていう赤色の色素に変わるらしい。」 「へぇ〜」 「興味ないんかーい!」 「いや、そうなんだ。と思って

          なりたい私

          母と一緒に歩いた高級百貨店のショーウィンドウに並ぶマネキンたち。 その堂々とした出立ちと細かい縫製の衣服、そして煌びやかな装飾に私は心を奪われていた。 そして思ったんだ。 「いつかマネキンになりたい!」 あの服を着たい!でもなく、モデルになりたい!でもなく、ただひたすらにマネキンになりたかった私はどうやったらマネキンになれるか必死に検索した。 しかし… 「ダメだ、どこにもマネキンになる方法なんて書いてない」 当然、マネキンになれるための情報なんて何一つ見つからなかっ

          なりたい私