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映画『Cowspiracy: サステイナビリティ(持続可能性)の秘密』

2014年/製作国:アメリカ/上映時間:85分 ドキュメンタリー作品
原題 Cowspiracy: The Sustainability Secret
監督  キップ・アンデルセン キーガン・カーン



予告編(海外版)


本編



レビュー

 「結局我々は敵の言葉ではなく、味方の沈黙を記憶する」
 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア

 という言葉にて始まる本作は、地球温暖化が、この地球上で生活する全ての命にとって、またその生命活動の維持と持続にとって、如何に密接に関係している重要な問題であるのか(その原因となっている破壊や汚染を含めて)、また現在の人類の食事がどれ程、そしてどのように温暖化の加速に影響を与えているのかをわかりやすく解き明かしてくれます。

 インタビューが中心且つ、暗くて笑えない問題を扱ってはいますけれども、サスペンス要素や探偵要素を盛り込み、鑑賞者がドキドキしたりワクワクしたり、謎解きでヒヤヒヤしたりと最後まで興味を持って楽しめるよう工夫している点に好感を持ちました。そして、ラストではきちんと解決策を提示して終わるのも頼もしくて良かったです。


 作品冒頭、「(国連の調査にて)温室効果ガスの排出量は畜産業によるものが圧倒的に多く、さらに畜産業が環境破壊に繋がる資源消費の最先鋒でもあるとわかっているのに、政府や環境保護団体は何故その問題から目を逸らすのか」という疑問を持った監督が、自ら調査取材を開始します。
 すると畜産業のみならず、政府や環境保護団体の深い闇の繋がりとシステムを探り当ててしまうこととなり……

 畜産業は人々が肉を大量に消費することにより莫大な利益をあげていますが、その商品としての家畜の生産過程は工業化されており、家畜を飼育するための大量の餌(土地)と水とを確保する過程においては、熱帯雨林を潰して飼料用の畑や放牧地にする等の様々な自然破壊が行われています。
 そのような行為等によって温暖化や環境破壊は現在恐ろしいスピードで進行しており、さらには当然のように野生動物や植物の絶滅もそれと比例して進行しています。いわゆる負の連鎖です。

 もちろんそれだけでは話は終わりません。家畜は排泄をしますけれども、その大量の排泄物は世界中の川に流されていて、世界中の海において500ヵ所以上の酸欠海域を生み出すこととなっており、陸地のみならず、川や海の汚染までをも引き起こしています。
 陸・海・空の全てで汚染or破壊が発生するという、負の連鎖の極と言っても良い惨状……

 しかし、これらの問題の解決策はとてもシンプルで「人々が肉と乳製品と卵の消費量を大幅に減らす(or出来れば食べない)」という行動をするだけで解決へと導くことが可能です。
 ちなみに、ハンバーガーを一つ生産するのに必要とされる水の量は、2千5百リットル。牛肉500グラムの生産には1万リットルの水が必要という研究結果があるとのこと。

 また、畜産用に使用している水と穀物(土地)を人間用へと転用すれば(穀物は家畜用の遺伝子組み換えから、そうではないものへと変更)、飢餓や貧困に苦しむ世界の人々を十分に養えるだけの食料と水を得ることが出来るということが既にわかっています。
 しかしそれをわかっていながら、世界中の政府や世界的に有名な環境保護団体(ほぼ全て)は、この問題と事実を人々から隠そうとします。
 一体何故、何のためにそんなことをするのでしょうか?

はい、今皆さんの頭にピコーンと浮かんだであろう言葉で大正解です。

「お金」のためです。

 
 ●【環境保護団体が事実や真実を語らず、それらの事実を隠蔽する理由】

 『これ、食べていいの?:ハンバーガーから森のなかまで―食を選ぶ力』の著者、マイケル・ポーラン曰く、

 「彼らは政治的に負け犬なのさ。多くが会員制の団体だろ?会員数は可能な限り増やしたいわけだ。大勢が共有する習慣に反する主張をしてしまうと、資金集めに影響が出る」
 ※これは「資金」の部分を「いいね!」や「スキ」に置き換えると、まるでSNSのことを語っているようにも聞こえて面白いですよね

 真実や事実を訴えた人々が沢山殺されたから。
 過去20年の間に(2015年日本訳版発売の書籍の内容による)、ブラジルで殺された活動家は1100人以上いらっしゃるそうです(そのひとり一人にお名前や人生や家族や愛する人がいらっしゃっるわけで……、本当に×3悔しい)。
 ※ちなみにブラジルは世界で最もキリスト教徒の多い国のひとつです
 ちなみにキリスト教徒の多い国ベスト3は、アメリカ、ロシア、ブラジル

③畜産業界から経済的な支援という形の「お金(収入)」を得ているから。


 ●【政府(政治家)が事実や真実を語らず、それらを隠蔽する理由】

 ①アメリカという国を取り仕切っているのは、もはや政治家ではなく大企業や畜産業界、医療業界等の企業や団体組織だから(←訴えられることを避けるためか、作品内では殆ど言及されておりません)。

 ②主に選挙資金の調達や政界引退後に世話をした団体の名誉職等に就くなど、在職中の根回しや退職後に合法的に支払われることとなる裏金を受け取るために各業界の傀儡となる。また、ロビイストによる業界からの圧力の闇も深いため、企業との関係を断って政治家となることはとても難しいようで、さらにはなった後にも様々な場面にてあの手この手で行く手を阻まれ、かなりの困難を経験することになるとのこと(←作品内では殆ど言及されておりません)。

 話が少しズレますけれども、肉の生産業者への国からの高額な補助金等は、当たり前のように国民からの税金として徴収されています。最終的に儲かるのは政治家と国内大手の生産者となります。さらに国民は肉食中心の食生活により健康を害し高額な医療費も支払う羽目になります。
 アメリカにおける食品業界&医療業界と政府関係者の強力なパートナーシップは、とても有名ですよね(ということは日本も全く同じ状況を呈しているという……)。


 【本作の印象に残った言葉達】

 ・人々はなかなか重い腰を上げようとしません。実態を聞くと(肉を貪りまくって環境破壊に加担しまくってきた自分の罪に気付いて)罪悪感を感じてしまうので、知ろうともしない。でもそんな悠長なことは言ってられません。今すぐ行動を起こさないと

 ・回答者:「動物と環境の保護活動こそ国内のテロ驚異のトップと、FBIまでが言う」
質問者:「その理由は?」
回答者:「企業の利益に打撃を与えかねないからだと私は考えています。畜産が環境破壊に及ぼす影響力を調べようにも、政府は情報提供を拒むのです。国家の安全や治安維持、商標問題や企業秘密など様々な理由を挙げて国民に真実を知らせない。世界一の権力を持ち、環境に影響を与えながら、実態を明かしません。政府機関に請求して得た情報によると、私はテロ対策部により、発言を監視されていました」
質問者:「映画の公開は危険でしょうか?」
回答者:「法的情報源の豊富な連中を敵に回します。相手が使える資金は莫大なものです。相手に恐怖を抱かせるのも戦略でしょう」

 ・問題は畜産よりも人口過多だという人がいる。(中略)。地球上に存在する家畜の数は700憶に上るのだ。人類は毎日200憶リットル近い水を飲み、約10憶キロの食料を食べる。一方15憶頭の牛は毎日1700憶リットルの水を飲み、600憶キロ近い餌を食べるのだ。人口じゃなく、人間が食べる動物こそが問題だ

 ・「飢えに苦しむ子どもたちの82%は、家畜業が盛んな国々で暮らしている。だが作られた製品は先進国へと送られるんだ」

 ・「遺伝子組み換え作物を正当化する者は、溺れる者に水を飲ませているのと同じだ」

 ・「タンパク源として考えれば、植物系の方が肉より15倍も多く生み出せる。同じ広さの場合どんな環境だろうと、植物の方が生産性は高い」

 ・「動物を食べる人間は環境保護主義者じゃない。誰が何を食べようと構わないが、環境保護主義者とは名乗らせない」

 ・「皆が完全菜食主義を選択し、食料を動物性から植物性に変えればどうなるか。動物を殺して食べないのであれば、牛や鳥や豚や魚の繁殖が不要になるだろう。繁殖し続けなくていいのなら餌も必要なくなる。餌が不要なら(遺伝子組み換え)穀物も豆類も必要ない。(無駄な穀物生産をカットすることで必要な農地が減少することにより)それを育てる畑も不要なら森林が復活して、野生動物も戻る。海も復活し川の水も綺麗になり、人々は健康になる」

 
 本作では、「『肉食』中心から『菜食』中心になりましょう」というのが最終的な解決策として提示されていますが、現在の一般的な日本人はそれを聞くと、「それは極端だ!」とか「肉をあまり食べられないなんて嫌だ!」とか「そもそも健康問題として大丈夫なの?」と思われるのではないでしょうか。
 そのお気持ちは10年前の私もそうでしたので、よくわかります。
 しかし私は現在、肉、乳製品、卵をほぼ食べない食生活をしていますけれども(ゆるヴィーガン。外食時等ハレの日には肉も魚も食べる人)、全く問題ありません。それどころか風邪すら引かない健康体です。
 食事を菜食中心に変更すると、体がどのように(良い方へと)変化するのかもよ~くわかっています。
 自分の体も健康になり、自然破壊にも加担しなくて済むわけですから、食事を菜食中心にしないという選択肢は個人的には「無い」です。
 
 本作、かなりおすすめです。


 あと全然関係ないのですけれども、抱き合わせでこういう作品を観るのも面白いかも?(笑)


STORY
 肉屋夫婦のヴィーガン狩りを描く、ブラックユーモアが冴えわたる大繁盛痛快🥩肉食コメディ
 ヴィンセントとソフィーは結婚30年。すっかり倦怠期に陥り、家業である肉屋の経営も厳しい。ある日、店がヴィーガンの活動家たちに荒らされ、ヴィンセントが犯人の一人を殺してしまう。死体処理に困ったヴィンセントはハムに加工するが、ソフィーの勘違いで店頭に出すと図らずも人気商品に……。
 戦慄の人間狩りと夫婦愛を両立させた不謹慎な笑いが満載。


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