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書籍『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機 』

ベス・メイシー (著) 神保哲生 (翻訳)
出版社 光文社‏
発売日 2020/2/19
単行本 488ページ




著者紹介

メイシー・ベス  Macy Beth
 バージニア州ロアノートに拠点を置き、30年にわたり取材活動をしているアメリカのジャーナリスト。
 著書の『Factory Man』(2014)、『Truevine』(2016)は高い評価を得、ベストセラーとなった。ハーバード大学のジャーナリストのための特別研究員「ニーマン・フェローシップ」を含む、12を超える全米での賞を受賞。本書はロサンゼルス・タイムズ書籍賞を受賞し、カーネギー賞の候補となった

本書より


目次

目次を全て記載しているのは、今のところネット上で本記事のみかも

 訳者まえがき
 はじめに
 プロローグ

第1部 市民対パデュー
 第1章 アメリカ健忘症合衆国
 第2章 接待攻勢
 第3章 ネット掲示板に託す思い
 第4章 企業は痛みを感じない

第2部 姿が見えた時はもう手遅れ
 
第5章 郊外への広がり
 第6章 「イエス様が入ってくるような気分」
 第7章 FUBI(証拠があるなら持ってきな)
 第8章 終わりなき戦い

第3部 壊れたシステム
 
第9章 運び屋
 第10章 限界局面
 第11章 連絡先リストに託す希望
 第12章 正しいのはどっちか
 第13章 排除と包摂ほうせつ

エピローグ 兵士の病
謝辞
解説 トランプ現象とオピオイド危機と日本

本書「目次」より


内容解説

 本書は今や全米で猛威をふるっているオピオイド依存症の最初の発火点となったアパラチア中央部に位置するシェナンドー・バレーの地方都市の地元新聞社の記者だった筆者が、いかにしてオピオイド危機がこの地域から全米へと広がっていったかを、徹底した現場取材に基づいて克明に綴ったドキュメントだ。
 本書には医師の処方が必要な鎮痛剤のオピオイドがアメリカの田舎町を侵食していく過程や、製薬会社と医師の癒着した共謀関係、津波のような勢いで広がっていく依存症に太刀打ちするにはあまりにも不備が多い現在のアメリカの医療体制や医療保険制度と政治体制の現実、そして多勢に無勢を覚悟の上でこの難問に戦いを挑み続ける市民や被害者家族の苦しくもたくましい姿などが実にリアルに描かれている。

本書「訳者まえがき」より


レビュー

 コカインにしてもクラック《煙草で吸引可能な状態にしたコカイン》にしても、新種の麻薬の流行は通常、依存症者(ユーザー)の多い大都市から徐々にその周辺へと広がり規模を拡大してゆくパターンが常であったが、薬品のていを為して売りさばかれたオピオイドの場合はその逆で、政治的に無視されやすい過疎の村や漁村の多い、且つ依存症者が治療を受けるための医療インフラも未整備である地域から広がっていったとのこと。
 要するに、貧乏人から狙い撃ちしたということである。
 金の亡者である悪党共は、いつの時代も狡猾こうかつで、悪行の実行に関しては非常に優秀な能力を発揮する。

 オピオイドの依存症汚染は、病院にて処方された「処方薬」から始まる。
 薬品会社はまず、偽のデータを記した資料(パンフレット等)を作成し嘘の効能をバラ撒きつつ、医師等の医療従事者を接待等により(要するに金の力で)懐柔かいじゅうし、病院を訪れた患者にオピオイド(鎮痛剤という薬品の体をした強力な麻薬)を処方させる。患者の多くは医師を信じきっているためオピオイドが麻薬であるなどとはつゆ知らず使用するが、一度でも使用すれば麻薬中毒となり、あとは破滅へと向かってまっしぐらに突き進むこととなる。
 ※その被害規模は記すのも辛いため、知りたい方は本書を確認してほしい
 当然ながら薬(麻薬)は売れまくり、その利益でもって製薬会社はより多くの医師を懐柔し、やがては政治家をも懐柔。そうして法的にも優位に立ち、更に麻薬を売りまくり私腹を肥やしまくるという……

 製薬会社はそうなることを最初からわかっていてやるのだから、まさに悪魔の所業であると思うし、便乗した医療関係者や政治家達もまごうことなき悪魔である。
 にしても、医師がディーラーとなり稀に見る依存性を誇る麻薬を売りさばくなどという事態は、本来はあってはならない事ではあるが、今後この手法は形を変えて、頻繁に使われるようになるに違いない。
 というか既に、その手法は速攻で応用され、現在世界中に人類史上類をみない薬害をもたらしている。
 悪党共は非常に優秀であるから、オピオイドの件からしっかりと学びを得て、今度は危険な薬品の使用者に対し「自己責任で打ちます」との書類に、「サイン」をさせた上で打たせた。それによりサインした人々やその家族はその薬品が重篤な副作用や死をもたらすような結果を招いても、訴訟において、絶対に勝利することが出来なくなってしまった。
 さらにその薬品の購入費用は政治家を懐柔することにより、「税金」により支払われるものとしたため、莫大な売り上げを好き勝手に徴収可能となったのである。しかもそれだけではない……(以下略)
 
 悪党共には倫理観の欠片も無く、その人間性は最悪であるけれど、頭脳は非常に明晰、且つ勤勉で実行力も高く、学習した汚いやり口をきっちりと次世代へと引き継ぎ、子孫繁栄を志向し、おまけに潤沢な財力まで保有する、ある意味非常に優秀な人々であるということを、私たちはしっかりと学んだ上で片時も忘れてはいけないのだが……
 残念ながら大抵の場合、学びもしなければ学んでも直ぐに忘れてしまうのであった……

 話は飛ぶが、インターネットの普及に伴いその利用者を爆発的に増やすこととなった「評価機関」による「病院のランク付け」も、オピオイドによる被害拡大に大きく関係したとされている。
 患者たちが医療機関をランク付けするようになったことにより、医師や病院はこれまで「患者」と呼ばれていた人たちを医療サービスの「消費者」として位置づけ、お互いに競争しなければいけなくなってしまい、それゆえに「患者という顧客」を満足させるために(患者から高い評価を得るために)、医師や病院は痛みに対しても積極的に対応しなければならなくなっていたとのこと。
 そういった状況もまた、「鎮痛剤」というていの「麻薬」の大量流失の余地を生んでしまったのである。
 また本書巻末の「解説」でも指摘されている通り、グローバル化(デジタル社会)の急速な進行に伴い、人と人との繋がりが希薄になってしまったことにより生じた、メディアを含むアメリカ社会全体の劣化が、被害の拡大を許してしまった原因のひとつであることも、疑いの余地のない事実であろう。

 と、まだまだ記したいことは山とあるが、キリがないためレビューを終えるが、最後に一言……
 アメリカの薬物問題を、その歴史(流れ)を含めて一通り知ることの出来る第一級のルポタージュであり、(不謹慎ではあるけれど)一流のサスペンスとしても楽しめてしまう本書は、とてもおすすめの一冊である。
 
 ※2022年に「文庫版」が出版されております


DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機|予告編|Disney+ (ディズニープラス)

※書籍を読むのが苦手な方は、ドラマ版がおすすめ



動画『ドラック汚染のリアル』

※関連資料として


動画「オピオイド依存症」となるとどうなってしまうのか


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