書籍『DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機 』
ベス・メイシー (著) 神保哲生 (翻訳)
出版社 光文社
発売日 2020/2/19
単行本 488ページ
著者紹介
目次
※目次を全て記載しているのは、今のところネット上で本記事のみかも
内容解説
レビュー
コカインにしてもクラック《煙草で吸引可能な状態にしたコカイン》にしても、新種の麻薬の流行は通常、依存症者(ユーザー)の多い大都市から徐々にその周辺へと広がり規模を拡大してゆくパターンが常であったが、薬品の体を為して売りさばかれたオピオイドの場合はその逆で、政治的に無視されやすい過疎の村や漁村の多い、且つ依存症者が治療を受けるための医療インフラも未整備である地域から広がっていったとのこと。
要するに、貧乏人から狙い撃ちしたということである。
金の亡者である悪党共は、いつの時代も狡猾で、悪行の実行に関しては非常に優秀な能力を発揮する。
オピオイドの依存症汚染は、病院にて処方された「処方薬」から始まる。
薬品会社はまず、偽のデータを記した資料(パンフレット等)を作成し嘘の効能をバラ撒きつつ、医師等の医療従事者を接待等により(要するに金の力で)懐柔し、病院を訪れた患者にオピオイド(鎮痛剤という薬品の体をした強力な麻薬)を処方させる。患者の多くは医師を信じきっているためオピオイドが麻薬であるなどとはつゆ知らず使用するが、一度でも使用すれば麻薬中毒となり、あとは破滅へと向かってまっしぐらに突き進むこととなる。
※その被害規模は記すのも辛いため、知りたい方は本書を確認してほしい
当然ながら薬(麻薬)は売れまくり、その利益でもって製薬会社はより多くの医師を懐柔し、やがては政治家をも懐柔。そうして法的にも優位に立ち、更に麻薬を売りまくり私腹を肥やしまくるという……
製薬会社はそうなることを最初からわかっていてやるのだから、まさに悪魔の所業であると思うし、便乗した医療関係者や政治家達もまごうことなき悪魔である。
にしても、医師がディーラーとなり稀に見る依存性を誇る麻薬を売り捌くなどという事態は、本来はあってはならない事ではあるが、今後この手法は形を変えて、頻繁に使われるようになるに違いない。
というか既に、その手法は速攻で応用され、現在世界中に人類史上類をみない薬害を齎している。
悪党共は非常に優秀であるから、オピオイドの件からしっかりと学びを得て、今度は危険な薬品の使用者に対し「自己責任で打ちます」との書類に、「サイン」をさせた上で打たせた。それによりサインした人々やその家族はその薬品が重篤な副作用や死をもたらすような結果を招いても、訴訟において、絶対に勝利することが出来なくなってしまった。
さらにその薬品の購入費用は政治家を懐柔することにより、「税金」により支払われるものとしたため、莫大な売り上げを好き勝手に徴収可能となったのである。しかもそれだけではない……(以下略)
悪党共には倫理観の欠片も無く、その人間性は最悪であるけれど、頭脳は非常に明晰、且つ勤勉で実行力も高く、学習した汚いやり口をきっちりと次世代へと引き継ぎ、子孫繁栄を志向し、おまけに潤沢な財力まで保有する、ある意味非常に優秀な人々であるということを、私たちはしっかりと学んだ上で片時も忘れてはいけないのだが……
残念ながら大抵の場合、学びもしなければ学んでも直ぐに忘れてしまうのであった……
話は飛ぶが、インターネットの普及に伴いその利用者を爆発的に増やすこととなった「評価機関」による「病院のランク付け」も、オピオイドによる被害拡大に大きく関係したとされている。
患者たちが医療機関をランク付けするようになったことにより、医師や病院はこれまで「患者」と呼ばれていた人たちを医療サービスの「消費者」として位置づけ、お互いに競争しなければいけなくなってしまい、それゆえに「患者という顧客」を満足させるために(患者から高い評価を得るために)、医師や病院は痛みに対しても積極的に対応しなければならなくなっていたとのこと。
そういった状況もまた、「鎮痛剤」という体の「麻薬」の大量流失の余地を生んでしまったのである。
また本書巻末の「解説」でも指摘されている通り、グローバル化(デジタル社会)の急速な進行に伴い、人と人との繋がりが希薄になってしまったことにより生じた、メディアを含むアメリカ社会全体の劣化が、被害の拡大を許してしまった原因のひとつであることも、疑いの余地のない事実であろう。
と、まだまだ記したいことは山とあるが、キリがないためレビューを終えるが、最後に一言……
アメリカの薬物問題を、その歴史(流れ)を含めて一通り知ることの出来る第一級のルポタージュであり、(不謹慎ではあるけれど)一流のサスペンスとしても楽しめてしまう本書は、とてもおすすめの一冊である。
※2022年に「文庫版」が出版されております
DOPESICK アメリカを蝕むオピオイド危機|予告編|Disney+ (ディズニープラス)
※書籍を読むのが苦手な方は、ドラマ版がおすすめ
動画『ドラック汚染のリアル』
※関連資料として
動画「オピオイド依存症」となるとどうなってしまうのか
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