2019年/製作国:ドイツ/上映時間:94分 ドキュメンタリー作品
原題 Jenseits des Sichtbaren - Hilma af Klint 英題 Beyond the Visible – Hilma af Klint
監督 ハリナ・ディルシュカ
予告編(日本版)
予告編(海外版)
内容説明
レビュー
ヒルマの生きた時代に女性が知識と感性、さらにはオリジナルの芸術性を獲得するに至るには、そうとうに恵まれたそれなりの環境を必要としたが、ヒルマは選ばれし者であるかのように、恵まれた家庭に誕生した。
理解ある父親は娘に(と言ってもヒルマ自身もまた聡明であったがゆえに父も娘の教育に力を注いだのであろう)、数学、天文学、航海術、等を教えた。
その後、ストックホルムの技術学校にて肖像画を学び、スウェーデン王立美術学院に入学、卒業。
ここまでの過程で、ヒルマは教養と美術の基礎を身につけ、その後の人生に重要な人脈を得たに違いない。
その後、自らの画によって稼いだ資金を元に、科学や博物学等の情報を蒐集しその見識を広げていったとみるのは、あながち的外れな想像ではないように思うけれども、素晴らしいのはヒルマが世界を感じ、理解し、認識するために、総合的な学びを生涯に渡って行うための計画を、若い時分から立てていたことである。
そしてヒルマは様々なものを写生するうちにある地点に達し、【この地球上の形あるものには共通する「法則」がある】ことに気付いたのであろう。
そして決意し、更なる学びを積み重ねつつ、実行する。
ヒルマはトップで時代を駆け抜け、論理的でありながら美しい作品を数多く制作するが、時代の壁(「男社会」の壁)は厚く、無視され、無き者にされ、それどころかその功績を奪われた挙句、模倣までされた可能性すらある。
※本作ではカディンスキーがシュタイナーを通してヒルマの作品に関する情報を得ていた可能性を、「それとなく」「さらりと」しかしながら「しっかりと匂わせて」示唆している
だがそれでもヒルマは屈することなく奮闘した
※「舞台」というのは「人生という舞台」のことであろう
しかし、ヒルマの作品(抽象画)は最後まで(身内や友人以外には)無視され続けることとなった。
だが、ヒルマは確信していたに違いない。自分の作品が世に出たならば、必ずや理解される日が来るであろうということを。
そのヒルマの死から80年後、識者達は以下のように話した。
※上記コメントと同時に、鋭い指摘の面白いポスターが提示されますゆえ、ぜひ本作を鑑賞の事
本作の監督はハリナ・ディルシュカ。
その編集はとてもエキサイティングで、人々のインタビューの内容、そして監督自身の考えをも巧みに組み合わせ、且つ多数のヒルマの作品を惜しみなく提示しつつ、その言葉を的確に配置して見事であった。
圧巻は、ヒルマのスケッチに描かれた場所を特定しそのスケッチが如何に正確なものであったか(ヒルマの画家としての実力が如何に高レベルに達していたか)、またヒルマの連作が如何に「論理的」「科学的」且つ明確な「意図」と「意思」でもって構築されていたかを解き明かした、シンプルでありながらこれ以上ない説得力を持つ、その手法である。
本作が長編第一作であるとのことであるが、緻密で丁寧な、心のこもった傑作であった。
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書籍
個人的なメモ
ヒルマはいわゆるヴィーガンであった。
とても納得。
『吐く 吸う』というシンプルな作品に、長年の呼吸に関するイメージを具現化してもらえた。
ヒルマの作品群は、人を虜にする魅力と知性を併せ持つ、稀有な芸術だ。
有名美術館に飾ってある大抵の作品達は、通常、そのどちらかしか持ち得ないのだから。