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映画『ペギー・グッゲンハイム アートに恋した大富豪』
2015年/製作国:アメリカ、イギリス、イタリア/上映時間:96分
ドキュメンタリー作品
原題 Peggy Guggenheim: Art Addict
監督 リサ・インモルディーノ・ヴリーランド
予告編(日本版)
予告編(海外版)
※内容は同じなのですけれども、日本語無しの方がデザイン的にスッキリしており本作の雰囲気をより感じることが出来るため、ペタリンコ
STORY
1889年、ペギー・グッゲンハイムは裕福な家系に生まれた。
しかし父親をタイタニック号沈没事故で亡くす等の家庭の不幸が重なり、伝統と格式に満ちた世界に馴染めなかったペギーは、1920年代はじめに最も華やかであった頃のパリへと移住。そこで綺羅星のごとき前衛芸術家たちと知り合い、美術作品のコレクターとしての歩みを始める。
第二次世界大戦時には芸術家たちのアメリカへの避難を支援。信頼を不動のものにすると共にさらなる「親密な交流関係」へと繋げ、自らの現代美術コレクションを充実させてゆく。
その後、ロンドンとニューヨークにギャラリーを構え、主にアメリカの前衛芸術家たちのパトロネスとなり美術界を最前線で牽引し、伝説となる。
第二次世界大戦後の1948年、ヴェネチアのカナルグランデ沿いにパラッツォ・ヴェニエル・ディ・レオーニという由緒ある邸宅を購入。自らのコレクション展示室を備えた自宅へと改装。その邸宅は現在、ペギー・グッゲンハイム・コレクション美術館として一般公開されており、「質」「量」共に超一流の個人コレクション美術館として、世界中から訪れる来館者の目を楽しませ続けている。
ペギー本人のインタビュー音声、20世紀を代表する芸術家たちの貴重な映像、そしてペギーゆかりの人物たちへのインタビューを中心に構成される、「世間知らずな令嬢」が「稀有の美術コレクター」となり、ついには「伝説のパトロネス」へと成長し、喜びと悲しみの狭間にその生涯を閉じるまでの、華麗な遍歴を描くドキュメンタリー。
レビュー
第二次世界大戦の影響により、パリ(フランス)からニューヨーク(アメリカ)へと美術の拠点が移り変わってゆく流れ、高名な芸術家達のちょっとした素顔、現代アートが広く一般に浸透してゆく過程のワクワク感が、とても面白かったです。
そしてひとりの女性の、力業で生き抜いた人生に、感銘を受けました。
かの時代に、「心を開く前にまず股を開く」こともいとわず(そうすることにより男性たちの心を一気に開かせたのかもしれません)、相手の感性や知識、作品、更には人間関係までをも貪欲に自身に取り込むことにより、その世界をあらゆる方向へと急速に拡張していったペギーのバイタリティーには、尊敬の念を抱かざるを得ません。
ペギーは色魔でも変人でもなく、あらゆる欲望を強く持つ、しかし途轍もなくオープンで正直な、稀代の努力家であったように思います。
またその強烈な生き方は、間違いなく「ある時代の美術の流れを左右した力」のひとつであったことでしょう。
最も印象に残ったのは、ペギーが、まだ無名のジャクソン・ポロックの作品を鑑賞し「酷い作品よね」と評すと、一緒に鑑賞していたモンドリアンが「僕にとってはニューヨークで見た作品の中で最も興味深い作品だ」というような発言をし、それを聞いたペギーが自身は全く作品の価値を理解出来ておらず、且つまた好きでもないくせにポロックへの評価を瞬時に覆し、更にはポロックのパトロネスとなり、売れっ子画家となるまでその生活を支えたエピソード。
「金」や「名声」等への欲望やその香りを嗅ぎつけての「投資」的な要素が少なからずあったにせよ、評価すべきはそういった側面よりもむしろ、自らの至らない感性や思考を「信頼する芸術家の(自身とは真逆の)一言」により、即座に180度変更することの出来る(自身の間違いを直ぐさま完全に認めることの出来る)、その瞬発力と決断力の速さ、柔軟性(君子は豹変す)、そしてビジネスセンスであり、その凄まじさには思わず仰け反りました。
※ちなみにそういった能力は間違いなく肉体関係が豊富であったこととも連動しているとみて間違いないように思います。何故ならそれらは「相手のナニかを受け入れる行為」であるから
ペギー・グッゲンハイム・コレクション。
それは「欲望」と「受容」、そして「戦い」と「喜び」の軌跡。
古都ヴェネチアに煌く水の光のようにいつまでも人々の心に残る、一人の女性の、輝きの記憶。
追伸
ペギーは心の何処かが、絶望的なまでに満たされることのなかった女性なのではないかと思う。
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