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書評

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#感想

『タコピーの原罪』感想

『タコピーの原罪』感想

 何よりもまず目を引くのは、タコピーと久世しずか(及びその周辺人物)との対比だろう。理想的な道徳観念、つまり綺麗事に生きるタコピーは、「現実の厳しさ」に直面する。ここでいう道徳観念は、宗教的理念と言い換えても構わない。
 古代において人間は、一方的に与えられる神からの教え(宗教的理念)を至上のものとして受け入れた。作中冒頭におけるタコピーの顕現は、つまるところその再演に他ならない。タコピーの故郷で

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「なめらかな世界と、その敵」感想————「時代」と「共存」

「なめらかな世界と、その敵」感想————「時代」と「共存」

2020年という大きな区切り、一つの時代の転換点が、目の前にある。本作には、まさにその「転換」と、「それ以前」を象徴するエッセンスが見られる。そしてしつこいくらいに追求されているのが、対立するものの「共存」。興味深いのは、作者は作中、あらゆる「転換」あるいは「幕開け」において、そこに少なからず希望を見出していることだ。各短編は全く別個に書かれたモノであり、こうした視点で読むことに疑いを持つことは避

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「星か獣になる季節」(最果タヒ)  感想

「星か獣になる季節」(最果タヒ)  感想

「ぼく」の視点で描かれる、青春の夏。殺人の容疑をかけられたアイドルを救うため、信じがたい行動に出る森下を、じっと近くで眺めている。明らかに異常な彼らの夏に、何故か共感できてしまうのは、丁寧な筆致は勿論のこと、そこに描かれる青春の姿が、現実のそれをあまりに美しく切り取っているからに他ならない。

誰もが正しさと誤りを持ち、時にそれは両立する。誰かが悪になれば、その行いは全て悪行と解釈されるし、どんな

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