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杜撰さと効率性:理解と受容のバランス

杜撰脱漏(ずさんだつろう)
→ いい加減で、誤りが抜けが多いこと。

誰しもが一度は、あの人はちょっといい加減だなとか、これって杜撰な設計だなと感じる経験をしたことがあるだろう。

かくいう私もその1人で、普通の人よりも同じことを感じる場面が多いかもしれない。

ただ、そう思った経験について、その背後にはどんな理由やメカニズムがあるのか、そんなことまでは考えたことがあるという人は稀だろう。

ということで、日常でよく感じる「いい加減さ」や「杜撰さ」の背後に潜むストーリーを探ってみようと思う。

そして、実はこれらの性質が全て悪いとは言えないこと、むしろある程度の杜撰さが物事を進める上で役立つこともあるという事実も紹介していこう。

「いい加減」と「杜撰」を感じる心理メカニズム

ということで、まずは「いい加減」と「杜撰」を感じる心理メカニズムについて書いていこう。

1. 期待と現実のギャップ

人は事前に持っている期待や前提と実際の結果や行動が一致しないと、それを「いい加減」と感じることがある。

特に高い期待を持っていた場合、ギャップが大きいと感じる傾向にある。

2. 習慣や慣習からの逸脱

社会や文化、コミュニティに根付いている習慣や慣習からの逸脱があると、それを「杜撰」と感じることがある。

3. 人の比較とジャッジメント

他人との比較に基づいて、自分や他人の行動を評価するとき、「いい加減」と感じることがある。

特に、他人との差が大きいときにこの感覚は強まる。

4. 自己中心的バイアス

人は自分の行動や考えを基準として、他人の行動や考えを評価することがある。

このとき、自分と異なる行動や考えを「いい加減」という感情が生まれやすくなる。

5. 人間の認知制約

人は情報を処理する能力に限界がある。

そのため、簡略化や一般化をして物事を理解しようとする。

このとき、簡略化された情報や一般化された情報を元に「いい加減」という感情が生まれやすくなる。

「いい加減」や「杜撰」を感じるメカニズムを立証する研究および実験

まずは、期待と現実のギャップについての実験から紹介していこう。

ロゼンタールの自己成就予言実験

  • 実験内容:教師に一部の生徒は特別な能力があると伝え、その生徒の成果に影響が出るかを調査したものだ。

  • 成果:期待されている生徒は実際に高い成果を示しており、期待が行動や結果に影響を及ぼすことが明らかとなった。

次に、習慣や慣習からの逸脱というところでの観察を紹介しよう。

タジフェルの社会的アイデンティティ理論

  • 実験内容:無意味な基準でグループ分けをした後、グループ内外での評価や行動を観察するというものだ。

  • 成果:人々は自分のグループを好意的に評価し、他のグループを批判的に評価する傾向があることがわかった。

それから、人の比較とジャッジメントについての理論にも触れておこう。

フェスティンガーのソーシャル・コンパリゾン理論

  • 実験内容:人々が他者との比較を通じて自己評価を行うメカニズムを研究したものだ。

  • 成果:人々は自己評価を行う際に他者との比較を行い、自分を高めるために下位の者と比較することが明らかとなった。

さらに、自己中心的バイアスについての実験も紹介しておきたい。

ダニング&クルーガーの能力の過小評価と過大評価実験

  • 実験内容:参加者の能力をテストした後、自己評価と他者評価のギャップを調査したものだ。

  • 成果:低能力者は自己の能力を過大評価し、高能力者は自己の能力を過小評価する傾向があることが示されている。

最期に紹介するのが、認知制約と情報処理についてだ。

トヴェルスキー&カーネマンのアンカリング効果実験

  • 実験内容:初めに提示された情報(アンカー)が後の判断に影響を及ぼすかを調査したものだ。

  • 成果:アンカーとなる情報が後の判断や評価に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。

いい加減さや杜撰さが必ずしも悪いわけではない理由

ということで、いい加減さや杜撰さについて書いてきたのだが、この傾向が必ずしも悪いわけではないという話をしていこうと思う。

まず、触れたいのが完璧主義の落とし穴についてだ。

ハムレット症候群

  • 研究内容:完璧主義者が持つ過度な分析と決断の遅れに関する研究だ。

  • 成果:完璧を求めるあまり、決断を遅らせるか、または避ける傾向があることが示された。

そして、創造性との関連性にも影響が生まれる。

ジルダの制約と創造性の関係研究

  • 研究内容:制約の少ない環境と多い環境での創造的な思考の違いを調査だ。

  • 成果:一定の制約や「いい加減さ」がある方が、新しいアイディアや解決策を生み出すことが示された。

それから、柔軟性の確保についても影響が出る。

シュヴァイツァーの適応戦略研究

  • 研究内容:適応能力と状況判断の関連性を調査だ。

  • 成果:ある程度の「いい加減さ」がある人は、変わる状況に柔軟に適応しやすいことが明らかになった。

さらに、効率的な意思決定の差についても触れておいた方がいいだろう。

シモンの満足化の原則

  • 研究内容:最適な選択をする代わりに「十分な」選択をする行動に関する研究だ。

  • 成果:全ての選択肢を完璧に分析するより、十分な選択を迅速に行う方が効率的であることが示された。

最期に触れておきたいのが、ストレスの軽減についてだ。

サポート研究

  • 研究内容:「いい加減さ」を持つ人と持たない人のストレスレベルの違いを調査したものだ。

  • 成果:ある程度の「いい加減さ」を持つ人は、ストレスに対する耐性が高いことが示された。

いい加減さや杜撰さが必要とされるエビデンス

ということで、もっと肯定的な場面でのエビデンスも紹介していこう。

まずは、アーティストの創作過程について触れよう。

ピカソの即興性研究

  • 研究内容:ピカソの作品とその制作過程を通じて、即興性と創造性の関連を調査だ。

  • 成果:ピカソは完璧を追求するよりも、即興で作品を制作することで独自のスタイルや新しい技法を生み出していた。

次にポジショントークになってしまうところはあるが、スタートアップのピボットについて書いておこう。

シリコンバレーの成功事例調査

  • 研究内容:成功したスタートアップが初期のビジョンから変更(ピボット)した事例を調査したものだ。

  • 成果:多くのスタートアップが初期の計画を「いい加減」に変更することで、成功への道を見つけ出していた。

また、スポーツの世界においても重要な場面がある。

野球のバッターの直感研究

  • 研究内容:バッターがピッチャーの投球を瞬時に判断するメカニズムを調査したものだ。

  • 成果:バッターは完璧な分析よりも、経験や直感に基づいてボールを打つことが示された。

さらに、コミュニケーションの部分においても活用できる。

ハイコンテキストとローコンテキスト文化の比較研究

  • 研究内容:明示的な情報伝達と暗黙的な情報伝達の文化を比較したものだ。

  • 成果:ハイコンテキスト文化(情報が暗黙的に伝わる文化)では、言葉を「いい加減」に省略しても相手が理解することが示された。

最期に紹介したいのは、デザインの思考においてだ。

IDEOのデザインプロセス研究

  • 研究内容:世界的なデザイン会社IDEOのデザイン思考プロセスを調査したものだ。

  • 成果:早期の段階で「いい加減」なプロトタイプを制作し、フィードバックを受け取ることで最終的な製品の品質を高めていた。

まとめ

改めて書くが、「いい加減」や「杜撰」という言葉は、日常生活の中でよく耳にする言葉であり、多くの場合、ネガティブな印象を持つことが多い。

ところが、これらの言葉の背後には、多くの心理的メカニズムや社会的背景が存在していることは紹介してきたとおりだ。

人々が「いい加減」や「杜撰」と感じる背後にある心理的なメカニズムについて、それを立証する研究を知れば、人の心理についても語ることができるようになるだろう。

また、「いい加減さ」や「杜撰さ」が必要とされる場面やそのエビデンスを挙げて考察してきた。

結論として、完璧を追求することは大切だが、ある程度の"いい加減さ"がなければ、多くのことは前に進まないという解を導いた。

また、"いい加減さ"や"杜撰さ"は、柔軟性を持ち、新しい可能性を追求するための手段ともなり得ることも主張しておきたい。

こういった言葉を単純にネガティブなものとして捉えるのではなく、その背後にある意味や可能性を理解し、適切に活用するというよりは、言動に移すことが重要だということである。


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