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腰痛シリーズ②治ったはずなのに痛いのはなぜ?【DoctorTのスポーツ・エクササイズ医学】

こんにちは、DoctorTです。急に気温が下がってきましたね。外に出るのが億劫になりますが、自宅でストレッチやヨガなどをするのでも十分です。なにかやってみましょう!

さて、今日は前回に続く腰痛シリーズ第2弾、腰痛が長引くと厄介になるのはなぜかを説明したいと思います。以下の教科書や大学院で学んだことを中心に書きます。

なぜ人は痛みを感じる必要があるのか?

ケガをした時に痛みを感じるのには、動物として意味があります。自分の体を傷つける外部の危険から身を守るために警戒しなければならないからです。

痛みはどのように脳へ伝えられる?

ここから先は少々わかりにくいかもしれません。痛みが長引くと脳にも影響が出るせいで、ケガをした箇所だけでなく、ストレスや睡眠が原因で痛みが強く感じられるのだと理解してもらえれば十分です。興味のある方は以下も見てください。

まずは、どこかが傷つく(ダメージを受ける)

痛みというのは、体のある場所が傷つくことによって発生します。体のあらゆる部位に神経が走っていて、そこで様々な感覚が拾われ①「○○が傷ついているよ」という「信号」が、脊髄や脳へ送られます。この時点では「痛い」という感覚は付加されていません。

*文中の①〜⑤は下の図のそれらと一致します。

脊髄で信号が「痛い」という主観的な感覚に変換される

この「信号」に「痛み」という感覚が付加されます。この回路に信号が頻繁に、長期間に渡って送られると、脊髄、さらには脳によって、それはますます身を守らなければならない危険だと捉えられるようになり、②「痛み」として捉えられます。すると、③少しの痛み刺激でも過敏に反応し、(刺激に対する閾値が低くなる)「痛い」と感じるようになります。

脳で痛みスイッチが活性化されすぎると…

さらにこの痛みの回路が刺激され続けると、④脳が「痛い」というメッセージを出しやすくなってしまいます。ここでやっかいなのが、脳は実際に傷ついた場所からの信号を受けてではなく、⑤一般的なストレスや気分、睡眠不足などが引き金になって「痛い」メッセージを発してしまうようになることです(Central dominant pain)。また、もとのケガが治っていても「もう痛くなくなったよ」の合図が抑制されてしまいます。

前回お話した「腰痛になったら安静にしていないといけない」というのも⑤の思い込みに当てはまります。「じっとしていなかったから、痛みがよくならないんだ」という思考になり、⑤のスイッチを入れることになります。

痛みが長引くと(②)③④⑤がますます活性化され、
①のダメージを受けた場所が治っても「痛い」と感じさせる回路が興奮したままになる。

腰痛の内訳

本当に深刻な悪性腫瘍、感染や炎症性の病気(red flag)は1-2%、診断がつく腰痛は全体の5-10%と言われ、大部分は明確な診断がつかないことがわかっています。ここに患者さんたちと医療者側との認識のギャップが有るかもしれません。

医療機関では「最初のダメージ」を探しています。それが主に診断・病名となっています。最初のダメージは既に治っていても「脳が発している痛み」による腰痛は診断がつかない腰痛に分類されて残り、その数が意外と多いかもしれません。

本当のダメージではなく脳が発しているかもしれない「痛い」の特徴

  • 症状が多岐にわたる

  • はっきりとした悪化要因と寛解要因がない

  • 痛みが神経の支配領域に一致していない。限局していない

  • 痛みというか「だるい」「変な感じ」

思い込みやメンタルは腰痛の経過を左右する重要な要素

腰痛の経過を見る質問の中で、質問5以降は気分や考えを聞いていることからもわかるように、患者さんの腰痛の「捉え方」でその治り方に影響があると考えられています。下の表はLancetでも紹介されている国際的にも認められた慢性腰痛の治療法を考える時の質問です。リスクというのは「治りがいいか(シンプルか)長引くか(複雑か)」のリスクです。それによって治療する時のアプローチが変わります。

質問5-9は腰痛のダメージそのものより、その受け止め方を評価している。

まとめ

  • ケガをした時に痛いと感じるのは、本来危険から身を守るための体の防御機能

  • 腰痛の大部分は診断がつかない

  • 傷がついた組織から脊髄、脳へと情報は伝えられる

  • 痛みが長引くと痛みを増幅して感じるようになる

  • 脳が発する痛みになると、ケガからではない、ストレスなど外的な環境要因が痛みに影響し始める

今回は内容が難しかったかもしれません。ポイントは、腰痛は長引くと元のダメージが治っても痛みが続くことがあり、そしてそれが最初の腰痛になった原因ではなく生活習慣やストレスが引き金になって痛みとして感じられてしまうということです。

一度腰が痛くなったら、もうダメだ…と思ってはいませんか?昔の腰痛の原因が今も続いているとは限りません。例えば、ちょっとした椎間板ヘルニアは吸収されてなくなってしまっているかもしれません!

このような理由から医師や理学療法士と現状を正しく把握して正しく治療していくことをお勧めします。その治療は必ずしも注射や湿布、マッサージだけではなく、適度に体を動かすことや睡眠不足の改善ということがお分かり頂けたでしょうか?間違った思い込みを直したり、気分転換することが腰痛の改善法だったりするのです!

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