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拷問投票

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SF長編小説。二十年後の日本、凶悪犯への厳罰化を求める世論に流され、一部の犯罪者を合法的に拷問することができる拷問投票制度が存在していた。残虐なレイプ殺人事件で娘を失った高橋実は…
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記事一覧

〇拷問投票【序章 ~立案者の告白~】

 世紀の悪法だと言われましても、ね。  かりにそうだとしたら、少なくとも、僕より先に、法…

山本清流
10か月前

○拷問投票1【第一章 〜毒蛇の契約〜】

「難しそうだとは受け取らないでください」  長瀬達也は、マイクを強く握り、ぐるりと講義室…

山本清流
10か月前
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○拷問投票2【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 講義といっても専門科目と教養科目があり、今回の講義は教養科目として位置づけられている。…

山本清流
10か月前
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○拷問投票3【第一章 〜毒蛇の契約〜】

   ※  刑事司法制度に対する国民の不満が噴出する背景となったのは、表面的には、令和初…

山本清流
10か月前
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○拷問投票4【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 長瀬達也は、『刑罰投票法』のガイダンスを終えてから、研究室へと戻った。膨大な本や資料に…

山本清流
10か月前

○拷問投票5【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 これら一般向けに出版されているものの多くは、拷問投票に批判的だ。残虐な刑罰は時代を逆行…

山本清流
10か月前

○拷問投票6【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 ドアの向こうには、パッと見でも印象に残るほどに、眼光の鋭い男が立っていた。そのほかの特徴はほとんど目に入らない。  その視線は荒々しくはないので、精悍とは言えない。なんというか、邪な成分は含まれていない、とでも言えばいいのか。情状酌量の余地がありすぎる悲劇の悪役とでも呼びたくなる。絶対に動かない頑強な意思を貫きつづけ、自らの正当性をこれでもかと信じつづけている人物でなければ、このような眼光にはならないだろう。  長瀬にとっては、それがあまりに予想通りだったので、むしろ困惑し

○拷問投票7【第一章 〜毒蛇の契約〜】

   ※  佐藤龍が生まれたのは、歴史的にも変化の激しい時代だった。そこに生きる人々の生…

山本清流
10か月前

○拷問投票8【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 バイト終わり、近場にあった都内の書店に立ち寄った。  電子書籍の流行によって激減してき…

山本清流
10か月前
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○拷問投票9【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 俗称としては、拷問投票法だ。正式な略称は、刑罰投票法である。法律そのものの正式名称とし…

山本清流
10か月前

○拷問投票10【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 その一方で、拷問投票法のもうひとつの側面である『投票』の部分においては、最高裁がすでに…

山本清流
10か月前

○拷問投票11【第一章 〜毒蛇の契約〜】

   ※  長瀬達也は、大学での講義を終えたあと、キャンパスに隣接したビルの一階のカフェ…

山本清流
10か月前

○拷問投票12【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 ぼわんと注意散漫になったその一瞬の隙に、フレンチトーストよりも強く注意を引きつけるもの…

山本清流
10か月前
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○拷問投票13【第一章 〜毒蛇の契約〜】

 死刑判決を言い渡した合議体の中に裁判員が参加していなければいけないことの意味についても、同様の説明が成り立ちうる。国民の中からランダムで選ばれた裁判員という健全な社会常識を代弁すべき国民の代表――事件の審理に参加したという意味においても国民の代表である――が大きなウェイトで投票に加わっていることが、制度の濫用を避けることに寄与する。それも慎重な判断のために必要不可欠だ。  一部には、裁判員以外の国民による投票の結果が一票に集約されることは不公平との主張もある。  しかしなが