夕渚

『人間きょうふ症』掲載中。

夕渚

『人間きょうふ症』掲載中。

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『人間きょうふ症』48 (最終)

 ぴーぴーぴー…。  ん。ここは…。なんか、ループしていない…?あ、いや、アレか。全部、思い出した。何もかも思い出した。でも、それを言語化にはできない。なぜなのかは自分でもわからない。ただ、一つ言えるのは、、先生は、、実の親だったこと。そして、以前に狭心症で倒れたのも先生ではなく、私だった。  しばらく目を閉じたまま考え込んだ。すぐそこでお話をしている”お母さん”に意識が戻ったことがバレないように。  彼女がいなくなった頃に、私は横にあった紙を取り、メモを書いた。    

    • 『人間きょうふ症』47

       「・・・はーい」遠いとこから声が聞こえた。  「さ、座りましょう。すぐに来ると思いますので。」   先生はそういうと、カウンター席に座った。数分後には高瀬さんと言われるおじいさんが表に出てきた。  「にしても、久しぶりだのぅ。二人とも。元気にしてたかい?」  「…久しぶり?」  「なんだ、覚えておらんのかね。あんたぶっ倒れたんじゃぞ」  「あ、高瀬さん!」  「あ、、すまんすまん」  状況が飲み込めなかった。そもそもぶっ倒れたって、あの夢のこと…?だとしたら、先生は嘘ついて

      • 『人間きょうふ症』46

         ちょうど正午にもなり、出かける時間となった。  先生を隣に、とある古そうな住宅地に行った。数分歩いていると、見たことあるような光景が目に映る。  「あれ、、んー、、」  「どうしたの?」  「なんか、きたことがあるような、、そんな気がして。なんか幼かったときに来たのかもしれないし、もしかしたらデジャブなのかもしれないし、よくわかりませんけどね。」  「…」  先生はずっと無言でいた。普通なら、返答くらいはするはずなんだけれど、、。  沈黙の中、辿り着いたのは、やはり見たこと

        • 『人間きょうふ症』45

           朝となり、コーヒーを片手に持って飲んでいた先生の姿が珍しくリビングにいなかった。  「せんせー、どこにいますか〜」  眠たそうにしながら言った。すると、  「ここよ。」  遠くから先生の声が聞こえた。  「ちょっと今、手が離せないの。15分だけ待ってて」  一体どうしたのだろうか。気になった私は、声の方面に向かって行った。どうやら倉庫の中で何かを探していたようだった。  「せんせー、手伝いましょうかー?」  「いいわ。」  なんだか、氷のように冷たい返事をした。先生は緊張

        『人間きょうふ症』48 (最終)

          小説『人間きょうふ症』44

           数日後の夜だった。おやすみの一言を言うために、先生の寝室へ行った。  「…えぇ。佐藤さんも高瀬さんとお会いできたら、きっと喜びます。明日のお昼頃、伺いますね。」  私に聞かれないようにするためなのか、掠れた声で先生は電話で話していた。そっと入るのも申し訳ないと思い、ドアから距離をとり、わざとドタドタ、と音を立てながら再び向かった。  すると、先生はその音に察したのか、携帯電話を彼女自身の後ろに隠した。  「せんせー、おやすみー。」  「佐藤さん、今日はちょっとラフな感じなの

          小説『人間きょうふ症』44

          小説『人間きょうふ症』43

           私は先生の経験を見た、そう思った。きっと、先生も倒れたのかもしれない。無理矢理関連づけたようにも思われるかもしれない。それでも良い。とりあえず、先生に聞いてみたい。  とある日の朝食。先生はコーヒーを片手にニュースを見ていた。そんな先生をじっと見つめた。  「…どうしたの?顔に何かついてる?」  「あ、いや、、先生って、倒れたことあるのかな、って思っていて。」  「私?んー、私は狭心症だったこともあって、倒れることは多かった方だと思うわ。」  「そうだったんですね。ちなみに

          小説『人間きょうふ症』43

          小説『人間きょうふ症』42

           ある日、いつも通り本を読んでいる私に、先生は呼んできた。  「佐藤さん、見せたいものがあります。本当だったら、ここにきた初日から見せようかなと思ったのですが、あまりにも疲れてそうだったし、本に没頭してたので、今日が良いかなと。」  すると先生は重そうにそこそこ大きい箱を運んできた。カッターを持ってきて、テープを切り、箱から蓄音機を出した。身の覚えのある蓄音機だった。  「先生、これって…。」  「はい。そうです。佐藤さんが学校で話してくれた蓄音機です。」  「でもこれって、

          小説『人間きょうふ症』42

          小説『人間きょうふ症』41

           数週間して身体も動かせるようになり、私はやっと退院した。その後のことをいうと、以前に住むのを嫌がった、先生が友達から借りていたタワマンに居候することになった。初めて入るタワマンは、迫力がすごく、今までなかった感情を味わうことに。  先生はカードキーを使い、部屋を開ける。  「ここが部屋よ。今週はゆっくりしなね。」  二人で部屋に入る。とても大きい空間に本がずらり並べられていた。いずれ憧れていた海外の図書館のような場所。私は、こんな場所に来ることを嫌がっていたことが不思議で仕

          小説『人間きょうふ症』41

          小説『人間きょうふ症』40

           状況を飲み込めずに数時間考え込んだ。もちろん隣にはK先生。私自身の容態も少しずつだが、回復していき、息が切れずに話せるようになった。  「さっき、喫茶店のおじいさんとか言っていたよね?」  先生は問う。  「あ、えっと…。おそらくですが、私がとても幼い頃に話したことのあるおじいさんだと思います。今まで、会ったことのない感覚でしたが、よくよく考えると、会ったことがありました。そのおじいさんは、実家にある蓄音機と一緒のものを持っていて、私の好きなクラシック曲をかけてくれたんです

          小説『人間きょうふ症』40

          小説『人間きょうふ症』39

           「本当にごめんなさい。」  「...な…んで、謝るん...です…か」  「それはもちろんあなたをあの時手放してたからよ...」  手放した...?一体なんのことなのか。先生はいつ私を手放したのだか。普通に価値観が合わなかったから離れただけじゃなかった?それが手放すことに繋がるの?私には意味がわからなかった。  先生は涙ぐんだ目を必死に擦っていた。  「先生、だい…じょうぶ…だか…ら。だから…もう…悲しまない…で…」  「いえ、だめです!これは全て、私の責任です。」  「な…

          小説『人間きょうふ症』39

          心の意味。(短編小説)

           とある英語の授業で、とある英語の先生が言った。  「言葉というのは、人と人との間で生まれたものなんだ。そしてそれは、あなたたちもいずれは、それに気づくでしょう。形は人それぞれだけれど。」  私には愛する人が一人います。その方はとてもとても立派な大人のような思考で、相手のことを考えて気配りをし、話し上手で聞き上手。  そんな彼は音楽家。有名であり、人の心を動かす作詞作曲をしていました。彼は常に「心」という言葉を歌に入れたがっていました。  私は最初、気づきませんでした。しか

          心の意味。(短編小説)

          小説『人間きょうふ症』38

           ぴー。ぴー。ぴー。  聞き慣れない機械音が耳元で囁いていた。薄く目を開くと、見慣れない黒い点がいくつもある白い天井に、薄い色のカーテンが自分の周りを囲っていた。ここがどこなのか考えながら身体を起こそうとしたが、金縛りのような感覚を覚え、起き上がることはできなかった。手も足もあまり動かせない。声は唸り声。私はどうしたものか。  数分して周りの状況が掴めるようになったのか、とある話し声が聞こえた。  「佐藤さんの容態は無事ですかね…?!」  「落ち着いてください!きっと大丈夫で

          小説『人間きょうふ症』38

          小説『人間きょうふ症』37

           「一旦、かけてみるか?」  「何をですか?」  「お前が好きな『魔笛』じゃ。何度も聞いていたのに、急に聞かんくなれば、寂しさが増すじゃろ。」  私は”確かに”と感じたので少し頷き、おじいさんはレコードをかけた。私は娘を怒鳴りつけるようなヒステリックな女王を思い描きながら、耳を澄ました。  この歌詞が頭の中で再生され、いつの間にか目から川のように涙が流れていった。懐かしい感覚を覚えながらずっと聞いていたら、おじいさんは口を開く。  「大丈夫かね?」  「…」  彼の声が脳内

          小説『人間きょうふ症』37

          小説『人間きょうふ症』36

           「実は私が住んでいた実家にグラフォンがあって、嫌なことがある時だとか心を落ち着かせたい時にそれでよくクラシック曲を聞いていました。今の時代はスマートフォンとイヤホンを使用する人がほとんどで、もちろん聴きやすさはありますし、気軽に聴けます。でも、それでは心は満たされなくて…。レコードを優しく置いて、横にあるレバーをゆっくりと回すあの快感がたまらなくて。」  「その蓄音機はお前さんにとってなんなのかね。」  「それはもちろん命の一部ですよ。でも、今は会えない。だからその間はここ

          小説『人間きょうふ症』36

          小説『人間きょうふ症』35

            音楽を久しぶりに聴きたくなった。今度、蓄音機が置かれている喫茶店に行こうか。きっと、人生を生きるためのインスピレーションが生まれてくる。そう期待し、息抜きをしに行ってきた。  チャリン。ドアを開けると、ベルが聞こえた。席には誰も座っていないガラ空きの喫茶店であった。  「いらっしゃい。お前さんみたいな若い女の子が来るようなところでないけど、大丈夫かい?」  カウンターでコップを拭いながら、一人の年配の男性が話し出す。おそらくその人がマスターなのだろう。  「えぇ。間違って

          小説『人間きょうふ症』35

          小説『人間きょうふ症』34

           先生と離れ離れになって、数ヶ月経った。この期間中、私はアルバイトと勉強を両立して日々を過ごしていた。忙しさに飲み込まれそうになることも少なくはなかった。それでも、勉強は不断にしてきた。全ては高校卒業認定試験のためだった。高校を離れた以上、私にはこれが精一杯であった。  私が使っている分厚いルーズリーフのバインダーの最後のページにこの詩を見つけた。中学生の頃に書いていたものだった。懐かしいと感じながら、何度も繰り返し読んだ。そういえば、小学生だった頃、音楽家を目指していたん

          小説『人間きょうふ症』34