小説『人間きょうふ症』36
「実は私が住んでいた実家にグラフォンがあって、嫌なことがある時だとか心を落ち着かせたい時にそれでよくクラシック曲を聞いていました。今の時代はスマートフォンとイヤホンを使用する人がほとんどで、もちろん聴きやすさはありますし、気軽に聴けます。でも、それでは心は満たされなくて…。レコードを優しく置いて、横にあるレバーをゆっくりと回すあの快感がたまらなくて。」
「その蓄音機はお前さんにとってなんなのかね。」
「それはもちろん命の一部ですよ。でも、今は会えない。だからその間はここ