小説『人間きょうふ症』40

 状況を飲み込めずに数時間考え込んだ。もちろん隣にはK先生。私自身の容態も少しずつだが、回復していき、息が切れずに話せるようになった。
 「さっき、喫茶店のおじいさんとか言っていたよね?」
 先生は問う。
 「あ、えっと…。おそらくですが、私がとても幼い頃に話したことのあるおじいさんだと思います。今まで、会ったことのない感覚でしたが、よくよく考えると、会ったことがありました。そのおじいさんは、実家にある蓄音機と一緒のものを持っていて、私の好きなクラシック曲をかけてくれたんです。まぁ、多分自分の中の妄想だと思うので、語っても無意味だと思います。そういえば、私って、どこで車に撥ねられたんですか?」
 「それはあとに話すから、そのおじいさんの話をしてくれない?」
 私が話題を変える時は流れに進んで話をしようとするのにもかかわらず、今回はなぜかおじいさんの話を聞きたがっている。先生は何か、心当たりがあるのだろうか。私にはそこまで先取りして予想することができなかった。

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