小説『人間きょうふ症』42

 ある日、いつも通り本を読んでいる私に、先生は呼んできた。
 「佐藤さん、見せたいものがあります。本当だったら、ここにきた初日から見せようかなと思ったのですが、あまりにも疲れてそうだったし、本に没頭してたので、今日が良いかなと。」
 すると先生は重そうにそこそこ大きい箱を運んできた。カッターを持ってきて、テープを切り、箱から蓄音機を出した。身の覚えのある蓄音機だった。
 「先生、これって…。」
 「はい。そうです。佐藤さんが学校で話してくれた蓄音機です。」
 「でもこれって、、世界に二つしかないモデルのはず…。なんで、も…」
 「持っている理由ですよね。佐藤さんが、幼い時に会ったことがあると言っていた人からです。喫茶店のおじいさんは、私の恩人なんです。だから、というわけでもないのですが、ちょうど彼の蓄音機を流そうかなと。」
 先生はそう言って、目をうるうるさせながら蓄音機をさする。
 「懐かしいのよね。おじいさんがモーツァルトの曲をかけてくれたあの日のことが。」
 私はこの一言でハッとした。私が見た夢はまさか…。

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