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『六番目の小夜子』考察|あなたもサヨコかもしれない

その学校には、こんな噂があった。


3年に1回、『サヨコ』が選ばれる。

『サヨコ』は1年間、誰にもその正体を知られてはならない。

バレなければ『サヨコ』の成功。バレると失敗。


そして今年は「六番目のサヨコ」が選ばれる年だった——。


◆『六番目のサヨコ』を読み解くポイント


以上が恩田陸さんの『六番目の小夜子』のあらすじだ。

恩田陸さんと言えば、『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』などで有名な作家さんだ。(この2冊もホントに面白いです!!!)


『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』は、どちらかと言えば「心温まる系」のストーリーだが、

『六番目の小夜子』はミステリー・ホラー系のストーリーだ。


『六番目の小夜子』は恩田陸さんのデビュー作でもあり、いつかは読んでみたいと思っていたのだが、

ハッキリ言って、読んでいなかったのを後悔するレベルで面白かった・・・!!!


そこで、本書を考察していくにあたり、キーとなるポイントをいくつか紹介したい。


※以下、ネタバレを含みます!!


(1)『サヨコ』

『サヨコ』は文化祭で発表される劇の名前だ。

加えて、その劇の主人公の名前がサヨコなのだ。


この『サヨコ』については、この後でもっと詳しく説明したい。


(2)津村小夜子

舞台となる高校に転校してきた謎の美少女。

よりによって『六番目のサヨコ』が選ばれる年に、「ツムラサヨコ」という名前の女の子が転校してくるのだ。


そして、この津村小夜子が、なんとも思わせぶりな、何かを知っているかのような存在として描かれる。


(3)六番目のサヨコ

津村小夜子が転校してきた年は、まさに「六番目の小夜子」が選ばれる年だった。

この「六番目の小夜子」は名前の通り「六番目」に選ばれた『サヨコ』である。


言い換えると、この前に5人の『サヨコ』がいたのだが、彼女(あるいは彼)たちと「六番目」のサヨコの関わり(つながり)が、謎を紐解くカギとなる。


◆「五番目」までの『サヨコ』について


この『サヨコ』というゲームは、なんとも不思議でどこかホラーだ。

本書では『サヨコ』について、このように説明されている。


『サヨコ』になる者は、『サヨコ』自身と、その『サヨコ』を指名する、前回の『サヨコ』しか知らない。(p.9)


次の『サヨコ』は、前回の『サヨコ』がいる代の卒業式当日に引き継がれる。在校生が卒業生に花を渡す時に、あるメッセージが次の『サヨコ』となるべき者に手渡されるという。それを受けとった『サヨコ』は、『サヨコ』になることを承知したという証拠に、四月の始業式の朝、自分の教室に赤い花を活けなければならない。赤い花が活けられた瞬間から、その年のゲームはスタートする。(p.9)


『サヨコ』のすべきことはたった一つ。年にただ一つだけである。それさえ誰にも自分が『サヨコ』であることを悟られることなくやりとげれば、それがその年の『吉きしるし』であり、その年の『サヨコ』は勝ったのだ。(p.9)


前の『サヨコ』に選ばれた今の『サヨコ』は、誰にも『サヨコ』だとバレずに、年に一度の任務をクリアしなければならない——。

これが『サヨコ』のゲームなのだ。


◆五番目までの『サヨコ』


いきなりの超絶ネタバレだが、

年に一度の『サヨコ』のミッション、

それは、文化祭で『サヨコ』を題材にした演劇をやり遂げることだ。


『サヨコ』に選ばれた人物は、文化祭で『サヨコ』に関する劇をやらなければならない。

そして、演劇の脚本を自分で作るか、前任の『サヨコ』が作った脚本を再演するか、選ばなければならないのだ。


さらに。

サヨコは3年に1回選ばれる。

そしてその『サヨコ』は、からなず高3が選ばれるのだ。

すると、『サヨコ』が卒業してから2年間、『サヨコ』が学校からいなくなってしまう。


そこで、「劇をやる『サヨコ』」と、「バトンを渡すだけの『サヨコ』」の2つが存在するのだ。

詳しく説明しよう。


『サヨコ』に選ばれる人は、前任の『サヨコ』から、ある部屋の「鍵」を渡される。


3年に1回『サヨコ』が選ばれるので、たとえば、2021年が「1番目のサヨコ」だとすると、次のようになる。


2021:1番目のサヨコ(劇をやる)
2022:鍵を渡すだけのサヨコ
2023:鍵を渡すだけのサヨコ

2024:2番目のサヨコ(劇をやる)
2025:鍵を渡すだけのサヨコ
2026:鍵を渡すだけのサヨコ


このように、3年に1回「劇をやる『サヨコ』」が選ばれて、

その『サヨコ』を引き継ぎぐための「『鍵』を渡すだけの『サヨコ』」が2年間バトンを繋ぐのだ。


この点、よく覚えておいてほしい・・・。


本書はこの”六番目の「劇をやる『サヨコ』」”が選ばれる年の高3生の1年を描いたものだ。


では、過去の「五番目」までの『サヨコ』はどんな人たちだったのか?

整理するとこのようになる。


●一番目のサヨコ

匿名の脚本による『サヨコ』という劇を文化祭でやったところ、その年の大学合格率が非常に高かった。

そのことから、「『サヨコ』という劇が成功する」=「縁起がいい」というジンクスが学校に広まった。


●二番目のサヨコ

「一番目のサヨコ」3年がたって、再び『サヨコ』の劇をやることになった。

イメージがぴったりだった女の子がサヨコに選ばれるも、不慮の事故で亡くなってしまう。そして、その年の大学合格率は過去最低を記録した。

そのことから、「『サヨコ』の劇が失敗する」=「縁起が悪い」のジンクスが広まり、サヨコの亡霊、サヨコの呪いなど、『サヨコ』のゲームにホラー要素が加わった。


●三番目のサヨコ

『サヨコ』には文化祭の『サヨコ』の劇について、3つの選択肢を取れる。

(1)過去の『サヨコ』の脚本を再利用する
(2)自分で新しく『サヨコ』の脚本を作る
(3)何もしない

「三番目のサヨコ」は自分で新しい脚本を作り、文化祭で『サヨコ』の劇を成功させた。

実は、この「三番目のサヨコ」の正体は、主要キャラの関根秋(せきね・しゅう)の兄だった。


●四番目のサヨコ

自分が「四番目のサヨコ」であることを明かした上で、「受験勉強で忙しいのに、どうしてこんなことをしなきゃならないのか!」と、生徒総会に訴えた。

その結果、「四番目のサヨコ」は受験期に高熱を出して浪人、その次の年も受験期に高熱を出してノイローゼになってしまう。


●五番目のサヨコ

「五番目のサヨコ」は何もしなかった。『無言のサヨコ』と呼ばれている。



——そして、今年「六番目のサヨコ」が選ばれるのだ。


◆津村小夜子——思わせぶりな謎の美少女


謎の転校生・津村小夜子(つむら・さよこ)は、ハッキリ言って「何がしたいの?」という「ザ・思わせぶり少女」だ。


伏線っぽい発言や行動をいくつも残しておいて、結局はあまり謎の解決の手助けにはならない——。津村は「ザ・謎」な存在として描かれる。


不慮の事故で亡くなってしまった「二番目の小夜子」、

実は彼女の名前も津村小夜子なのだ。


・・・こわい。怖すぎる。

このように、転校生の津村小夜子は、いかにも「意味ありげ」な存在として描かれるのだが、最後までその「意味」がなんなのか分からずじまいだった。


◆何かありそうな関根秋


関根秋(せきね・しゅう)には兄と姉がいる。

そして、この兄が「三番目のサヨコ」で、姉が「鍵を渡すだけのサヨコ」だったのだ。


本書は以下のように章立てされている。


・プロローグ
の章
の章
の章
の章
・再び、春


本書では、関根「秋」という「名前」と、「季節の秋」がごっちゃになって、はっきり言ってややこしい。


「秋は、・・・」という文章を見ると、関根くんのことなのか、季節のことなのか、パッと見でわかりにくいのだ。


ちなみに、関根秋の姉の名前は、関根夏(せきね・なつ)。


そうなると、兄の名前は描かれないが、おそらく「春(はる)」なのではないか?


・・・。


このように、文章が読みづらくなってまで、あえて関根家の名前を季節にしたこと、そして本書の章立てが「春夏秋冬」になっていること、

それには何か意味があるのだろうか——?


この点については、私自身、まだ答えが見つかっていない。

ぜひこれから考察したいところである。


◆おわりに——あなたもサヨコなのかもしれない


この学校では、全校生徒が暗黙の了解として『サヨコ』というゲームに加担している。

全校生徒1200名の中で『サヨコ』に選ばれるのは、たった1人。


しかし、残りの1199人も、その『サヨコ』を作り上げるために、ゲームに加担しているのだ。


そう考えると、この小説を読んでいるあなたも、実は『サヨコ』なのかもしれない。






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