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本の主人公の年齢を超えて、私たちは大人になる

「一番好きな本を教えて?」

この質問ほど、難しいものはない。

私は大の読書好きで、毎年100冊以上の本を読んでいる。今年もすでに85冊の本と出会った。9月中には、100冊、いけるかな。

本当の出会いは一期一会で、その時しかもう目にしない本もあれば、本棚の中から何度も私に呼びかけてくる本もある。『人間失格』は、毎年6月ごろ、気分が落ち込んだ時に読む習慣がついている。(今年は幸いなことに(?)手に取らなかった)

逆に、『探偵ガリレオ』は大好きな本だけど、一度しか読んでいない。まさに、本当の出会いは一期一会、その時々の出会いなのだ。

冒頭の話に戻ると、そんな本だからこそ、「一番好きな本は?」という質問は難しい。また、「一番あなたに影響を与えた本は?」という質問も難しい。

本はまるで人のようだ。仕事において、趣味において、など、シチュエーションにおいて、「自分に影響を与えた」人は、それぞれ異なるだろう。また、私は恋人のことも大好きだし、小学生以来の友達のことも同じように大好きだ。

そんな感じで、「一番好き」な本を選ぶのは、私にとって簡単じゃない。ちょっと選択を逃げてるみたいだけど。


◆◆◆


「ねえ、あなたの好きな本を教えて?」

ある日、あの子は不意にそう言った。

いつもの街のいつものカフェで、いつもの席で。あの子との何気ない日々。そんな日常のワンシーンの中で、その質問を投げかけられた。「え、えっと・・・」まるで初恋の頃のように、私はドギマギしてしまった。なんて答えたらいいんだろう・・・。まるで、「ねえ、わたしのこと、好き?」って聞かれるのと同じくらい、ドギマギしてしまった。


さらに、「オススメの本は?」という質問も難しい。非常に難しい。この場合、本は薬のようなイメージで、その人のその時々のシチュエーションがわからないと、「オススメの」本を勧めることはできない。

その人は今、楽しい気分なのか、それとも悲しい気持ちなのか、冒険の世界を夢想しているのか、現実を冷ややかに眺めたいのか——。

それを言わずにただ「オススメの本を教えて?」と頼むのは、あたかも病状を隠したまま「最適な薬をください」と医者に頼むかのようだ。その人の心が分からなければ、それに応える本という薬は勧められない。

だから、あの子の「オススメの本を教えてよ」という、いつか・どこかのワンシーンも、私の記憶の中では、ドギマギした私の顔ばかりが浮かぶのだった。


◆◆◆


そんな私だが、たしかに「この本は」という本が、何冊かある。

もちろん、その時々によって感じていることは違うし、今読んだら大したことはないと感じるかもしれない。でも、それでも、私の人生の中で、確実に私という存在の1ページを作った本が、ある。そんな本の話をしてみたい。


◆◆◆


■宮部みゆき『ブレイブストーリー』


小学生の頃、私は何かに熱中するということをまだ知らなかった。

もちろん好きなことはあったし、楽しいこともあった。でも、「大好きな」もの、「熱狂するもの」には、まだ出会えていなかった。

そんな私は、ある1冊の本を手に取った。宮部みゆきさんの『ブレイブストーリー』だ。これはアニメ映画化もされた作品で、少年ファンタジーとしては割と有名だと思う。(漫画もとても面白かった。)

あらすじは、小学生の男の子・ワタルが、不条理な日常生活を変えるために、異世界(ヴィジョン)へと冒険の旅に出る、というもの。ある日突然ワタルの父親は家を出て行ってしまい、母親は自ら命を絶とうとしてしまう。そんな日常を変えるために、彼は自ら異世界へと足を踏み入れるのだった。

この物語は、「ブレイブストーリー」という名前のとおり「勇気の物語」だ。主人公は勇敢ではなく、むしろ臆病者だ。戦うことを恐れ、何度もヴィジョンでも困難に悩まされる。でもその度に、彼は「勇気」を手に入れていく。その姿に、同じ小学生の私は胸を打たれた。

「徹夜」という言葉もまだ知らないあの頃、私は人生で初めて「オール」をした。親には「そろそろ寝なさい」と言われ、「はあい」と口では答える。でも、寝室の布団にくるまって寝たふりをしつつ、布団の中で本を読み続けた。ワタルの冒険が、成長が、悩みが、まるで自分のことのように降りかかってきた。

私が持っていた『ブレイブストーリー』は上・中・下の3巻セットで、それぞれ600ページくらいの分量があった。合わせて約2000ページ——。小学生にとっては、途方もない文章量だった。6年間分の教科書を合わせたって、こんなに分量はなかったんじゃないだろうか。それでも、まるで一歩ずつ山を登るように、私はページをめくって行った。


「あら、眠そうね。夜更かしでもしてたの?」

次の日、担任の先生は心配そうに私にそう言った。

「はい。ちょっと冒険に出かけてまして・・・」

昨日よりちょっとだけ勇気を出して、私はこっくりと頷いた。


■井上雄彦『スラムダンク』


言わずと知れたバスケ漫画の名作。この本も何度も読んでいて、すでに5回は読んだと思う。

あらすじは、不良高校生・桜木花道が、ひょんなことからバスケ部に入り、仲間とともに成長していく、という物語だ。「友情・努力・勝利」をまさしく体現している一冊だと思う。

中学生になり、体の中から無尽蔵に湧いてくる「何か」を上手くいなす術もまだ知らず、私は日々を悶々と過ごしていた。小学6年生と中学1年生は1年しか歳は変わらないのに、それこそキリンとアリくらい別の生き物に変身してしまったかのような気分だった。「頑張るとかダセエ」とか言いながら、ホントは頑張れないだけだと知りながら、それでも日々強がって生きていた。

そんな私には日課があった。放課後の部活や補修をサボり(抜け出し)、近くのブックオフに行くことだ。制服のまま行くと生徒指導の先生の見回りにバレるので、こっそり私服も学校に持っていって店のトイレで着替える、なんて荒技をやってのけていた。

まだ私が中学生の頃は、今ほど「立ち読み禁止!」と店員さんもうるさくなく、またまた住んでいた街が田舎だったこともあり、思う存分立ち読みができた。(当時は『デスノート』や『BLEACH』もブックオフでお世話になっていた。)

ある日のこと、日課に従ってブックオフで漫画を物色していた時、一冊の本が目に飛び込んできた。井上雄彦さんの『スラムダンク』だ。実は以前にも何度か手に取っていたが、最後まで読んだことはなかった。時間は無限にあるし(中学生の頃は、本当に無限にあると感じていた)、せっかくなら全部読むか——。そして、私は『スラムダンク』の世界の虜になったのだった。


”「負けたことがある」というのが いつか大きな財産になる”


この言葉が、中学生の私に深く突き刺さった。まるでナイフで刺されたかのような、滝に打たれたかのような感じだった。勝者だけじゃなく、むしろ敗者こそを描く。そんなストーリーに釘付けになった。たとえ負けたとしても、勝てなくても、頑張るってカッコイイんだ——。そんなことを、この漫画は教えてくれた。


◆◆◆


■ワタルも桜木花道も年下になったけど。


小学生の頃の私は、小学生・ワタルに感情移入し、中学生の頃の私は、少し年上の高校生・桜木花道に感情移入した。まるで自分の生き様を重ねるように、「こうありたい」と思うように・・・。「こうありたい」と思うのと同時に、「こうあれない」ということも子供ながらにどこか気づいていて。だからこそ、私は夢中になって彼らに自分の背中を重ねた。

そして今。小学生のワタルも、高校生の桜木花道も、自分よりも年下になってしまった。あんなに「大きな」存在だった彼ら主人公が、今となっては自分の方が年上になってしまった。

でも。それでも、私にとって、彼らは「大きな」ままだ。

あの頃思い描いていた「自分」には、なれてないけど。「こうあれない」という諦めは、悲しくも現実となってしまったけど。でも。それでも。それでも私は、彼らの背中を今でも思い描く。

異世界には行けなくても、バスケはできなくても、それでも私は「大人」になったこの世界で、「あの頃」の世界を思い描く。






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