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宵の嵐

春の嵐の夜、同僚の家にお邪魔した。
私より少しだけお姉さんの同僚は、仕事もプライベートも経験豊か、出身も同じ東北、いま住む街は以前私が住んでいたところ、そして私と好きなものが似ている。

会社でもらった美術展のペアチケット、誰かに1枚譲ろうと思った時に、真っ先に浮かんだのが彼女だった。
せっかくだからと予定を合わせて二人で出掛けた美術展、観終わったあとに目の前のワインビストロで昼ワインを飲みながら少しだけ深い話をして、とても仲良くなった。

その彼女の家に、私達よりひと回り近く歳下の同僚二人と一緒にお呼ばれして、嵐の宵の女子会が始まった。
もちろん持参したのは、ワイン。
ナパバレーのとっておきの赤。

今のチームは仲が良くて、みんなそこそこにシニア(歳が、ではなく仕事上で)で自立しているから、居心地が良い。
良い意味でドライ、でもヘルプ!と声を上げれば助けてくれる。
私は甘え下手だし、何でも自分で解決して来た方だけれど、ひとりで抱えないで力を借りても良いんだと今の環境でようやく肩の力を抜けるようになった。

妹より更に少し歳下の同僚ひとりが、最近結婚をした。
彼女はいつも一生懸命で、少しせっかちで(笑)、でも誰よりも仕事が速い。
その彼女が夜中まで仕事をしているのは、ほぼ半日の時差がある本社からのレスポンスを待っているからなのだけれど、そのやり方ではこの先気持ちが持たないよ、と少しだけアドバイス。

「自分の仕事に対する返答が来るまで、待ってしまうんです」
という彼女。
自分の手を一度離れたものは、もう忘れていい。ボールはあちらにある。
Uncontrollable。
そう言うと、もう二人の同僚がうんうん、と頷いた。

他人の気持ちは一生分からない。
どんなに近い存在でも、家族でさえ。
自分が欲しい答えを、期待してはならない。

「それって結婚相手でも?彼とはなんでも分かり合いたいんですけど」
乙女な彼女は哀しそうな顔をした。

期待することと、信頼することは違う。
信頼は大いにして良い。
自分の思っていることと同じことを、相手が考えていると思ってはいけない。
どこまで行っても別な人間だから。
同じように思って欲しいというのは、自分の正しさを押し付けているのと同じ。エゴでしかない。

そこまで話したら、歳上の同僚が無言で握手してくれた。
そして彼女は、少ししょんぼりしている30代の可愛い人生の後輩に言った。
「40過ぎたらさー、楽になるから。柔軟になったら本当、肩の力抜けて色々と楽しくなるよ!」
「愛情をかけるのは良い、でも見返りを期待したら駄目よ」
本当に、その通りだ。

もうひとりの30代の同僚は少々老成している。
「貴女はもう“こっち側“だから!」と太鼓判。
その代わり、男性見る目もシビアになるのは否めない。

「Solaさんはご主人とどんな感じですか?」

7つ上だからねぇ…と言うと驚かれたけれど、構わず続けた。
男性も大体50歳前後で“揺らぎ“の時期があることや、本人たちはそれにあまり自覚が無いこと。
最近ようやく、こちらが上手くその状態と付き合えるコツが分かったこと。

色々とぶつかりもしたし、お互いの言葉に傷付いたり、ここだけの話、“もう独りになりたい“と思うこともあった。
恐らく本人も無自覚に、自己肯定感を求めて私に対してマウントを取りに来ている時もあって、正直付き合いきれないと逃げたくなったこともあった。
でも、少し寛容に、目に見える形で愛情を注いだら、がらりと態度が変わった。

帰り道、雨は止んで雲間に月が見え隠れしていた。
“帰り、気をつけて“
夫からの短いメッセージ。
期待ではなく、信頼と安心。
その積み重ねで、私たちは繋がっている。

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