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#31『さよならドビュッシー』(著:中山七里)を読んだ感想

中山七里さんの『さよならドビュッシー』

中山さんのデビュー作でありながら、第8回『このミステリーがすごい!』大賞(このミス)の大賞受賞作でもあります。


あらすじ

ピアニストからも絶賛!ドビュッシーの調べにのせて贈る、音楽ミステリー。ピアニストを目指す遙、16歳。祖父と従姉妹とともに火事に遭い、ひとりだけ生き残ったものの、全身大火傷の大怪我を負う。それでもピアニストになることを固く誓い、コンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。ところが周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで発生する―。第8回『このミス』大賞受賞作品

Amazon商品紹介ページより

感想

  • 困難から逃げるのではなく立ち向かう勇気をもらった

  • まるでピアノの演奏を実際に聴いているかのような感覚

  • あれ、ミステリ小説だよね?と思いながら最後まで読むと…


『さよならドビュッシー』は、ピアニストを目指している香月遥(こうづき・はるか)が主人公の音楽「ミステリ」

遥は、家事により全身大火傷を負い、愛する祖父と従姉妹を失います。
さらに、殺人事件が起こることで家族間に亀裂が入り、クラスメイトからもいじめられるなど次々に不穏な出来事が。
序盤から、本の装丁からは想像出来ないような重苦しい展開でした。


本作からは、困難から逃げるのではなく立ち向かう勇気をもらいました。

印象的な場面は、岬洋介さんの過去についてが分かる場面です。
僕は他人を羨んだり、自分が不幸と思ったりすること、失敗を恐れてしまうことがこれまでに何回もありました。
でも、大事なのは与えられた状況の中でどう頑張るか。成功か失敗かではなく、やるか、やらないか。どんな道を歩くかではなく、どう歩くか。

数々の困難や外野の声に心が折れそうになっても、泥臭く全力で立ち向かう。その想いが乗った遥の演奏は、僕の心にも響きました。

些細なことで不平不満を言うのは辞めるようにしていますが、今後もそうしようと思いました。


まるでピアノの演奏を実際に聴いているかのような感覚でした。
中山さんの表現はイメージしやすく、ワクワクさせました。魔法にかかるという表現や、演奏により映像が浮かび上がるなど。また、繊細に描かれている印象がありました。

感動する演奏は、技術だけでなく、自らの魂を捧げることで生み出される。著名な音楽家が作り出した曲にも様々な背景があることを知りました。
小説も著者の背景を知ることで、物語により深く入れるのではないかと思いました。

僕は昨年、実際にピアノの演奏会に行ったのですが、イヤホン越しで聴くのとは違い、心に響いた記憶があります。音楽が全身にいきわたるような、そんな感覚がありました。また改めて行きたいですね。


あれ、ミステリ小説だよね?と思いながら最後まで読むと……
えっ!?そういうことだったのかー!となるでしょう。


途中から音楽小説として読んでいたこともあり、まさにひっくり返ったような感じです。疑問に思っていたタイトルの意味も分かります。
個人的には、読了感は前向きになれるものでした。

印象的なフレーズ

「忘れないようにもう一度言ってやる。その身体の三分の一は他の人間が提供してくれた物だ。私が懸命になって手術した場所だ。そして何人もの看護師たちが寝食を忘れて介護した身体だ。いいか、君は生きているんじゃない。生かされているんだ。そのことを忘れてリハビリを逃げたり生きていくことに悲観なんかしてみろ。絶対に承知しないからな」

『さよならドビュッシー』

「重要なのはその人物が何者かじゃなく、何を成し得たか、じゃないかな。第一、君は障害があるかどうかで人間を二分しようとしているけど、それは間違いだと僕は思う。人は誰もが欠陥を持っている。ただその欠陥が何であるのか、その欠陥が見えるものなのか見えないものなのかという相違だけだ。だから皆その欠陥を修復するか、または他の長所で補おうとする」

『さよならドビュッシー』

みんなと同じ道と言うけれど、それは別に一本の道ではない。一人に一つずつ道はある。ただ、それが所々で重なっているので遠くから見れば一本に見えるだけだ。自分だけが特別な存在だというのは傲慢で、そして臆病な者の虚勢に過ぎない。
(中略)
大事なのはどんな道を歩くかではなく、どう歩くかなのだ。

『さよならドビュッシー』

『私は喜びをもって死に向かって急ぐ。牧人が歌うのを人が聞いて、私には聞こえなかった時には、あわや自殺しようとしたこともある。しかし私の芸術だけがそうした思いを引き戻した』

『さよならドビュッシー』
ハイリゲンシュタットの遺書より

「人というものは自分の見たいものしか見ようとしないし、聞きたいものしか聞こうとしない。それが様々な誤解や不和を生む元凶です。当の本人が一体そんなものになりたがっているかどうか、もう一度よく観察して欲しいですね。曇りのない目で見ればその人となりは分かるはずなのですから」

『さよならドビュッシー』

人は、ここまで強くなれるのだ。どんなに絶望しても、どんなに心が折れても、諦めさえしなければ灰の中から不死鳥が蘇るようにまた雄々しく立ち上がることができるのだ。限られた者だけではなく、全ての生きる者の中にその力は宿っているのだ。

『さよならドビュッシー』


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