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太陽の秒針

真上の白い太陽に照らされて暑い 風で少しだけ揺れている湖の水面 眩しくて目を細める君を見つめる時間が たまらなく好きで ここを離れるには惜しかった 数ミリずつ伸びる影をたまに見て 太陽を恨めしく思った。

    • 君と砂丘

      足の裏を包むのは熱した砂 私の身体には昨日の夜から引かない火照り ひたすら照りつける太陽 じりじり、じりじり 少し前を歩く君の背中を見つめて 少しはねた髪の毛を愛しく思った 高い空、広がる海、砂、砂、砂 すぐ近くにいるのに、追いつけなくなるんじゃないかと 不安になる 砂に踠けば踠くほど苦しい こっちを向いて、お願い、振り返って ゆらゆら、ゆらゆら 蜃気楼に紛れていなくならないで

      • 靴擦れ

        靴擦れの跡、その真横に また新しく傷がついた 破れた皮膚の間から血が滲んだ せっかく治ったのにまた痛い いたい。いたい。きらい。だいきらいだよ

        • 流血

          イタズラにあの綺麗な球を見てみたくなった。 球を手に取って、つついて、見つめた 微かに震える美しい球を見ると どこか満たされるような気がしていた しばらく球は私の周りを寄っては離れて浮遊する 引き寄せて、引き寄せて、そして跳ね返した 不安定に揺れる、揺れる、そして壊れる 球を失って空っぽになった瞳が宿すのは苦しみ。 それでも破片を胸の奥で大事に握りしめる姿は 惨めで愛しいから好きだった。 私の皮膚にどろりと纏わりつく血の熱さに 心臓がどくどくした。 憎しみ悲しみ苛立ち

        太陽の秒針

          ラストキス

          あまり知らない布団の中で目覚めた午前10時 のろのろと起き上がってパンツを探した 最後にカシミヤのコートを着て扉を開くと、 春の空気に包まれた。 空は柔らかなブルーで、 立ち寄った花屋に溢れるのは黄色 ミモザ、ラナンキュラス、チューリップ 陽の光を凝縮したように輝く花たち さて、帰って洗濯でもしようか。と思った矢先に 小田急線、運転見合わせのアナウンスが。 わずかな時間でホームは人で溢れかえる その様子にうんざりして早々に諦めて改札を抜けた ふらりと線路沿いを辿ると見

          ラストキス

          静物の前で

          濡れる銅の肌 春の終わり。 白い粒子に包まれた彫刻と君、私 咲き乱れる石楠花 磨かれた石の表面に反射して 上下に広がる濃い紅色 横に立つ君のことを見つめた 見たい、奥の方まで でも私には君のことがまるで見えてなくて、 目の中にある丸太が大きすぎて潰れそうだ めいいっぱいに広がる年輪に慄いて瞬きをした ぱっとこちらを向く君の顔 見えた。 君の眼に映った紅 燃ゆる花

          静物の前で

          オレンジの散歩道

          君がお気に入りだと言っていたそのパーカー 君がくれたこのキャップ ほてって血色感のある君の頬 僕の頬にはそばかす 銭湯で温まった体に流し込んだジュース 甘酸っぱいジュースはヒヤヒヤ瓶の中 今日は月が隠れているから 僕たちの散歩道を照らしているのは街灯 全部オレンジ色だね。 時々キラキラして見えるのは雨上がりの草花 水分をたくさん含んだ光の粒子が 自由に動いているそんな夜。 ゆったりと歩く春、君、僕

          オレンジの散歩道

          マグノリア

          背が高くて、ツンと上を向いた顔 いつも空を見ているその視線は 僕とは全く交わらない。 春の嵐の中、堂々と咲く姿が美しい 見上げても見上げても届かない その白い肩に口付けることを夢見て今日も眠る

          マグノリア

          点っていた

          気がついたら点っていた ふわりと。 その時にあなたの灯りも何故か見えた 確信はないけどあなたの瞳の奥を見つめると その瞳は赤く灯っているように見えた あなたから贈られる視線は やわらかくて、あたたかくて、いい心地だ 大事に燃やしていた ぽわりと。 でもあなたの灯りはいつの日か見えなくなった 急にあたりは暗くなったようだ 私は私の灯りを信じたかった でも見失ってしまったんだ 灯りは消えてしまったんだ 煙だけが充満していた ゆるりと。 鼻が痛くて、目が痛くて、涙が出る 足元

          点っていた

          正午、冬の喫茶店

          分け合う体温 微睡の午前11時 何度も息継ぎする眠り 空は灰色でツンと冷たい空気 ひんやり頬を濡らす細かい雨が漂っていた 腹を空かせた2人は近くの喫茶店へ向かった あたたかいごはんとコーヒー 有線から流れるジャズと話し声 食器が軽くぶつかる音たち 雑音と暖かさと満腹感が眠気を引き寄せた 目を閉じて、 熱すぎるコーヒーを啜ると、 知らない香水の匂いが混じっていて、 肌の温度を思い出したりした。

          正午、冬の喫茶店

          月面散歩

          回る惑星たち 君と出会って、 初めて月に行っちゃったんだ。 2人で真空の中を散歩した。 真新しい雪のように、 まだ誰も踏みしめたことのない月面に足跡を残した。 浮いてどこかに行ってしまわないように、指を絡めて、 ひんやりとした君の掌が重なると安心した。 ねぇ、あのステップは覚えてる? 三拍子、優雅なヴァイオリンの音色 最後にはさ、なんだかすごく目が回って 2人で寝転んで宙を眺めたよね 微かに光を発する星がたまに見えた気がした あたりは真っ暗だった でも君の肌についた

          月面散歩

          雪解

          年の瀬 この12ヶ月の愛しい日々 君と過ごした他愛のない時間や共に見た新しい景色を 各駅停車のように少しずつなぞった あたたかくて、やわらかい光を含んだ瞬間が 私の心のフォルダを満たしている 君といたからこそ美しく見えた世界を 懐かしく思って。 少しだけ心を痛めて… 君もこうやって思い出したりするのかな? 君と見た海より、朝日より、花火より 特別な景色が見れるのかな 見たいな。 そんな雪解を心待ちにして 静かに時を進める大晦日を追いかけた。

          種のない柿

          種のない柿が多いらしい この頃は。 瑞々しくて美味しくて何個でも食べたいな ただ柔らかくて甘い。 なんの苦さも酸っぱさもない 本当の実なのかなって不思議に感じてしまう。 奥にある核がほしくて、 皮を齧り果肉を噛み果汁を啜った しかしそこには無かった。 実は朽ちる、その後に 何も残りはしない。 空虚でくだらないことだわ。

          種のない柿

          花火

          菊の花たち 綺麗に開いて消えた。 今日は晴れ。 涙を落としても、 風を吹かせても、 残る煙。 藍の上に白い靄 星空なんて一向に見えなくて、 いつまでもぼやけている。 それももう終わりにしたい、 ばいばい。

          秋と灰と朱

          秋は空が曇っているほうがいい 黒や紺の外套に身を包んで俯く 湿気と熱気で蒸す車内 ガラスには白い水滴の膜 定まらない焦点 ぼやけた世界が走り去っていく 流れる景色、目につく朱 灰色の中、映えているあの木 枝の先まで憤るその血潮に嫉妬する 空と私の境目は曖昧だ 靄に包まれた秋の末。 燃えているあの葉だけは輪郭を保ち、 強く、美しい。 深く瞳の奥に逃げる残像を追いかけて

          秋と灰と朱

          最後のデート

          ずっと思ってたんやけどさ、 うん。なにー? …あの三角ってなんやろ。 三角? そう建物の窓についてるやつ。 …えーなんやろな。

          最後のデート