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物食日記

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美味しいもの、美しいものが好き。 散歩とスナップに夢中。
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2022年12月の記事一覧

大晦日の紹興酒

大晦日の紹興酒

大晦日まで仕事したのは人生初だった。特別な機会だったが、強がりではなく、日毎に収入が増える今の境遇ではごく当たり前な営みに思えた。苦どころか有り難いような。会社員でありつつ限りなくフリーランスの感覚。とはいえ世間のほとんどが納めた日に働いたあとは同志を讃えたい願望からか、職場に近い鎌倉の商店に寄って買い物をしたくなった。

長谷の山屋製餡所にて正月用あんこを求め、御成通りの高崎屋本店で量り売り紹興

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ホームベーカリー元年

ホームベーカリー元年

2022年もあとわずか。一年を振り返って自分なりのイヤーオブ・マイ進化は何だろうか。真っ先に思い至るのはパンを手軽に焼けるようになった嬉しさ。きっかけは近所のお気に入りのベーカリーで定番朝食のトースト食パンを入手できない週が何度もあったこと。不意の臨時休業だったり、開店する週末に仕事や用事があり足を運べなかったり。この緊急事態に困り果てていたとき、一冊のレシピ本に出会えた。葉山一色海岸の料理教室「

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粗々しい線が好き

粗々しい線が好き

無意識でサッと描いた素朴で粗々しい線画に強く惹かれます。

太い筆のおもむくままに、歪みや滲みなんか気にしない。走りはじめたら直観でいっきに描ききる。その自由な心の働き、揺らめく景色、ひいては生き様にたまらなく魅せられます。

林 青那さんのペインティングをならい、憧れ、自分もそんなふうに曖昧大味な雰囲気をつくりたい。趣味の写真撮影や下手な料理、あるいは願わくば仕事の植栽でも。そんな願望から、彼女

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真冬のバイク通勤靴

真冬のバイク通勤靴

現在の職場はかつては幕府防衛の要衝地だった鎌倉滑川の源流地。峠の谷間に位置し、朝はマイナス3℃まで下がる。そんな鎌倉最寒エリアへ毎日カブで通い植木仕事の準備をするため本格的な防寒着で身と心を護りはじめた。走行中の寒風や霜に覆われた地面からも身体の芯に冷えが沁み入ってくるから足元の対策も肝要。

植栽作業中は野球のトレーニングシューズ『球太くん』を履く。通常の本職用足袋と比して温かく、適度なクッショ

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極暖に強く惹かれて

極暖に強く惹かれて

80〜90年代、欧米のオーセンティックなアウトドアクロージング。そのカジュアルで実用本位のウェアを手頃な価格で厚く揃える品揃えが魅力的な鎌倉極楽寺の古着店「サーカス」。先日、店主が品出しした90年代米軍の『ベアージャケット』。

恐ろしいほどの暖かさにびっくりします、という推奨コメントに強く惹かれて、たまらなく極厚なパイル生地をまとい真冬の街を颯爽と駆けたくなった。あいにく今回の入荷ではメンズ用は

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墓地掃除のマイツール

墓地掃除のマイツール

今週は横須賀の寺に3日間通い、墓まわりを掃除。古花や線香を片付け、灰をきれいに取り、手強い冬の雑草をひたすら刈り取った。

忍耐が求められる地道な仕事だけに、モチベーションをキープすべく道具は厳選した。

剪定鋏はフェルコのno.8。価格と実用性のバランスは本職向きではないかもしれないが、使っていて悦びが湧くデザイン。園芸家でもある俳優の柳生博さんから買った思い出の品。

コンパクトな箒と塵取りの

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大滝さんのシュトレン

大滝さんのシュトレン

編集者から造園業に転職し、2年目を迎えたクリスマスイブ。さまざまな感慨に浸りながら横須賀でお寺の掃除仕事。この日の晩は安ワインと「タネノキ」大滝さんが作った米粉のシュトレンが待っている。味わうシーンを想像すると心躍り仕事にも身が入った。

鎌倉に業務用軽ワゴンを戻してカブで葉山に戻る。イブの日はどうしてこうも高揚するのか。

家にある食材でいろいろ作って、〆はシュトレン。赤ワイン呑みながらちびりち

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鎌倉のあんこ

鎌倉のあんこ

月イチか月ニ、鎌倉での植木仕事の帰りに市内の長谷に寄ってから帰るようになった。最近の定番朝食、葉山一色「ポコパン」の『トースト食パン』に載せ塗るあんこを買うためだ。

鎌倉文学館のそばに佇む「山屋製あん所」は70年近く餡をつくり続けてきた老舗。和菓子店への卸売のほか、個人客にも小売してくれる。

正月三が日以外は無休で工場にひとり立つのは、3代目の山前 譲さん。粒餡、漉し餡、白餡のほか、顧客の要望

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チー活修了

チー活修了

バスク風からはじまり、ここ一か月ほど熱中したチーズケーキづくりもそろそろお仕舞いに。結局、我が家の壊れかけたレンジオーヴンと陶器のおひつではバスクチーズケーキは上手く焼けない、という結論に試行錯誤の末行き着きました。きちんと適した道具を揃えないとプロが伝授する、素人でも容易いとされるレシピですらひたすら失敗を重ねてしまう。その当たり前の真理にようやく気づき、あっさりとあきらめたのでした。できないも

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大滝さんのおにぎり

大滝さんのおにぎり

都内から京急快特の快適シートに包まれカブを駐輪している金沢文庫駅まで帰り、国道16号線を横須賀方面へ南下。この帰省時の復路ルートがあんまりにも滑らかで楽ちんだから、ルーティン化しつつある。

葉山の家に戻るまえに昼食を買いに横須賀佐野町のアトリエキッチンに寄るのもパターン化。「タネノキ」店主、大滝さんが土鍋で特別栽培米を炊き、天然塩と安心安全な具材を和えたおにぎりを持ち帰る。

この日、選んだのは

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イタリアンの特別と普通

イタリアンの特別と普通

半年毎ほどのタイミングで雑誌編集者時代の先輩と門仲で呑むのが楽しみで仕方ない。同じ職場で働いていたときは互いにほとんど話さない醒めた関係だったのに、20数年後に話題尽きない無二の呑み友達になるなんて。人との付き合いはホントどう転じるかわからないものだ。先輩はイタリアン好きゆえ、落ち合う店はその方向になる率が高い。以前は立ち呑みワインバーをハシゴ酒の頭に選んだりしていたが、ここ最近はセブンイレブンで

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冬のテラス

冬のテラス

佃島に帰った翌朝は八丁堀の川辺まで歩いてパンとコーヒーを味わう。ボートで乗りつけてテイクアウトもできる東京では稀有なロマンティック空間「Cawaii Bread & Coffee」で。

亀島川を望むテラス席では寒風に晒されて震える時季になった。それでも8時過ぎに差してくる朝陽を浴びたくて外でいただく。痩せ我慢なんかじゃない。

この澄んだ輝きが清々しい。まさに真冬の光。景色がさっぱり寂しくなった

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クリスマスのパフェ

クリスマスのパフェ

一カ月か二カ月くらい毎に心待ちしている鎌倉浄明寺の糀店「sawvi」の季節のパフェ。

新たなパフェ登場の知らせがあると、予約して向かう。鎌倉の植木作業現場からカブで数分。自分は季節のパフェを味わい尽くすために、今の職場を選んだのかもしれない。それくらい、たまの贅沢が楽しみ過ぎる。

いつもは庭の席を選ぶけれど、日没になるのが年で最速な時季。さすがにペレットストーヴの炎が暖かな室内スペースに腰掛け

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コーヒーと白磁

コーヒーと白磁

コーヒーを毎日、いろいろなカップで楽しんできて行き着いたマイベストな器は白磁。これに限るという結論に達した。

鎌倉「もやい工藝」がお客さんにサービスで供している茶は有田焼、大日窯の白磁蕎麦猪口。創業者の久野恵一さんがあえて絵付けをしない無地をオーダーしたものだ。

丈夫で口当たりが淡麗。無地なのに、不思議と素っ気なさはなく、温かみを覚えるのは、もやい工藝のあの美しく穏やかな空間で数えきれないほど

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