マガジンのカバー画像

意識「他界」系

100
犯人は伝説上の怪物? 謎の通り魔殺人事件の真相は、とある禁書が関わり出したことによって予期せぬ大惨事に…伝奇ホラー。
運営しているクリエイター

記事一覧

意識「他界」系 最終話

意識「他界」系 最終話

公安第一課 第五公安捜査:第8係は、今回渋谷で起きた超自然的大惨事の、最重要人物として小西隼人を追っていた。3件の『怪物による連続通り魔事件』と、周辺も含め現場を録画していた防犯カメラ及び車載カメラ映像を解析した結果、次の結論に達したのだ。

彼の存在が、何らかの「きっかけ」となって、今回の大惨事が起きた可能性がある、と。

捜査は難航するものと思われたが、意外なほどスムーズに進んだ。小西が巨大な

もっとみる
意識「他界」系 その99

意識「他界」系 その99

変わるもの変わらないもの。

あれだけの出来事があったのに、寒い中ベンチに座って会社の草野球を見ている自分がいる。あの日と違うのは、一番の声援を送っている相手が、憧れていた先輩ではなく、助っ人の高校球児だということ。

キーンと快音を残して、打球はセンターの後方を抜けていった。俊足を飛ばし、桑田がダイヤモンドを一周して帰ってきた。

「よし、ご褒美にオッパイ触っていいぞ」坂上早苗は胸を突き出す。

もっとみる
意識「他界」系 その98

意識「他界」系 その98

未曽有の大惨事から早一か月。

世界中で、今回の事象に関する論争は今も続いている。

各国の政府もインターネットという怪物の前に平伏し、隠蔽工作を諦めていた。情報は瞬く間に拡散し、研究者から一般人まで、それぞれの考えを書き込んでゆく。

宇宙人の襲来から異世界生物の急襲、地獄が溢れて漏れたなどという宗教的な説など、無数の人間の考えが飛び交い混沌としている。

個人が撮影したもの、監視カメラ等に残っ

もっとみる
意識「他界」系 その97

意識「他界」系 その97

目覚めた時、救急車の中にいたのは森下覇和威だけだった。まだ痛む首筋をさすりながら、ストレッチャーから起き上がる。

「あれ、救急隊の人は…」見れば運転席にも誰もいない。

ドアを開けると生臭ささと酸っぱさが混じった、吐き気を催させる悪臭が入ってきた。顔を顰めながら恐る恐る外に出た彼は、信じ難いものを目にした。そこにあったのは巨大な黒い固まり。大型タンクローリー程のそれは、よく見ると蛇の頭のようだっ

もっとみる
意識「他界」系 その96

意識「他界」系 その96

ムカつくんだよ、ホント。

同調した灰色の怪物を3体連続で倒された。補充は幾らでもあるとはいえ、気分の良いものでは無かった。

相性というのがあるのかもと考えた王人は、最初にダイブを試みた、頭がシュモクザメ風のグレーマンを探した。そいつはモアイ像に遠くない場所で見つかった。逃げ惑う人間を冷酷無比に襲う姿を見て、なぜフィットしたのかが分かった。手が長く足が短い他のと比べ、全体のバランスが人間に近いの

もっとみる
意識「他界」系 その95

意識「他界」系 その95

長年染みついた習慣は、簡単には治らないものだ。

青龍刀を怪物の土手っ腹に突き刺した後、つい右手の人差し指を眉間に持っていってしまった。

メガネを直す癖。

もう、必要ないのに。

左手を修復された時、体質までもが変化したようだった。今や、かつて無いほどのクリアな視界。視力はもちろん、身体能力も別人のようだった。走っても息も乱れない。とんでもない高さまでジャンプも出来る。以前なら両手でやっと持て

もっとみる
意識「他界」系 その94

意識「他界」系 その94

まごうこと無き圧倒的有利。生殺与奪の権は、今まさに王人の手中にあった。

モアイ像から無理矢理引き剥がされた高木は、誰かの臓物と吐瀉物の中に顔から落ちた。その赤黒く汚れた顔を持ち上げると、泣きながら何度も土下座した。「た、助けし」

シュモクザメ風の頭をしたグレーマンに同調している王人が、それを聞き入れるはずがなかった。何度殺しても殺したりないほどの積年の恨み。死んでからも墓にクソをぶっかけてやろ

もっとみる
意識「他界」系 その93

意識「他界」系 その93

人間にも多少の再生能力は備わっている。傷口は塞がるし、骨も時間は掛かるが繋がる。しかし指が切断されれば生えてくるということはない。

今対峙している灰色の怪物は、指を切り落とされても瞬時に再生してくる。断片から体全体を再生できるプラナリアに近い生き物なのかもしれない。

悪いことに知能はプラナリア並みではなく、むしろ人間に近かった。陳たちのグループはじわじわと囲まれ、1人1人確実に狩られていった。

もっとみる
意識「他界」系 その92

意識「他界」系 その92

スクランブル交差点のアスファルトを割って現れた触手たちが、まるでイソギンチャクのように見えた。人間の体液を吸収することで、更に触手が加速度的に増えてゆく。新たに現れた触手は勢い余って、倒れた人間たちを跳ね上げてゆく。ポンポンと打ち上げられた人たちはビルのガラスを突き破ったり、信号機に引っ掛かって身体を真っ二つにしたり、広告看板にぶつかり潰れ、肉の固まりになった。

まるで蟻のように湧き出てくるので

もっとみる
意識「他界」系 その91

意識「他界」系 その91

世界同時多発的「異世界生物」による攻撃が起こった場合、それはパソコン用語でいうゼロデイ攻撃。脆弱性を解消する手段がない状態で脅威にさらされたら、セキュリティホールを塞ぐ手立てを人類は持ち合わせいない。

潜り込んでいたトロイの木馬により、「魔」がファイアウォールを突き抜けて現れた現在、手立ては一つしかない。

「魔」というウィルスを隔離し、消去すること。

各国の首脳が、「魔」の現れた場所を攻撃に

もっとみる
意識「他界」系 その90

意識「他界」系 その90

軽くウエーブの掛かった黒髪。憂いのある涼し気な瞳。見ているだけで心が躍るほどの美しい相貌。ぎりぎり少年と呼べる年齢だろうか。ただし、男性器の部分だけは猛々しく大人びている。少年は全裸だった。

傷付いた左腕を彼が持った。少年の猛々しい部分が移川民子の頬に触れた。少年が身体を動かすごとに、先端が民子の鼻に当たったり唇をかすめたりする。

処女ではあるが、いや処女であるからこそ民子は性に関する情報収集

もっとみる
意識「他界」系 その89

意識「他界」系 その89

ようやくつながった松尾羽翔の携帯電話に出たのは、杉山という名の部下だった。松尾羽が死んだという事実を飲み込めないまま、梶山は彼に言われた通り電子メールを開いた。件名は短く「友へ」だった。

『君がこのメールを目にしているということは、恐らく僕はこの世にいないのだろう。この文章を書かねばと思ったのは、君が電話で助けて欲しいと頼んだ女性、移川民子の名前を聞いた時だ。

君の立場なら調べればすぐ分かった

もっとみる
意識「他界」系 その88

意識「他界」系 その88

既に握力のほとんどない右手からスマートフォンが零れ落ちた。

電話越しの呪文は、残念ながら移川民子の身体に何の変化も与えなかった。怪物に噛み千切られ左手は相変わらず手首から先がなく、肘から先はボロボロのままだ。

見ず知らずの男に、処女であることを告白して…結果、何も得られなかった。

激しい縦揺れが民子の身体を襲った。階段下まで一気に転がり落ちる。途切れかけていた意識が、あまりの激痛で戻った。後

もっとみる
意識「他界」系 その87

意識「他界」系 その87

生まれてから32年間、心の奥底で泣き叫ぶ蝉の声---嵯峨根はそれを必死に抑え込んで生きてきた。蝉の声が高まった時、それを掻き消すために相手の男を殴っていた。それが高じてヤクザの世界に行き着いた。

この、地獄が突如出現したかのような渋谷で、嵯峨根は出会ってしまった。未だかつてない程、心の底で激しく蝉を泣かせる男に。

彼は仲間から「隊長」と呼ばれていた。背中にはSATの文字。その風貌は人の言葉を話

もっとみる