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意識「他界」系 その94

まごうこと無き圧倒的有利。生殺与奪の権は、今まさに王人の手中にあった。

モアイ像から無理矢理引き剥がされた高木は、誰かの臓物と吐瀉物の中に顔から落ちた。その赤黒く汚れた顔を持ち上げると、泣きながら何度も土下座した。「た、助けし」

シュモクザメ風の頭をしたグレーマンに同調している王人が、それを聞き入れるはずがなかった。何度殺しても殺したりないほどの積年の恨み。死んでからも墓にクソをぶっかけてやろうかと思うほどの憎しみ。

まずは左手で高木の頭を掴み立たせた。右手の鋭い爪で黒のスーツ、水色のワイシャツをビリビリに破いた。身体中に走る爪痕。乱暴にやったせいで、パンツを脱がせた時には男性器を千切ってしまった。だが、これから行う残酷な復讐劇の中では、ささやかな前フリに過ぎない。狂ったように悲鳴を上げる高木の口の中に、落ちたイチモツを拾って捻じ込んだ。

ちっ、もう気を失いやがった。

王人は高木の左耳を乱暴に毟り取った。その痛みで高木は目を開いたが、既に焦点が定まっていない。自分のモノを吐き出すと、ヘラヘラと笑い出した。

王人の中から、高木に対する興味が急速に失われていった。殺すべき価値すらも無い。これから一生、男としての機能を失ったまま、失意に打ちひしがれながら生きて、苦しめ。全身の醜い傷と共に。

すっと意識が元に戻った。また上空から俯瞰で見る景色。満腹になったのか、触手たちは白い紐を出すこともなく、ただゆらゆらと揺れている。代わりに増えたグレーマンがまだ動いている人間たちを追いかけては殺しまくっている。

終われ、世界。終われ、人類。神の視点から、虫けらのように逃げ惑う人々を見ながら、王人の全細胞が歓喜に震えた。

そんな中、特異点が見つかった。

刀を振り回し、グレーマンと戦っている女。

クソ女が。俺様がこれから作り上げる完璧な世界を邪魔するな。

王人は女の傍にいた、ひと際巨大で、頭の形がナイフのように尖っているグレーマンの意識に同調した。

さあ、その腹掻っ捌いてやるからな。

近付いてみると、女はただ戦っているだけでは無いのだと分かった。

「逃げて! ここは危険だから建物の中に逃げて!」

逃げ遅れて右往左往している人たちを避難させていたのだ。

何なんだ、この女。何をしてるんだ? 自分だけ逃げればいいだろうに。

命懸けで見ず知らずの人間を助ける行為。まるで王人には理解できない思考。その疑問が、彼の中に一瞬の隙を作った。

女はそれを見逃さなかった。左右2体からの爪をジャンプして避けると、空中で一回転して着地し、王人の同調しているグレーマンの腹に刀を刺した。

弾かれた様に意識が再び俯瞰した景色に戻った。

あのクソ女。絶対に許さねえ。アイツだけはブチ殺す。

高まり過ぎた怒りは、まずは目の前に飛んできたヘリコプターに向けられた。王人の憤怒に弾き飛ばされた自衛隊の戦闘ヘリは、QFRONTビルに突き刺さり爆発した。


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