意識「他界」系 その97
目覚めた時、救急車の中にいたのは森下覇和威だけだった。まだ痛む首筋をさすりながら、ストレッチャーから起き上がる。
「あれ、救急隊の人は…」見れば運転席にも誰もいない。
ドアを開けると生臭ささと酸っぱさが混じった、吐き気を催させる悪臭が入ってきた。顔を顰めながら恐る恐る外に出た彼は、信じ難いものを目にした。そこにあったのは巨大な黒い固まり。大型タンクローリー程のそれは、よく見ると蛇の頭のようだった。その左目がドロリと落ちた。
「つうか、ウソだろマジで」
誰でもいい、誰かいないのか? 救急車の傍で倒れていた隊員を見つけて抱き起した。その顔を見た覇和威は悲鳴を上げて尻餅を付いた。隊員は中身を全部吸われたかの如く、皺くちゃの干物のようになっていた。良く見れば地面には同様の人間たちが転がっている。それも1人2人ではなく、折り重なるように大量にだ。
「ガチだ、ガチでヤバい奴だこれ」
視界の中に、何か動くものがあった。先程の、巨大な蛇の左目の中。
突き破って出てきたのは、グレーのパーカーを着た人間。2、3歩歩くと、アスファルトに広がった透明な粘液の中に倒れた。
躊躇したが、覇和威は近寄った。生きている人間がいるなら、この状況が何なのか聞くこともできる。
「おい、大丈夫か? 何があった?」
「何って…」身体を起こした男は、自分の胸を触ってから激しく首を振った。「俺は…俺は死んでないのか?」
「あぁ、生きてるって。あの怪物の喰われたのか?」
「喰われた?」男はまじまじと黒い塊の方を見てから、急に狂ったように笑い出した。「死んでないんだ、俺」
「どっちみち、良かったじゃねぇか。俺は森下覇和威ってんだ、よろしくな」
「ハワイ? それって名前なのか?」
「あぁ、皆に言われるから慣れっこだ」
「アンタの気持ち、よく分かるよ」男は覇和威に向かって右手を差し出した。
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