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意識「他界」系 その93

人間にも多少の再生能力は備わっている。傷口は塞がるし、骨も時間は掛かるが繋がる。しかし指が切断されれば生えてくるということはない。

今対峙している灰色の怪物は、指を切り落とされても瞬時に再生してくる。断片から体全体を再生できるプラナリアに近い生き物なのかもしれない。

悪いことに知能はプラナリア並みではなく、むしろ人間に近かった。陳たちのグループはじわじわと囲まれ、1人1人確実に狩られていった。手練れの部下8人のうち、既に5人失った。脱出路を探して頭を振り回していた陳は、雑居ビルのから出てくる奇妙な2人を見て、こんな非常時ではあるが凝視してしまった。

上下紺のリクルートスーツで下はパンツスタイルの女と、背は高くはないが均整の取れた肉体の少年。少年はなぜかは知らないが全裸だった。

2人を見つけたのは陳だけでは無く、近くにいた灰色の怪物がすぐさま襲い掛かる。

全裸の少年は見向きもせず、怪物の方に手の平だけ向けた。

消費者金融の巨大な看板が落ち、その鉄の固まりに怪物は押し潰された。

女の方はなぜか、左腕の方だけ服が破れ剥き出しだった。その腕で倒れた仲間の青龍刀を拾い上げ、全裸の少年に何か言うとスタスタと駅の方に向かって歩いて行ってしまった。

呆気に取られている陳に少年が近寄ってきた。「斬るんじゃなくて突くんだよ、急所を。見本を見せるから真似して」

少年の右手に、その身体とは不釣り合いな長剣が現れた。

一番近くにいたグレーマンに近付いていき、その爪による攻撃を最小限の動きで避けると、腹部に長剣を突き刺した。動きが固まった怪物は、立ったままドロドロと溶けていった。

弱点が分かれば簡単だった。陳と3人の部下たちが周囲のグレーマンを倒すのにそれ程の時間は掛からなかった。

ガードレールに腰掛けて退屈そうにしている少年に陳は礼を言った。「有難う、助かったよ。ところで彼女は何をしに行った?」

「僕が親玉を焼き払うって言ったら、彼女怒っちゃって」

「怒る? なんで?」

「下にいる人間はどうなるのって聞くから、そりゃ一緒に消滅するだろうねって言ったんだ。そしたら彼女、その前に下の人間を避難させるって」

「一緒に行ってあげなくていいのか?」

「彼女にも言われたけど、人助けが僕の仕事じゃないからね。邪魔者を消すこと以外に興味はない」

「そうなのか…それと気になったんだが、なぜ服を着ていない?」

「どんな姿でも別にいいんだけど。最初に会った人間の望んだイメージがこれだったから、まあ。変えるのも面倒だし」

「望んだイメージ?」陳には少年の言っている意味が良くわからなかった。

「彼女、死に掛けていたし、神様のイメージと、心の奥底の願望が入り交じって僕みたいな感じのが出来上がったんじゃないの?」

「か、神様?」死体の山から起き上がる人間がいた。死んだふりをしていた坂上早苗だ。

「ほらイカ臭い童貞ども、もう大丈夫だぞ。裸の美少年の姿をした神様が降臨なすった」周りで同様に死んだふりをしていた高校球児たちの頭を叩いて起こす。

「にしても、地味な顔して、どんだけスケベな女だよ」アタシだったら、せめて服は着せるけどねと、早苗は下衆な表情で笑った。


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