シェア
透々実生
2023年1月29日 10:57
目次前話Post-Preface 3:捕捉。***「――お前の報告はよく分かったぜ、『破壊屋』」 報告を電話で受けた男の返答には、明るさと怪訝さが混じっていた。 彼はカラオケボックスに座っていた。画面の向こうでは女性司会が楽しげに売れっ子アーティストにインタビューをする様子が、話の邪魔とばかりに無音にされたまま流れている。 その足元には干からびたミイラが2体。元々は若いカップルだ
2023年1月28日 09:56
目次前話Epilogue:残る謎。 キスをした後、落ち着いたカナと暫く病室で話していると、机の上に置いていたスマートフォンが鳴った。通知欄には『通知』とだけ書かれていた。急いで取る。 今回の事件の功労者からの電話だ。『今は話して大丈夫だよね』 通話ボタンを押すや否や、前置きもなく話を進めようとする夢果の声が響く。「勿論だ、夢果――というか、いやに断定形だな。話して大丈夫だよね、って」
2023年1月27日 08:39
目次前話Episode 20:塩辛い味。*** 最早、良辞医師からは溜息しか漏れ出なかった。 目が覚めた後に溜息だけを吐いて、お付きの無表情な看護師と共に病室を出ていった。 とは言え、やはり『最低』先生の腕は最高だった。ライオンに両肩をめちゃくちゃにされたにも関わらず、手術によって完璧に治療されたのだ。安静にしていれば予後は良いだろうということらしい。その言い付けを守らないと今度こそ
2023年1月26日 08:47
目次前話Episode 19:プレイ・ザ・カード。*** ――サーカスに来てから今に至るまでの記憶が全て頭の中を流れていった。 気付けば今は、ナイフで抉った目から血を流すライオンが見える。 割と詳細な記憶の流れだった。人はこれを走馬灯と呼ぶのかもしれないが、生憎自分はまだ死なない。死ぬ訳にはいかない。 そこで倒れているカナが殺される訳にはいかないからだ。「殺せ!」ピエロが叫ぶ。「
2023年1月25日 08:53
目次前話Episode 18:ピリオド。 ビスタが吼える。咆哮で奮い立たせた筋肉が盛り上がり、カナの方へ向けて跳躍。「っ、おいおい冗談じゃねえって!」 カナを抱えた鐡牢が横に飛んで逃げる。ビスタの爪は標的を喪い、テントの壁をざくりと裂いた。自らの過ごしてきた青いテントの壁を。 再び吼えて地面を思い切り肢で叩く。ぐちゃりと音が鳴った。奇季の肉片が粉々になる音だった。血と肉片が辺りに飛び散
2023年1月24日 08:53
目次前話Episode 17:前門の彼女達、後門の獣。「あ、えーた。やっぱりここにいたんだね」 手を後ろに組んで首を傾げつつ、にこりと笑うカナ。自分も努めて笑顔を作った。ただ、上手く出来てるのかどうか分からない。 どんな顔をすれば良いというのだ。 隣にはマジシャン奇季、カナにとっては見知らぬ男、そして檻から出た猛獣。まずこれに対する疑問が出て然るべきではないのか? 『えーた!? こ
2023年1月23日 09:32
目次前話Episode 16:異変。 抜き足、差し足、忍び足。 音1つすら立っていないテント群を通る時の自分と奇季は、まさにそんな状態で歩いていた。とてもじゃないが、周囲の人間を起こす訳にはいかない。少なくともビスタのテントに辿り着いて、ビスタと交渉するまでは。会話することもなく、2人揃って静かに目的地へと向かっていた。 1分経たずに、テントに辿り着く。入り口前には既にあの大男――鎌川鐡
2023年1月22日 11:52
目次前話Episode 15:静寂の作戦会議。 風呂場でもあれだけ騒がしく、テントに帰って来ても賑やかさを保っていたサーカスは、就寝時間を迎えると嘘みたいに森閑としていた。 月明かりに照らされるテント群。一転して不気味な雰囲気が漂う。件の幽霊屋敷で抱かなかった感情だ。自分にとっては、月並みな言葉だが『幽霊なんかより人間の方がよっぽど怖い』。 音1つ響かないテントの間を通ると、それがまた不
2023年1月21日 11:18
目次前話Episode 14:裸の付き合い。 サーカスのテントが張られている町一番のショッピングモールから(主観的にはそこそこ距離の離れた)徒歩10分の位置に、町唯一の銭湯がある。いつもは周辺住民が数人集まれば関の山だが、大挙で押し寄せ、今や数十人がごった返して大盛況だった。 番台を通って(ちなみに銭湯代は奢ってもらった)中に入れば、けたたましい雑談が鼓膜を殴打してくる。頭が痛くなりそうだ
2023年1月20日 08:23
目次前話Episode 13:先に立たぬ。 5分くらい経っていただろうか。食堂に戻るとカナが変わらぬ笑顔で談笑していた。ホッとすると、カナが振り向き手を振る。「おかえりー……ってキキさんと一緒だったんだ」「帰る途中に偶々会ってね」 自然に返して席に着く奇季。彼女に倣って自分もカナの隣に座る。「えーた、おかわりとかしなくて大丈夫?」 カナに訊いてもらったが、これは丁重に断ることにする
2023年1月19日 08:49
目次前話Episode 12:『対』話。「ねえ、どうなのさ。答えてよ」 マジシャン、奇季。苗字すら知らない彼女は、シルクハットの下で微笑みながら質問してきた。 ……どうする? 自分の頭がフル回転しているのが分かる。『最低』先生に『空回る思考回路』と言われたあの記憶が不意に脳内の引き出しから滑り落ちるが、空回っても何でも、回さなければ意味が無い。行為を行えばコンマ以下でも正の数にはなる