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【連載小説】0n1y ~生物失格と呪われた人間~

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人間というのは随分と身勝手だ。 自己中心的で自己満足的で自己保身的で自己保存的だ。 自分が一番可愛くて、そんな自分を穢されるのが許されなくて、他人を貶して貶める。 その貶し貶めが…
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2023年1月の記事一覧

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Post-Preface 3)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Post-Preface 3)

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前話

Post-Preface 3:捕捉。***

「――お前の報告はよく分かったぜ、『破壊屋』」

 報告を電話で受けた男の返答には、明るさと怪訝さが混じっていた。
 彼はカラオケボックスに座っていた。画面の向こうでは女性司会が楽しげに売れっ子アーティストにインタビューをする様子が、話の邪魔とばかりに無音にされたまま流れている。
 その足元には干からびたミイラが2体。元々は若いカップルだ

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Epilogue)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Epilogue)

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前話

Epilogue:残る謎。 キスをした後、落ち着いたカナと暫く病室で話していると、机の上に置いていたスマートフォンが鳴った。通知欄には『通知』とだけ書かれていた。急いで取る。
 今回の事件の功労者からの電話だ。
『今は話して大丈夫だよね』
 通話ボタンを押すや否や、前置きもなく話を進めようとする夢果の声が響く。
「勿論だ、夢果――というか、いやに断定形だな。話して大丈夫だよね、って」

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 20)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 20)

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前話

Episode 20:塩辛い味。***

 最早、良辞医師からは溜息しか漏れ出なかった。
 目が覚めた後に溜息だけを吐いて、お付きの無表情な看護師と共に病室を出ていった。
 とは言え、やはり『最低』先生の腕は最高だった。ライオンに両肩をめちゃくちゃにされたにも関わらず、手術によって完璧に治療されたのだ。安静にしていれば予後は良いだろうということらしい。その言い付けを守らないと今度こそ

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 19)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 19)

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前話

Episode 19:プレイ・ザ・カード。***

 ――サーカスに来てから今に至るまでの記憶が全て頭の中を流れていった。
 気付けば今は、ナイフで抉った目から血を流すライオンが見える。
 割と詳細な記憶の流れだった。人はこれを走馬灯と呼ぶのかもしれないが、生憎自分はまだ死なない。死ぬ訳にはいかない。
 そこで倒れているカナが殺される訳にはいかないからだ。
「殺せ!」ピエロが叫ぶ。「

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 18)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 18)

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前話

Episode 18:ピリオド。 ビスタが吼える。咆哮で奮い立たせた筋肉が盛り上がり、カナの方へ向けて跳躍。
「っ、おいおい冗談じゃねえって!」
 カナを抱えた鐡牢が横に飛んで逃げる。ビスタの爪は標的を喪い、テントの壁をざくりと裂いた。自らの過ごしてきた青いテントの壁を。
 再び吼えて地面を思い切り肢で叩く。ぐちゃりと音が鳴った。奇季の肉片が粉々になる音だった。血と肉片が辺りに飛び散

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 17)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 17)

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前話

Episode 17:前門の彼女達、後門の獣。「あ、えーた。やっぱりここにいたんだね」
 手を後ろに組んで首を傾げつつ、にこりと笑うカナ。自分も努めて笑顔を作った。ただ、上手く出来てるのかどうか分からない。

 どんな顔をすれば良いというのだ。

 隣にはマジシャン奇季、カナにとっては見知らぬ男、そして檻から出た猛獣。まずこれに対する疑問が出て然るべきではないのか? 『えーた!? こ

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 16)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 16)

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前話

Episode 16:異変。 抜き足、差し足、忍び足。
 音1つすら立っていないテント群を通る時の自分と奇季は、まさにそんな状態で歩いていた。とてもじゃないが、周囲の人間を起こす訳にはいかない。少なくともビスタのテントに辿り着いて、ビスタと交渉するまでは。会話することもなく、2人揃って静かに目的地へと向かっていた。
 1分経たずに、テントに辿り着く。入り口前には既にあの大男――鎌川鐡

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 15)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 15)

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前話

Episode 15:静寂の作戦会議。 風呂場でもあれだけ騒がしく、テントに帰って来ても賑やかさを保っていたサーカスは、就寝時間を迎えると嘘みたいに森閑としていた。
 月明かりに照らされるテント群。一転して不気味な雰囲気が漂う。件の幽霊屋敷で抱かなかった感情だ。自分にとっては、月並みな言葉だが『幽霊なんかより人間の方がよっぽど怖い』。
 音1つ響かないテントの間を通ると、それがまた不

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 14)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 14)

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前話

Episode 14:裸の付き合い。 サーカスのテントが張られている町一番のショッピングモールから(主観的にはそこそこ距離の離れた)徒歩10分の位置に、町唯一の銭湯がある。いつもは周辺住民が数人集まれば関の山だが、大挙で押し寄せ、今や数十人がごった返して大盛況だった。
 番台を通って(ちなみに銭湯代は奢ってもらった)中に入れば、けたたましい雑談が鼓膜を殴打してくる。頭が痛くなりそうだ

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 13)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 13)

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前話

Episode 13:先に立たぬ。 5分くらい経っていただろうか。食堂に戻るとカナが変わらぬ笑顔で談笑していた。ホッとすると、カナが振り向き手を振る。
「おかえりー……ってキキさんと一緒だったんだ」
「帰る途中に偶々会ってね」
 自然に返して席に着く奇季。彼女に倣って自分もカナの隣に座る。
「えーた、おかわりとかしなくて大丈夫?」
 カナに訊いてもらったが、これは丁重に断ることにする

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小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 12)

小説『生物失格』 3章、封切る身。(Episode 12)

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前話

Episode 12:『対』話。「ねえ、どうなのさ。答えてよ」
 マジシャン、奇季。苗字すら知らない彼女は、シルクハットの下で微笑みながら質問してきた。

 ……どうする?
 自分の頭がフル回転しているのが分かる。『最低』先生に『空回る思考回路』と言われたあの記憶が不意に脳内の引き出しから滑り落ちるが、空回っても何でも、回さなければ意味が無い。行為を行えばコンマ以下でも正の数にはなる

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