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母は私の写し鏡だった。摂食障害で自分の存在に気付いた

父に言い返さない母。そこに社会の縮図をみた

私の父は普通のサラリーマンで母はパートで扶養の範囲で働く程度だった。私の家庭では、父が一家の大黒柱であり、母と子は父に従うという日本の典型的な家庭だった。父にひとつ意見を言おうものなら部屋から追い出された。そう。たとえ妻である母であっても。

「誰のおかげで飯が食えてると思っているんだ」なんて亭主関白な父親が言いがちな、ありきたりな言葉を何度聞いてきたことか。何度言われようとも母はその言葉に押し黙ったままだった。その姿は私から見ると完全に「敗者」だった。

子どものうちはどうしても「家庭」が「社会の縮図」に見えてしまうものなんだと思う。昔から男女の違いや格差に敏感だった私は、この家庭という狭い社会の中に「男女格差」を見つけてしまった。

そうか。この世では男が仕事をして稼いてくるから男が女の上に立てるのか。その一方、女はその男の子孫を残すことが使命で、あとは男に絶対服従なのか。これが全ての始まり。

私には母を救う必要があった。母を救うことは将来の自分を救うことでもあったから。母は私の写し鏡。母を救うことで自分を救いたかった.。

母が嬉しいと私も嬉しかった。私はいつも母の味方だった。父に言い返すことはできなかったけれど、父から私たち女子供を下に見るような発言が出てくるたびに心の中で憤慨した。

今なら父の思いにも考えを巡らせることはできる。社会人になった今、外で働いて稼ぐことがどれだけ大変かわかったから。けれど当時はどうしても父を許すことができず、ほとんど口をきいた記憶がない。

その一方、母とはよく出掛けたり、悩みを相談したりと仲が良かった。母にはずっと笑っていてほしいと思っていた。だからなのか母が好きなものを「好き」といい、母が「良い」というものを「良い」と言った。
母が興味のないものには手を出さず、常に真面目な優等生であろうとした。そうすれば母は喜んでくれたから。そしたらわたしも嬉しかった。

「母に喜んでもらいたい」に潜んでいた落とし穴

母と同じものを好きといい、同じものを選んでいたけれど、母の興味など関係なく、自分で選択して行動したことももちろんある。でも、私が興味を持ったものに母は関心を示さなかった。たとえば「これ買ってみたんだけどどう?」と見せてみても「ふーん。そう」で終わったり「まーたそんな変なもの買って」としか言われなかったり。

「私が選んだものでは母は喜んではくれないんだ」無意識のうちにこの思考が染みついていった。成長するにつれて芽を出しつつあった自我は、徐々にしぼんでいった。いや、そもそも最初からなかったのかもしれない。

母が好きなものは、私の好きなものだった。人から「sayaは何が好きなの?」と聞かれたら何の迷いもなく母が好きなものを、あたかも自分が好きであるかのように答えていた。

そう、母と私には「境界線」がなかった。お互いに相手のことを「一個人」として見てはいなかった。だから苦しかったんだと思う。同じ女である母は私の写し鏡。私ももし結婚したら、男である旦那に虐げられるのか。私も母と同じく敗者としての人生を歩むのか。そんな将来から逃れたくて、女であることから逃れたくて、私は自分の身体を削ることにした。

摂食障害で私という存在に気付いた

ダイエットという身体を削る行為を行う中で、食事を自分で調整し始めたというのは、私にとって大きな出来事だった。食事の摂りかたというのは、子供の頃の家庭環境の影響をかなり受けると思う。

たとえば、朝食はご飯なのかパンなのか、一食でどれくらいの量を食べるのか、一食当たりのおかずの数、など挙げればきりがない。その習慣を一気に壊し、徹底的に食事制限を行ったことで、私は欲しい身体を手に入れることができた。それは私にとって、初めて自分で選択し行動したことで手に入れた結果だった。「これが私だ」と思った。かなり誇らしかった。

もちろん母は歓迎しなかった。必死に元の食生活に戻そうとした。でも今回ばかりは母の言う通りにはしなかった。それどころか、初めて母に対し反抗的な気持ちを抱いた。「これが私なんだからもう口を出さないでよ」っていう。

そこで気付いた今まで私は、母に批判ばかりされていたということに。「私」を表現して、受け入れてもらったことなど一度もないってことに。
母が好きなものを自分の中に取り込んでいただけであり、以前の私が本当の私ではなかったってことに。

そこで私自身もやっと自分と母が違う存在であることを理解できたんだと思う。もし摂食障害にならなかったらもしかしたらそれにも気づけていなかったかもしれない。

摂食障害になってよかった、までは言えないけれど、摂食障害になったことは、自分の人生にとって必要不可欠だったのだと思う。

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