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ハーバード・スクウエアのピザ戦争〜ハーバード大生に超絶人気の「ピノキオ」に「ジョーズ」が挑戦状!

美味しく、手軽に、安く胃袋を満たす食べ物の王様といえば、ピザだ。アメリカ人はピザが大好き。職場でもセミナーや会議があれば無料ピザが供され、立食パーティーでも必ずピザが選択肢となる。好きな人が多いという他にも、食器も必要なく手軽に食べられるということもあるかと思うが、他のケータリングに比べれば値段が手頃というのもピザ人気の大きな理由だろう。さて、そんなわけでアメリカでも世界的にも年々売り上げが伸びているピザ業界ではあるが、消費者の嗜好はパンデミックも手伝い、大きく変わってきている。そんなピザをめぐる熱き戦いは、私の職場に近いハーバードスクウエアでも繰り広げられている。

パンデミックが変えたピザ産業

2022年、アメリカのピザ売り上げは469億ドルの過去最高を記録した。売り上げは毎年どんどん伸びている (1)。どうも、ピザが好きなのはアメリカ人だけではなく、世界的な傾向のようだ (2)。2018年の報告では世界のピザ消費は5年で10%伸びると期待されている (3)。パンデミックの後、私の同僚、友人の間でも、フードデリバリーが一般化した。「メリーに首ったけ」(There's Something About Mary, 1998年映画)(4)では、リー・エヴァンスが派手なユニフォームを着たピザの配達員に扮するが、これがアメリカ人がイメージする「ピザ屋、ピザ配達員」だ。が、パンデミック後に「ウーバーイーツ(Uber Eats)」「ドアダッシュ(Door Dush)」などを使ってデリバリを頼むのはもはや当たり前の日常になってしまった (5)。

昔は、「ドミノでも頼むか」だったのが、スマホやアプリの発達により今では「ウーバーイーツで色々頼もうぜ」が当たり前だ。ドミノピザを頼んだらドミノピザが配達されてくるのではなく、加入しているレストランならどこからでもデリバリが依頼できる。私の住むアメリカのマサチューセッツ州では、フードデリバリの利用はパンデミック前と比べて2倍以上になった。2019年には4500万回利用だったのが、2021年には1億回と、凄まじく伸びている。その傾向はパンデミックが終わっても元には戻っておらず継続している。これは全国的な傾向でもあるが、消費者にとっては自由に食べたいものが選べるという点では朗報だ (6)。

アメリカでのデリバリーアプリの使用者は2015年には6600万人だったのが、2020年には1億1000万人を突破、成人の6.5%の人が毎日、42%の人が少なくとも毎月に1回はデリバリを利用している (7)。ここでも人気なのはピザだ。2004年から2019年の間、アメリカ人は年間100億ドルをピザのデリバリに費やしている。パンデミック中2021年、ピザのデリバリはついに198億ドルに達する。この傾向はパンデミック後にも収まる気配はなく、2022年には173億ドルを費やし、同様の傾向は今後も維持されてゆくと考えられている (8)。

アメリカで、ピザは最もたくさんオーダーされるファーストフードだ (9)。上記のような時代的な変化を受けて、消費者は値段以上のアピール(単に安いだけじゃなく、独特の味とか、それ以上の付加価値)を必要としている (10)。この結果、ドミノピザDomino’s、ピザハットPizza Hutなどの大型のチェーン店の、どこに行っても「月並みな」味が楽しめるピザよりも、地域に結びつきが強く、ユニークな味で勝負している独立系のピザ屋が全国的にも増えている (11)。独立系ピザ屋なら、チェーン店では不可能な、オーダーのカスタム化や地域の食材の使用なども可能で、更に食事が楽しくなる。

個々の味を出し伸びゆくアメリカの独立系ピザ屋

2022年、アメリカの大型チェーンに属するピザ屋が35,500ほどなのに対し、店舗数が少なく、家族経営主体の独立系ピザ屋は44,600件余りで、ここ数年顕著に増えてきている (12)。独立系ピザ屋の売り上げは、2021年には179億ドルだったのが、2022年には198億ドルと10%以上上昇しており、ピザの売り上げ増に貢献している。この一方で、大型チェーンは276億ドルから272億ドルと、1.5%減少してしまっている。独立系ピザ屋は、2021年には39,808件だったのが、2022年には44,644件と店舗が12%増加したことがこれを後押ししている (13)。顧客はアプリを使って簡単に注文できるし、小さなピザ屋としては自分で配達員を雇わなくてもスタンダードなデリバリーサービスを提供することができるため、独立系ピザ屋にとっては最近の傾向は朗報だろう (14)。

テクノミックの2022年の報告だと、2021年のピザオーダーの24%は、伝統的なピザ店独自の配達網ではなくウーバーイーツなどに外注されているが、 これは2020年の16%よりかなり上昇している。これも、今後続く傾向となるだろう(15)。その一方で、「月並みな味で、デリバリでもいい」大型チェーン店ピザハットは、店内で食事する広くて立地のいい店舗をアメリカ全土に多数展開してきていたが、来客数は減る一方で店舗の閉鎖を余儀なくされている。小さい独立系ピザ屋の店舗は狭く、上昇する家賃にも対応しやすいが、大型チェーン店の大規模店舗はこれも難しく、その数は頭打ちになっている (16)。

ちなみに、独立系が増えてきているのは、ピザ屋だけでなく、書店も同様だ(拙著を参照されたし)。

ハーバードスクウエアのピザ屋

アメリカ・マサチューセッツ州ケンブリッジ市(ボストン市に隣接する)にあるハーバード大学前のハーバードスクウエア(Harvard Square)は、ハーバード大学の学部生、大学院生合わせて25,266人、19,639人の教職員 (17)を擁する街でもあるが、多様性に比較的寛容なため国籍や人種も多様な人が多数住んでいる都市でもある (18,19)。

ハーバードスクウエア。大学を訪れる人で賑わうが、特に夏季は混雑する。

ハーバードの学生は1年の時にハーバードヤードにある寮(dorm)に入り (20)、残りの3年はハーバードヤード周辺に12ある“ハウス”と呼ばれる大きな建物群の1つで共同生活を送る (21)。学生は、寮やハウスのダイニングホールの食事に飽きることもしばしばだ。アメリカの大学生はよく勉強する。ハーバード大の「ラモント図書館(Lamont Library)」は24時間開いており (23)、夜を徹して勉強する学生に居場所を提供するが、勉強していたら、夜食を手っ取り早く食べたいとも思うだろう。また授業の間に、安価な軽食もとりたい。こんな学生ならではの需要を満たすには、やはりファーストフードが適している。大学周辺が観光名所であることから、ここには中〜高級なレストランも多いが、これらは必ずしも学生の懐には優しくない。想像に難くないが、そんなわけで、ハーバードの周辺には多くの安価な、ブリトー、ピザ、ハンバーガー、サンドイッチ、アイスクリームや中華などの選択肢も充実している (24,25,26)。

ハーバードヤード。1年生はこの中の寮に入る。
ローウェルハウス(Lowell House)は12あるハーバード大の「ハウス」のうちの1つ (22)。

ハーバードスクウエアには、ピザ屋が何軒かあるが、どんなピザ屋があるのだろう。まずは、ピノキオ(Pinnochio‘s)(27)。これはこの周囲のピザ屋の王様で、1966年の開店以来、学生や職員、地元住民に人気店であり続けている。四角くて、ふっくらと厚いシシリアンピザが名物だ。安価で、深夜まで営業(夜中1-2時まで)しており、学生のライフスタイルに合っていることがその理由だろう。その次はなんと言っても2023年に進出してきたジョーズ・ピザ(Joe’s Pizza)(28)。このジョーズ・ピザ、元々はニューヨークのマンハッタン発祥のピザ屋だ。1975年開店依頼、薄い生地で大きなピースのニューヨークスタイルピザで人気を博している。営業時間は夜中の2-3時までと更に長く、ピノキオの独壇場であったピザ市場に挑戦状を叩きつけた。この2店の詳細と、ハーバードスクウエアで勃発したこの「ピザ戦争」については、下に詳しく解説したい。

ハーバード大学生の機関誌であるハーバード・クリムゾン(Harvard Crimson)で紹介されているピザ屋のうち (24,25,26)、ケンブリッジ・ワン(Cambridge 1)(29)とジャスト・クラスト(Just Crust)(30)は、ともに閉店してしまっている。学術、観光の1等地であるハーバードスクウエアの店舗の移り変わりは時代を反映して非常に速い。100年以上ビジネスを維持している老舗もある。J. August Companyはハーバードロゴのお土産物屋で1891年創業、靴修理のFelix Shoe Repairは1913年の創業で、ハーバードスクウエアの中心でまだ営業しているが、比較的稀なケースだろう (31)。

そのほか、メイン州発祥のオットーピザ(Otto Pizza)(32)も2023年に進出してきている。ピジャガイモを使ったピザなどユニークなメニューがあるので、他の店の飽きた時に時に利用するのが主流のようだ。美味しいが素材をふんだんに使うので、値段が高め。営業時間も夜9-10時までと短い。オッジー(Oggi)(33)でもピザが食べられるが、中級レストランに近く、少し値段が高いので学生向けではないだろう。営業時間も7時までと短い。ハーバードスクウエアがどのように変遷していったかを解説する絶好の本が出版されたので、興味のある方には一読をお勧めしたい。
Catherine J. Turco著 HARVARD SQUARE: A LOVE STORY (34)

オットーピザもハーバードスクウエアに面しており、立地は最高だ。

ハーバードスクウエアのピザキング、ピノキオ(Pinnochio‘s)

Pinnochio‘s (27)
74 Winthrop St, Cambridge, MA 02138

「四角いピザはどこで買う?誇りあるハーバードの卒業生だったら誰でも知っているはず。ピノキオだろ(Square Pizza. Where do you get it? Any self-respecting Harvard alumnus would know. It's Pinnochio‘s)」ハーバードスクウエアから徒歩4分には、ハーバード大生に超絶人気のシシリアンピザの店「ピノキオ(Pinnochio‘s)」がある。このセリフは、ハーバード卒の(とハーバード卒を語る)弁護士を描き大ヒットしたテレビドラマ「Suits」のワンシーンで、ハーバード雑学クイズの問いとして出されたものだ。ハーバードの卒業生にこのピザ屋が相当浸透している様子がわかる。

地下鉄のハーバードスクウエア駅より近いが、店自体も小さいので、知らなければ、これが超人気店なのか?とも思ってしまう。通りがかりで入るのは難しいのではないだろうか。

小さいので、言われなければ通り過ぎてしまうほどだ。
後ろに見えるのはローウェルハウス。

1966年に開店後、ハーバード大生に愛され、店内は狭くオールドファッションだが風情があり、親しみのある店舗だ。ハーバード大生は、ハウスへの帰り道になっていることもあり、ここで友人と会ったり、夜食を買うスポットとして60年間、押しも押されもしない存在として今に至る。夏にはサマースクールの学生や観光客も多数訪れる。

ピザは、厚手の生地で四角形の「シシリアンピザ」と普通のナポリタンピザの2種類があるが、シシリアンピザがおすすめだ。ニューヨークでも分厚くトッピングの多いシシリアンピザが流布しているが、それに比べるとピノキオのピザは薄く、生地が硬く焼き上がっている (36)。トマトとバジルピザ、ペパロニピザが人気のほか、イタリアンサブなどのサンドイッチも美味しい。店内のスペースに限りがあるが(8卓しかない)、迅速なサービスと安いことでテイクアウトに便利なこともあり、学生の人気を独占していた。1スライスで$4.30, 2スライスで$8.35だ。9スライスを焼いてもらうと、$25.75(1トッピング$28.75)だ。昼間は、サブマリンサンドイッチ(サブ)がよく出るという。ステーキアンドチーズ(the steak and cheese)サブが人気だ。これは、薄い牛赤身肉を炒めたものと溶けたチーズがパンに挟んであるものだ。フィラデルフィアのフィリーチーズステーキ(Philly cheesesteak)が有名だが、フィラデルフィアではまずないが、ピノキオでは牛肉を炒め終わると仕上げの前にトッピングを何にするのか訊かれる (37)。

店内は狭いが、昔風の親しみのある雰囲気だ。
ふっくらと厚みのある「四角い」シシリアンピザが名物だ。生地は硬く焼き上がっている。

創始者リコ・ディケンソ(Rico DiCenso)氏のインタビュー

トッピングを選んだカスタムのピザなら20分ほどで焼いてくれるが、出来合いのスライスなら、あるものをオーブンで温めて1分ほどで出してくれる。

他のピザ店のピザボックスは無味乾燥なデザインが多いが、デザインが綺麗だ。
著名なゲストの写真が掲げられているが、メタ(Meta)の創始者マーク・ザッカバーグが通い詰めていたと公言していることでも知られており、彼の写真が目玉だ。彼の好物は、ステーキアンドチーズのサブと、チーズシシリアンピザだ (38)。
シシリアンチーズピザ+ステーキアンドチーズサブ。サブは素朴だが、相当の肉のボリュームがあり、味付けも美味しく、小さいサイズでもお腹いっぱいになる。
ステーキアンドチーズサブをオーダーすると、薄切り牛肉を焼き始める。
店内が非常に小さく、8卓しかない。常に混雑している。
歴史を感じさせる壁。

最近、ホールピザを頼んで待っている20分間、また店内で30分ほど食べていた印象だと、学生も多いが、近くの住民や卒業生?のオールドファンが半分以上だろうか。入れ替わり立ち替わり人が出入りし、やはりテイクアウトやウーバーイーツなどによるデリバリーが多い印象だ。

大きな特徴は、営業時間の長さ。月―土曜は午前11時から夜中の1時まで(日曜はお昼から真夜中の12時まで)の営業なので、夜更かししている学生の強い味方であり続けた。

ジョーズ・ピザ(Joe’s Pizza)の挑戦状!

Joe’s Pizza (28)
3 Brattle Street, Cambridge, MA 02138

このハーバードスクウエアのピザ屋は、2023年9月15日にハーバード大の新学期に合わせて開店し (39)、新しくモダンな感じで、いつも賑わっている。そう、このジョーズ・ピザ、元々はニューヨークマンハッタンのグリニッチビレッジ(7 Carmine Street, New York, NY 10014)発祥の独立系ピザ屋だ。ピノキオは確かにハーバードスクウエアに馴染んでいて、他のピザ屋は「新参」という印象にはなる。

ハーバード生協のすぐ隣、ハーバードスクウエア駅の目の前の1等地だ。

だが、ニューヨークに詳しい方々はピンと来るものと思われるが、このジョーズ・ピザ、1975年に開業、ニューヨーカーに味や深夜営業で有名ではあったが、2004年のスパイダーマン2でピーター・パーカーが配達員をするシーンに登場してから劇的に有名となり (40)、現在ではニューヨークに5店舗、ミシガン、マイアミにも店舗を増やしていた。

オーナーのイタリア・ナポリ出身のジョー・ポッツオーリ(Joe Pozzuoli)氏は、1975年のレシピにこだわった味を変えることなく守っていきたいと言っている。メニューは非常に薄い生地の大きめのピースが特徴のニューヨークスタイルだ。チョイスは、チーズやペペロニなどシンプルだが、ピノキオと同じく厚めのシシリアンピザも出している。1スライス$4-6、ホールピザでも$25と値段も安く、大体いつも列ができており、中のテーブルも埋まっているので、評判は上々だ (41)。

インフレの進むアメリカ、物価高のボストンにしては値段も手頃で、学生の懐には優しい。
ニューヨークスタイルの薄い生地の大きめのピザだ。

オーナーのジョー・ポッツオーリ(Joe Pozzuoli)氏のインタビュー

グリニッチビレッジ発祥のジョーズ・ピザ。映画にも出てくる

さて、ジョーズ・ピザが味だけで勝負しているのであれば、今までのピザ屋と同様の運命を辿る可能性もあるだろう。ただ、夜の1時(ハーバードの新学期には場合によっては2時まで開店とある)まで開いているピザ屋といえばピノキオだったが、なんと、ジョーズ・ピザは更にその上を行き、日―水曜は午前10時から深夜2時、木―土曜は深夜3時まで営業、と喧嘩を売っているような営業時間だ。

ニューヨークはグリニッチビレッジの店舗を彷彿とさせる装飾。皮肉なことに、ピノキオではマーク・ザッカーバーグの写真が多数はられているが、こちらのジョーズ・ピザの壁の写真には、facebookを描いた映画ソーシャル・ネットワーク(The Social Network、2010年)でザッカーバーグを演じたジェシー・アイゼンバーグ(Jesse Eisenberg)が飾られている。
店内は新しく、学生でいつも満員だ。
ニューヨークスタイルとはいえ、ジョーズ・ピザもシシリアンピザを販売している。どうなることか。。

開店後、この店はかなり流行っている。肌感覚では、ピノキオやオットーピザの客数は減っているように思えるが、これからどうなるだろうか。また、アメリカではパンデミック後インフレが甚だしく、2022年のスクウエアの報告では73%のレストランが人材の確保に苦慮しており (42)、外食産業は特に人件費の高騰に悩んでいる。パンデミック後、ボストンでは遅くまで営業しているレストランを見つけるのは至難の業になった。そんな中で、長時間の営業、安価なピザの販売をハーバードスクウエアの1等地で継続していくのは大変だと思われるが、今後の展開を見守りたい。

ハーバードピザ戦争は何を訴えているのだろうか?

パンデミック後、インフレや人件費の高騰などに悩む外食産業は、ロボットの使用なども盛んに議論されているが (45)、ピノキオでロボットが操業しているのは想像できない。今、外食産業には、客だけでなく、職場で従業員の待遇をいかに良くするか、ということが盛んに議論されている (46)。ピノキオで店員と話している人たちを見ると、地域の顧客に愛され、特別な結びつきのある方が、従業員としてもやりがいがあるのではないだろうかと思う。そんな人たちがこのピザ屋を維持していってくれることを切に願う。

デリバリピザの流行で、実はチェーン店のレシピを使ってデリバリ専業としている業者も出現し、それが評判の高い独立系ピザ屋と紛らわしい名前でオンライン営業しているケースなどがあり、顧客が頼んだピザが一体何なのか、わからないという例も報告されている (43)。この記事のように、独立系のレストランの味を実際に行かなくても楽しめる、ということで、行ったことがなくても,他人のレビューだけを参考に注文している人も多い。ピノキオ、ジョーズ・ピザ戦争は、このようなパンデミック後のフードデリバリ産業のデジタル化とは、おそらく、最も対極にある話だろう。ただ、今後、双方とも店の売り上げの割合がほとんどデリバリになってしまった場合には、この小さなピザ屋でハーバードホッケーの写真や記念品を見ながら、座席を譲り合って食べることの楽しさ(不便さ)は味わえないし、店員とやりとりしながら焼き立てを食べることもできない。

「ピノキオ」の特徴であった「夜間営業」は、「ジョーズ」に越される結果となった。ジョーズ・ピザに挑戦されるのはこれが最初ではないという。1974年にはやはりこのニューヨークの店とは関連のない薄い生地のジョーズ・ピザが出店していたらしいが、ピノキオを凌ぐことはできずに閉店したようだ(44)。

ピノキオでは、デジタルの争いではなく、アプリの中からは見えない、この小さい地域の中での重要なポイント、つまり、学生の食事事情、迅速性、深夜営業など、人間臭い側面が感じられた。ピノキオとジョーズ・ピザ、双方とも典型的なニューヨークスタイル、つまりオーダーする場所から見える範囲にオーブンなどがあり、ピザを作る。ここにくれば、実際に作っているのが見えるし、手際の良さも体感することができる。こんな戦いに、目が離せないと思うのは私だけだろうか。

<付記>

ボストンで、カジュアルにピザを食べる場所を3つ選ベと言われたら、次を挙げる。

1. アッパークラスト (47)
The Upper Crust Pizzeria
20 Charles St, Boston, MA 02114

ボストン近郊以外にも、カリフォルニアにもある。少し値段は高いが、個人的に一番好きなピザ。

2.ガレリア・ウベルト (48)
Galleria Umberto
289 Hanover St, Boston, MA 02113

イタリア人街であるボストンノースエンド地区にある伝説のピザ屋。シシリアンピザなら、ここが1番。ただし、朝開いて、3時までの営業だが、売り切ったら店を閉めてしまうのでお昼までに行かないと食べられない可能性が高い。そういう点で、観光で行くのであれば少し不便。

3.ラ・ピザ・アンド・ラ・パスタ (47)
La Pizza & La Pasta
800 Boylston St, Boston, MA 02199

日本でもお馴染みのイータリー(Eataly)の中に入っているカジュアルレストラン。ファーストフードではないが、焼きたての薄い生地のナポリタンスタイルピザを着席で食べるのであればここが美味しい。

番外編
レッジーナピザ (49)
Regina Pizza
11 1/2 Thacher Street, Boston, MA 02113

ボストンのピザ屋で一番古いのは1926年創業のこのレッジーナピザだ。イタリア人街のノースエンドに本店があるが、支店もいくつかあるほか、サウスステーションのフードコートや近所のスターマーケット(スーパー)でも販売していたりする。比較的安価に食べられる。

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