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丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

丸谷才一『裏声で歌へ君が代』、または「国家」について

わたしは一人の作家が気になりだすと、飽きるまで読み続けるという癖がある。
丸谷才一もそんな作家のひとりだ。
昨年の暮れから読み始めて、『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』と、まるで亀の歩みのようにのろのろと読みすすめ、先日『裏声で歌へ君が代』を読み終えた。
(その間、図書館で借りた『忠臣蔵とは何か』は早々に挫折した。)

『輝く日の宮』『笹まくら』『たった一人の反乱』については、すでに

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映画『マリウポリの20日間』を観て

映画『マリウポリの20日間』を観て

4月26日公開の『マリウポリの20日間』を観た。

マリウポリはウクライナ東部ドネツク州、ロシアとの国境近くの工業都市だ。
2022年2月24日にロシアが一方的にウクライナ侵攻を開始してから20日間、AP通信記者がマリウポリに入り、取材活動を行った。
映画は、ロシア軍のミサイルや戦闘機の爆撃を受け、戦車に包囲された地区で記者のカメラがとらえた映像を、1時間半にわたって編集したものである。

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紙の本に復権のきざし?

紙の本に復権のきざし?

以下は、2023年の3月に公開し、その後ある事情で削除していた記事を、若干修正したうえで、再掲載するものです。



新聞で意外な記事を読んだ。アメリカで紙の本の人気が復活し、「約10年続いた(書店の)店舗数の縮小傾向に歯止めがかかってきた」とのことだ。

2021年の米国市場での紙の書籍販売が、調査を開始した2004年以来で過去最高(8億2800万冊)を記録したというのだから驚きだ。新聞記事は

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時間・自由・芸術

時間・自由・芸術

丸谷才一の『たった一人の反乱』(1972)を読んだ。

それなりに面白く読んだが、正直言って、この小説にはさほど強い感銘を受けなかった。
なによりも主人公である「ぼく」にほとんど共感することができなかった。
それはそうだ。
主人公の馬淵英介は、通産省のエリート官僚出身で、民間の電機会社の重役に天下りし、妻の病死後一年も経たずに若い美人モデルと再婚する人物である。
やっかみ半分と言われればそのとおり

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十一面千手観音の想い出

十一面千手観音の想い出

東京国立博物館で特別展「京都・南山城の仏像」を開催中だ。
先日、担当学芸員の方による記念講演会に参加し、その後展示会場で旧知の仏像たちと再会を果たした。

南山城と呼ばれる京都府最南端の地域に、在職中に二度赴任した。
最初の赴任は2010年前後、当時小中学生の子ども二人も一緒に家族四人で三年間を過ごした。二度目は、東京に戻ってから三年を経て、単身で一年間だけ赴任した。

木津川流域のこの地域は、平

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