尻野ベロ彦

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。 子どもの頃「将来の夢は小…

尻野ベロ彦

3児を都内のインターナショナルスクールに通わすサラリーマン。 子どもの頃「将来の夢は小説家」と言っていました。 ショートショートを中心に、短い物語をたまに書いてアップしていこうと思います。 【トピックス】 ・第16回「1ページの絵本」入選 ・第20回「坊っちゃん文学賞」佳作

マガジン

  • ショートショート

    毎週ショートショートnoteなど

  • インターナショナルカルチャーショック

    子どもが通うインターナショナルスクールについての備忘録

  • 文学賞関係

    文学賞への応募にまつわるエトセトラ

最近の記事

放課後ランプ

夫が骨董市で古ぼけたランプを買ってきた。 「またガラクタを買ってきたの?」 私の嫌味も意に介さぬ様子で「面白いから見ててごらん」と夫。ランプに油を入れて火を付けると、部屋がオレンジの閃光に包まれ、私は西日が差し込む教室にいた。窓の外から白球を打つ金属バットの硬質な音と球児達の掛け声が聞こえてくる。なんで学校?夫はどこ? 「菅原さん?」 振り返ると教室の入り口に制服姿の青年が。懐かしい笑顔。そうか、これは夢なんだ。 「何しているの?」 「え⁉ああ、別に。藤井君は?」

    • トラネキサム酸笑顔

      香の顔には大きな火傷の痕があった。5歳の時に囲炉裏に落ちてしまったのだ。その火傷の痕を見られるのを嫌がり、快活で誰からも好かれた香は家に閉じこもるようになってしまった。両親は心を痛めていたが、どうすることもできなかった。 ある日、街から物売りにきた男衆の1人が、火傷の痕がきれいに治る薬が開発されたと教えてくれた。しかし、その薬は高価で貧しい農家に手が届くものではない。香を寝かしつけた後、母は不憫な娘を思って泣いた。父は怒ったような表情で、押し黙って考え込んでいた。 一月後

      • 春ギター

        春ギターの旬は4月から5月にかけて。その時期になると、ギター農家は毎日夜明け前に畑に出て、日が昇るのと同時に収穫を開始します。ギターのボディが丸く大きく育ち、ヘッドに伸びた弦がペグに巻き付き、しっかりキュっと張っていたら弾き頃の印。ひとつひとつ目で確認していきます。 収穫されたギターは、鮮度を保つために温度と湿度を管理しながら、その日のうちに演奏家に届けられます。採れたての春ギターによる生演奏は、ほんのりと甘いのに、シャキッとした軽妙さをもつバランスが絶妙。この爽やかな音色

        • オバケレインコート

          「ハナちゃんのレインコートは、なんで何も絵がかいてないの?」 保育園にお迎えにきたパパにハナちゃんが聞きました。周りをみると、可愛い動物やアニメのキャラクターが描かれたレインコートを着たお友達が、ママと一緒に楽しそうに帰っていきます。ハナちゃんが着ているのは、100円ショップで買ったビニール製の白いレインコートです。 「ハナちゃんも、ああいうレインコートが欲しい?」 ハナちゃんは「別に」と言って歩き出しました。 帰り道でハナちゃんは、保育園で何をして遊んだかを一生懸命話

        放課後ランプ

        マガジン

        • ショートショート
          30本
        • インターナショナルカルチャーショック
          5本
        • 文学賞関係
          4本

        記事

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~⑤(入学前のお勉強の話)

          子供達が韓国で通うインターナショナルスクールがやっと決まりましたが、 それはマラソンに例えるなら、大会に申し込んだというだけ。 この先、長い距離を走り切るためには、事前の練習が欠かせません。 ということで、学校が始まるまでの1か月弱、家庭教師を付けて子供達に英会話を教えてもらうことにしました。 家庭教師になってもらったのは、30代(?)の韓国人女性Kさん。二村グローバルビレッジセンターという公民館のようなところで「英語の家庭教師をします。日本語話せます」というビラを見つけ、

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~⑤(入学前のお勉強の話)

          深煎り入学式

          緊張した面持ちの新入生に向かい、校長が祝辞を述べる。 「皆さん、ご入学おめでとうございます!  新たなスタートを前に、いま、不安を感じていますか?それは当たり前。    不安は、知らないことを恐れるという人間として自然な感情なのです。  でも、世の中には皆さんの知らない楽しいこともたくさんあります。  いろいろなことを知れば不安は消えて、FUNに変わります。  皆さんも、この学校でたくさんのことを学び、  FUNをいっぱいみつけましょう!」 祝辞の後、子供達は出席番号順に

          深煎り入学式

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~④(韓国でのインター探し その2)

          (noteで短いショートショートを毎週書くことを自らに課していたら、インターナショナルスクールについての話は前回から3か月以上期間があいてしまいました。こちらは備忘録的なところもあるので、時間に余裕ができた時に、ぼちぼち書いていければと思います。前回は、韓国赴任前に、弾丸ツアーでソウルのインターを外から見学したことを書きました。今回はソウルに赴任してから、学校を決めるまでを書きたいと思います。)  我が家がソウルに引っ越したのは6月。インターナショナルスクールの新学年のスタ

          インターナショナル・カルチャーショック~うちの姉兄妹~④(韓国でのインター探し その2)

          命乞いする蜘蛛

          糸に微かな振動を感じると、蜘蛛は八本の肢を巧みに動かし素早く移動する。巨大な幾何学模様の中央には小さな人の子がいた。逃れようと藻掻けば藻掻くほど粘糸が絡みつく。 「た、助けて…」 捕らわれた子の脇では、母が半狂乱になっていた。 「この子を助けて!代わりに私を食べても構いません!」 蜘蛛は母も糸で捕らえ、目の前で子を食べ、母も食べた。 蜘蛛は山の王だ。飽くなき食欲のまま獲物を喰い尽くす。十分な栄養を得ると交尾をし、交尾後に雄も食べ、卵を産んだ。生まれてくる子は父親似かしらと想

          命乞いする蜘蛛

          桜回線

          ~世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし~ 古文で習った、この和歌の意味がまるで分らなかった。 なぜ桜がなくなると心が穏やかになるのか? 逆に、なぜ桜のせいで心が穏やかじゃなくなるのか? 先生は、私の質問に困ったような表情を浮かべながら答えてくれた。その説明は忘れてしまったが、しっくりこないという感覚と先生の困った顔だけがずっと記憶に残っていた。 「教授、いよいよですね」 助手の声で我に返る。会場は人で溢れ返り、3月なのにむせ返るような熱気が充満している。

          三日月ファストパス

          今週は、たらはかにさんに倣い、 ショートショートガーデンに「スキップの小路」で投稿しました。 リンクをこちらに貼っておきます。 https://short-short.garden/S-uCTweM

          三日月ファストパス

          お返し断捨離

          職場に大きな箱が届いた。半年前、何も言わずに姿を消した麻友子からだ。 中には映画の半券やアルバム、衣類などが丁寧に仕分けて詰められていて、 一番上にピンク色の封筒が。彼女からの手紙だった。 「突然こんなモノを送り付けてごめんなさい。  あなたのもとを去ってからも、  私はあなたにもらったモノに囲まれて暮らしてきました。  キリンが逆立ちしたピアス、ユニオンジャックのランニング、  丸いレンズのサングラス、オレンジ色のハイヒール…  どれも素敵な思い出で、これらを身に着けてい

          お返し断捨離

          突然の猫ミーム

          2024年、一本の猫ミームが生まれた。 それは愛らしい猫たちがキレキレのダンスで登場したかと思うと、 ナンセンスなボケと鋭い突っ込みを高速で繰り出し、 最後はこの世のモノとも思えない声で「ボエ~」と熱唱するという 奇妙奇天烈摩訶不思議ながら、中毒性の高いものだった。 最初は猫マニアの間で広まったが、 暇と自己顕示欲を持て余したギークらがコラージュや改ざんを繰り返し 動画の亜種を展開すると、ブームに火が付き、目ざとい広告代理店が テレビCMに流用するに至り「猫ミーム廃人」が社

          突然の猫ミーム

          レトルト三角関係

          目を覚ますと、ベッド脇に2人の男の人が立っていた。2人ともドラマで見るようなイケメンだ。1人が私の額に手を当てる。 「きょうは顔色がいいね。どれどれ熱はないかな?」 「近過ぎ!まったく油断も隙もあったもんじゃない。きょうは俺が千尋の面倒をみるから、もう帰れ!」 「嫌だね。君に任せたら三食レトルトカレーになるのが関の山だろ」 「馬鹿にするな!ラーメンくらい作れるよ。なぁ千尋、きょうは俺と遊ぼうぜ」 「カレーにラーメンって小学生じゃあるまいし。本当にしょうがない奴だな…」 私は

          レトルト三角関係

          「洞窟の奥はお子様ランチ」のお題で、冒険小説風

          帝国から南に百万里、虎や大蛇が潜む密林を抜け、潮が渦巻く海を渡った先の島の大きな洞窟の奥にその国はあった。何人もの使者がフビライ大王の親書を携え海を渡ったが1人として戻らず、遂にこのマルコに白羽の矢が立ったのだ。 訪れたのは子どもが支配する国。そこでは大人は穢れた存在とされ、異国の大人は見つかり次第殺されてしまうのだ。私もあえなく番兵に捕らえられてしまった。そして王に謁見し、大歓待を受けた。故郷ナポリのスパゲッティとハンバーグ、炒飯そしてプリンという焼き菓子が盛られた料理は絶

          「洞窟の奥はお子様ランチ」のお題で、冒険小説風

          「デジタルバレンタイン」のお題で、SFチックなショートショート

          ここはとある実験室。まだ、あどけなさの残る少女がハート型の包みを持って、1人の青年に近付いていく。 「博士、チョコレートです」 「なぜ私に?」 「きょうはバレンタインデー。愛する人にチョコレートを渡す日です」 「私を愛しているのかい?」 「はい、私は博士を愛しています」 「なぜ?」 「私は博士を愛するようにプログラミングされているからです」 「違う。それは本当の愛じゃない…」 そう言うと博士と呼ばれた青年は光線銃の引き金を引いた。撃たれた少女はバラバラになり、実験室にチョ

          「デジタルバレンタイン」のお題で、SFチックなショートショート

          【行列のできるリモコン】のお題で、青春の香るショートショート

          きょう、初めて学校をさぼった。 いつもと反対の電車に乗り、知らない駅で降りると、 そこは潮の匂いが満ちていた。 うちは祖父も父も医者で、当然 私も医者になると期待されている。 幼少の頃から塾に通わされ、県内一の進学校に入学し、 今も家と学校と塾の3か所を行き来する毎日だ。 微分積分も三角関数も、新課程の行列だってできるようになった。 でも、それに何の意味があるのか? このままリモコンロボットのように 親が敷いたレールの上を歩くだけの人生なんて耐えられない… ** 「と言

          【行列のできるリモコン】のお題で、青春の香るショートショート