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放課後ランプ

夫が骨董市で古ぼけたランプを買ってきた。

「またガラクタを買ってきたの?」

私の嫌味も意に介さぬ様子で「面白いから見ててごらん」と夫。ランプに油を入れて火を付けると、部屋がオレンジの閃光に包まれ、私は西日が差し込む教室にいた。窓の外から白球を打つ金属バットの硬質な音と球児達の掛け声が聞こえてくる。なんで学校?夫はどこ?

「菅原さん?」

振り返ると教室の入り口に制服姿の青年が。懐かしい笑顔。そうか、これは夢なんだ。

「何しているの?」
「え⁉ああ、別に。藤井君は?」
「ちょっと先生と話してたんだ」
「もう帰るの?」
「うん。菅原さん、元気でね」
「うん……」

本当は一緒に帰りたくて、でも恥ずかしくて言い出せなかった、あの日。翌日、彼は転校していった。初恋の思い出に浸っていると、「ふぅ!」っと教室が掻き消された。夫がランプを手に笑っている。

「放課後、ランドセルを放り出して一緒に遊んだよね。懐かしいなぁ……」
「ランドセル?あぁ……」

ランプが見せてくれる思い出は人それぞれということか。私の放課後は、夫には内緒にしておこう。


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