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はじめての沖縄旅行記

忘れないうちに沖縄旅行のことを書いておこうと思う

わたしはこの旅行のことをとても楽しみにしていて、楽しみすぎてナーバスになっていて過緊張ぎみなほどだった

子どもが体調を崩したらどうしよう
天気が悪かったらどうしよう
飛行機が飛ばなかったらどうしよう
仕事が片付いてなかったらどうしよう

不安はいくらでも思いつくことができた

飛行機に乗ったのは実に新婚旅行ぶりだった(8年ぶりくらい?)

特に子どもが産まれてからは、長距離の移動がしんどいし、移動に時間とお金をかけるよりは、旅先や宿泊先にかけたいと思っていたので、近場でばかり旅行していた

沖縄にいくのは意外にもはじめてだった
何度かいく機会はあったものの頓挫して、自分には縁がないのかと思っていた

わたしは常々南の島というものに憧れがあった
新婚旅行は奄美大島だった

海に囲まれた暖かい島でのんびり過ごしたいというのがわたしの一番熱烈に夢みていることだった

出発した日は雨が降っていて、空は暗く、肌寒かったから、わたしは荷造りで半袖をもっていけばいいのか長袖をもっていけばいいのかわからず、キャリーケースにとにかく大量の衣類を詰め込んだ

実に8年ぶりに乗る飛行機は、思いのほか怖くて、ほとんどパニックになりそうなほどだった

あの密室感、空の上からどこにも逃げられない感じ、気圧の変化、機体の揺れ
なにをとっても恐ろしくてたまらず、わたしって飛行機恐怖症だったんだ、とはじめて気づいた

また、飛行機は新幹線に比べて気候条件や機体の運用の関係で遅延や変更しやすく、それも予定外のことにストレスを感じるASDであるわたしにとっては不安の種だった

子どもははじめての飛行機にはしゃいでいて、それだけでも乗せてあげてよかったなと思った

娘はお気に入りのピンクのバッグに、ぬいぐるみやアクセサリーをつめて、おもちゃのリップを塗ったり、パパに買ってもらったカチューシャをつけたりして、
旅行のためにおめかししている娘をみているのは微笑ましく、永遠にこの子が無邪気なまま幸せでいられたらいいのにと切ない気持ちにもなった

沖縄に着くと、4月だというのにむっとして蒸し暑く、曇り空だったが紫外線の強さを肌に感じた

暖かく湿った気候がすきなわたしは、それだけで浮かれて、いままでの疲労や緊張や不安な気持ちが全部吹き飛んで、ほとんど躁状態でぺらぺらと陽気に喋っていた

こんもりとしげる緑や、うねうねと曲がりくねる樹々は曲線的、有機的で、熱帯の植物という感じがした

空港や街は外国人観光客や修学旅行生でごった返していた


ホテルは古めかしいリゾートホテルで、わたしの好みではないけれど、プールもビーチも食事もついていて、ゆりかごから墓場までという感じのサービスで、子連れには気楽に楽しめた

むっとするような熱気、服装は半袖のTシャツで充分で、わたしは夏の軽装がいちばんすきだから、ラフなワンピース姿でサンダルでパタパタと歩き回れる気楽なこの土地がとても気に入った

暖かくて陽射しが強いと、それだけで陽気で楽天的な気持ちになれた


連日、プールにビーチ、そしてまたプール

娘はスイミングで習ったバタ足や背泳ぎを披露して自慢げにしている

わたしは今は泳げないから、プールサイドや海辺で寝そべって、時折気まぐれに足を水を浸しては、また気だるく寝転び、Kindleで本を読んだり、ぼんやりと海を眺めたり、夫や娘に手を振って写真やビデオを撮ったりして過ごした

遠くから眺める夫と娘の姿はいっそう尊く、輝いてみえて、わたしは自分の愛している者が手の中にある歓びを強く感じた

ASDであるわたしは、一度気に入ったもの、すきだと感じたものに対する執着が強く、飽きるということがない
むしろ時が経てば経つほどわたしに馴染んで、ますます好ましく、喪失に対する恐怖は人一倍強い

現実的な問題や日々の労働からいっとき逃避して、非現実的な海と太陽とのもとで、わたしも夫も陽気で、寛容で、終始ケラケラと気楽に笑い合っていた


天気は曇天で、暑すぎることも寒すぎることもなく、時が止まっていつまでもここにいられるような気がした

わたしは夏の間延びしたあの気だるい時間がだいすきで、永遠にこんな無益な日々を繰り返すことができたらいいのにと思った

あのむっとする夏の夜がわたしはいっそうすきで、肌にまといつく熱気と湿気を半分鬱陶しく、半分心地よく感じた

夜の光には虫がたくさん寄ってきて、なんの生き物かよくわからない鳴き声の大合唱が夜空にこだまし、この鬱陶しいまでの生命力が夏なんだと思い出した


グラスボートに乗って海の底の色鮮やかな魚に歓声をあげる娘や
美ら海水族館で大水槽のなかを悠々と遊泳するカラフルな魚たちや巨大なサメに釘付けになる娘と一緒に
わたし自身も子どもに戻ったように夢中で魚を眺めてはあれこれと感想を夫や娘と言い合った

この目の覚めるような色鮮やかさは、わたしの住む土地にはないもので、新鮮で心を惹きつけられる体験だった

時間がなく、まだまだ見て回れていない箇所がたくさんあり、それが心残りだった




最終日の夜は嵐の予兆だった

子供を寝かしつけた後、海の見える小部屋で夫と電気を消して、夫はお酒を、わたしはノンアルコール酎ハイを飲みなら、真っ暗な夜空にかける稲光をふたりで眺めていた

他愛無い話をしながら、ときには無言で、夫に寄りかかって、旅の終わりに感傷的になりながら、暗闇のなか眺める雷光は、そら恐ろしくも神秘的でもあった

分厚い雲に、叩きつけるようなどしゃ降りの激しい南国の嵐、容赦なく吹きつける暴風
そして、昔の人が天罰だと感じたのも無理はないような稲妻の轟と夜空にひらめく鋭い閃光

これは夢、日常ではない終わりのある幻想なのだという感じがした



帰途は楽しみにしていた旅行が終わりつつあることにナーバスになっていたが、いざ家に着いて、荷解きをしたり片付けをしたりしていると日常が戻ってきたという感じで、ふわふわと心もとなく浮き足立っていた心が、地に足についた感じがした

夫は夕飯の鍋焼きラーメンをつくり、
わたしは黙々と洗濯機を2回と乾燥機を1回回して、砂のついたサンダルや浮き輪を洗ったりして、スーツケース2個分の荷物をあらかた片付けた

なんだか憑き物が落ちたような気分で、溜まりに溜まっていた重苦しい気持ちがリセットされたような気がした

次の日からは、疲労はあるけれど、現実の問題は何も変わっていないのに、妙にすっきりした軽やかな気分だった


また次の旅行を目指して、貯金しようと思った

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