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資生堂の新サービスを創り出すための壁と克服の秘訣

2022年4月に開始した新しいサービス「Beauty DNA Program」について、前回の記事(【ビューティーテック】DNA検査サービス|Beauty DNA Programのシステムを教えます)でも少しお話しましたが、今回はサービスの立ち上げ期に困難だった点や成功のコツについて、私なりの観点でまとめたポイントを、お話しできればと思います。

今回の説明の対象は、事業構想・立上/検証フェーズのサービスです。

新規事業開発プロセス

新しいサービスを作る時には、いくつかの方法がありますが、今回は主に既存のお客さまに向けた、新しいサービス開発を目指したものになります。

新規事業の分類

新規事業では、既存事業とは違って、考えたことを試してみることが必要です。私たちのような企業のケースでは、スタートアップ企業とは異なり、すでに持っている資源を利用することができる一方、既存の事業や会社全体の方針を十分に考慮しなければなりません。

同じような課題を抱えている新規事業担当者の皆さんの参考になれば幸いです。


とにかく関係者が多い

資生堂の戦略的会社である【資生堂インタラクティブビューティー】が、資生堂およびそのグループ会社に、デジタルマーケティング業務とデジタル・IT関連業務を提供しています。今回のサービスは、商品販売は直営店含め、全国の得意先さま約400店舗の店頭で行われ、売上はその得意先さま、および資生堂ジャパンに貢献します。さらに、資生堂グループ内の関連部門ひとつとっても、非常に多岐にわたります。

社内関連部門一覧抜粋
※わかりやすくするために本来の部署名から変更
※SJ:資生堂ジャパン、SIB:資生堂インタラクティブビューティー、HQ:(株)資生堂

進めていく中で分かったことは2つあります。
1つ目は、それぞれの立場や経験から意見や考え方の違いが多く発生するという課題です。例えば、経営層と営業や店頭で働くスタッフの意見が違ったり、営業部門内では現場と内勤スタッフで意見が違ったりすることがあります。
2つ目は、既存の業務はしっかりと仕組化されているが、新しい業務はどう構築すれば良いか分からないという課題です。今回に関して言うと、実際にモノ(例:化粧品のような商品)がない状況で、やり取りをどう進めたら良いか、誰と調整をすれば良いかが分からず、困ってしまいました。

秘訣①:経営層、現場間含めて方向性・ゴールを一致させる

それぞれの立場からの意見の食い違いは、具体策の検討部分でよく起こります。例えば、DNA検査結果画面の項目やデザインについて、サービス構築担当者とカウンセリング担当者の意見が異なったり、プロモーション施策内容については、経営層、営業担当者、店頭販売担当者の視点で意見が分かれたり、と。
経営層の考えを実行すること自体が目的になってしまい、現場で些細な言い争いになったこともありましたが、当初の目的を再確認し合うことで意見がまとまり、経営層に私たちのやり方を受け入れてもらえることもありました。目的が達成されていれば、手段についてはあまり問題視されませんでした。

秘訣②:それぞれの部門、各担当者が自発的に動く状況を作る、意識付け

新しいことを始める場合、いくつかの仕事が絡み合って、進め方や目標が分かりにくいことがあります。例えば、新しいサービスの物流やお金の流れを考える場合、チャネル、物流、経理に関連することがあります。
最初は、難しい仕事を細分化して、各担当者に分かりやすく伝達することが重要です。詳しく知らなくても、関係者に聞きながら、プロジェクトメンバーが進める必要があります。
具体的な内容を各関係者に伝えることができれば、業務を担当している人ほど、自分の仕事として認識し、自発的に対応してくれます。

アジャイルな推進が難しい!

新しいサービスを開発する場合は、仮説検証のプロセスが非常に重要です。一般的には、市場の評価を確認したあとにサービスを改善し、事業計画をブラッシュアップしていくアジャイルなプロセスを繰り返しながら、ビジネスとして成り立たせます。

サービスを変更する場合には、店頭のお客さまへの案内だけではなく、第一線でお客さまに接するPBP(美容部員)や営業部門、コンシューマーセンターへの情報連携、周知徹底などが必要です。またキャンペーンなどの施策についても、クリエイティブ部門やメディア管理部門、法務・薬事部門への確認、各ブランドの施策確認など多岐にわたります。

スタートアップ企業のデジタルサービスなら、規模や内容にもよりますが、1週間や1か月ごとに改善やアップデートができると思います。しかし、多くの関係者を巻き込む大企業にてこのようなサービスを改善・アップデートするには、最短でも3か月、長くて1年かかることもあります。

秘訣③:クリティカルなポイントを把握して動く

既存の業務がしっかりしている場合は、情報を現場に共有するタイミングが定まっています。例えば、PBPへのトレーニングは定期的なサイクルで行われるので、そのタイミングに合わせてシステムを改修し、トレーニング資料を作成します。
それを無理やりイレギュラーな時期に情報共有しようとすると、現場ではトレーニングに必要な時間を取ることができず、PBPへサービスの意図が伝わらないこともありました。関連部門のタイミングに合わせて行動することがとても重要です。

秘訣④:既存フローで短縮できる部分がないか交渉する

これは関係部署との綿密な調整が必要であり、かつ注意が必要になりますので、ご参考までに。
既存のフローは品質保証や適正な配荷を最優先とした仕組みになっているため、今回のような商材の場合はやり方次第で一部の工程を効率化できるのではと考え、トライしてみました。
既存のフローを正しく理解し、提案型の交渉を行うことで、通常よりも短い時間で進めることもできます。

新規サービス開発を推進するために

最後に、大切なことを2つお伝えしたいと思います。

秘訣⑤:PM/PdMの判断力・推進力が重要!(当たり前ですが)

新しいサービスを開発することは、未知の領域に挑戦するということでもあります。新しいことを始めると、業務量が増えるため、関連する部門から反発が起こる可能性があります。
チームメンバーが諦めずに前に進むためには、プロジェクトマネージャー(PM)やプロダクトマネージャー(PdM)の判断力や推進力に加えて、精神的なサポートがとても重要になります。これがないと、チームとして機能しなくなります。
第三者的な発言ではなく、内容を深く理解し検討・判断を一緒にする、またはメンバーが困ったときは積極的に対応する姿勢が重要です。

秘訣⑥:小さくても成果を出し続ける

プロジェクトメンバーのモチベーションを高めるためには、少しの進捗でも可視化する必要があります。少数のお客さまの意見やアンケート結果などからも、正しい方向に進んでいることを感じさせることが大切です。
また、プロジェクトメンバーだけでなく、外部の関係者にとっても目に見える成果は重要です。新しい取り組みに対して否定的な意見もあるかもしれないので、お客さまの声や売上の結果など、少しずつでも成果を開示することによって関心を集められます。最終的には、周りから「一緒に頑張りたい!」と思ってもらえ、チームで成果を出すことができれば、「プロジェクトの成功」と言えるのではないでしょうか。

中尾 索也(なかお さくや)
資生堂インタラクティブビューティー株式会社 DX本部 オムニエクスペリエンス推進部 企画推進グループ 所属。SIer、デジタルマーケティング会社、食品メーカーを経て現職。システム開発から、DX戦略・デジタルマーケティング・新規事業開発・AI開発・データマネジメントなどを経験。
現在はBeauty DNA Programのビジネス設計やシステム開発などの全体推進を担当。ビジネスプロデュース・プロジェクトマネジメントがメイン業務なのですが、テクノロジー好きで暇があれば自分でコーディングをしたくなる/してしまう癖あり。


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