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「人間というもの」 司馬遼太郎



「ひとことにて申せば、人は人のために存するかと・・・・・・」


  

「人間というもの」 司馬遼太郎



歴史小説を読んでいるとその中の人物の台詞は、その歴史上の人物が語っているかのように頭の中で変換して読んでいます。


まさに歴史が動く瞬間の坂本竜馬が語ったように「竜馬がゆく」を読みました。


でも、実際はそうではないのですね。わかっているのですが、そのように感じたいのです。


小説家が史料を紐解いて、考えて、考えて、考え抜いてこう言ったのではないかと想像して、歴史上の人物に語らせているんですよね。


かつて、大阪にある司馬遼太郎記念館に行ったことがあります。


記念館の中に入ると、とても大きな大きな本棚がありました。驚愕するほど巨大な本棚です。大書架とありました。約2万冊あるそうです。まさに司馬さんの頭脳でありました。


この本を読むと、歴史上の英雄が語っているのではなく、司馬遼太郎さん自身から発せられた箴言、名言、名調子が語られています。


あの時、司馬遼太郎記念館で見た「頭脳」を集約し、濾過し、凝縮された司馬文学の真髄である言葉たちです。


各小説で語られている英雄たちの言葉は、1冊の本にまとめられると、歴史上の人物から司馬さんの言葉に再変換されるから不思議です。


司馬さんが現代という高層ビルから歴史の大河の流れを俯瞰し、「人間というもの」を洞察しています。


人間が歴史の中で


どのような時勢に乗って動いているのか?

考えを生み出しているのか?

志があるのか、ないのか?

利で動くのか、義で動くのか?

名誉で動くのか?


温故知新



司馬さんがとても高い所から歴史を観ることによって、それらのことを集約し、魂の入った言葉として我々に思考、行動、予測、反省、希望、疑問など、困難な時代を生きていくさまざまな知恵を与えてくれているのです。


刺さる言葉がたくさんありました。
「こうすれば、日本はもっと良くなるのに」
と思う言葉がありました。
組織の中で生きていく有効な言葉が
ありました。意外な言葉がありました。


この本の言葉を感じて、心に刺さった小説を読んでみるのもいいと思いました。それが今、自分自身の深層に基づく本の選択であるのだと思いました。


ここでは、僕の中で一定時間留まった12の言葉を選びましたので以下に引用します。


権力は、ときに人間を魔性に変えてしまう。

『項羽と劉邦 上』
もともと権力というのは、権力の維持の
ために、国家の名を藉りておこなう私的
行為が多い。

『翔ぶが如く 四』
「快適にその日その日を生きたい、という欲求が、人間ならたれにでもある。あらねばならんし、この欲求を相互に守り、相互に傷つけることをしない、というのが、日常というもののもとのもとなるものだ」だから、群居している人間の仲間で、行儀作法が発達した。

行儀作法は相手にとっての快感のためにあるのだ、と良順はいう。「人間が、人間にとってトゲになったり、ちょっとした所作のために不愉快な存在になることはよくない」

『胡蝶の夢 一』
「人の一生はみじかいのだ。おのれの好まざることを我慢して下手に地を
這いずりまわるよりも、おのれの好むところを磨き、のばす、そのことのほうがはるかに大事だ」

『峠 上』
「人は、その長ずるところをもってすべての物事を解釈しきってしまって
はいけない。かならず事を誤る」

『峠 下』
事をなすべく目標を鋭く持ち、それにむかって生死を誓いつつ突き進んで
いるときは、その人間の姿も美しい。が、ひとたび成功し、集団として目標
をうしなってしまえば、そのエネルギーは仲間同士の葛藤に向けられる。

げんに、諸隊の隊長はたがいに政治家を気取って、たがいに蹴落としあいをはじめていた。

『世に棲む日日 四』
男に、出世とはこわい。分不相応の位置につくと、つい思いあがって人変わりのする例が多い。

『功名が辻 四』
男が、同僚もしくは配下に対して感ずる嫉妬ほど厄介なものはない。

『播磨灘物語 二』
「志の高さ低さによって、男子の価値が決まる。このこと、いまさらおれがいうまでもあるまい。

ただおれがいわねばならぬのは」と、継之助は息をひそめた。「志ほど、世に溶けやすくこわれやすくくだけやすいものはないということだ」

『峠 上』
「ばかだな、お前は。そういうことをいうちょるから、あたらそれほどの才分をもちながら人にばかにされるのだ。

男は、喧嘩をするときには断乎喧嘩をするという大勇猛心をもっておらねば、いかに名論卓説を口にしていても、ひとは小才子としか見てくれぬぞ」

『竜馬がゆく 六』
「人間は、立場で生きている」

『峠 上』
「人のいのちは、何のためにあるか」氏親は、きく。

「人の世に用立てるためにござる。子は親に尽くすために存し、親は子を育てるために存し、あるじは妻のために存し、妻はあるじのために存しまする。ひとことにて申せば、人は人のために存するかと・・・・・・」

早雲は、この齢になって、人が生きてゆくということはそのようなものだ、と思うようになっている。

『箱根の坂 中』


とくに、「峠」の言葉が多かったですね。
今、このタイミングで読むと大切な
何かを教えられるのかもしれません。




【出典】

「人間というもの」 司馬遼太郎 PHP文庫



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