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週報『海のまちにくらす』(2022-2023)

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2022年春から大学を休学して東京を離れ、新しい土地で生活をしています。相模湾に面した小さな半島です。ここではじぶんは土地を通過していく観光的旅行者でも、しっかり根をおろした恒久…
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2022年7月の記事一覧

海のまちに暮らす vol.27|人を小馬鹿にしたような可愛らしい響き

海のまちに暮らす vol.27|人を小馬鹿にしたような可愛らしい響き

 この季節になると、月に2、3度くらいの回数であまり食欲のない朝があり、そういう朝はキュウリを水で洗う。断面に味噌をつけてかじる。これが思いのほかあごを使う運動で、(自分でも預かり知らぬうちに)あごの疲れが夏の季語にノミネートされた。ぼり、ぼり。

 せっかくなので味噌の話をする。僕はことあるごとに味噌を消費するので、それなりに大きなパッケージに入った味噌であっても、1ヶ月あまりで使い切ってしまう

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海のまちに暮らす vol.26|あまりぱっとしない1日

海のまちに暮らす vol.26|あまりぱっとしない1日

 梅雨明けの宣言があったものの、ここ数日は雨が続いていた。まるで絞りの甘い濡れ雑巾を空の上で誰かがもう一度絞り直しているような集中的な豪雨だった。明くる朝に畑へ行くとトマトの実がたくさん落ちていた。ほとんど雨風にやられ、地面の上で少し腐敗しているものもある。銅色のカナブンがしわくちゃになったミニトマトを抱きしめるようにして果汁を啜っていたので、長靴の先で突いたら林のほうへ飛んでいった。小さいわりに

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海のまちに暮らす vol.25|最南の風、それから本のこと

海のまちに暮らす vol.25|最南の風、それから本のこと

旅の手記

 南伊豆で左官をやっている人に会って、その人が淹れてくれたお茶を飲んだ。家のそばに生えていたドクダミとセージなんかを煎じているらしい。長いこと電気のない暮らしをしていて、電子レンジも冷蔵庫も置いていない。「なければないで暮らせるもんだよ」と彼は言う。代わりに古い造りの囲炉裏が一つあって、たいていの煮炊きはそこでやる。山の裏手に廃棄された杉材を拾い(林に入って少しばかり木を失敬することも

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海のまちに暮らす vol.24|花が怖い人、エンゼルフィッシュ

海のまちに暮らす vol.24|花が怖い人、エンゼルフィッシュ

 先月はひどく慌ただしくて、いくつかの仕事を抱えて必死に(依頼された)原稿を書き、制作をしていた。それはもう、小さなビート板に大量のバナナをのせて、「一つも落とすなよ!」と注意されながら沖合まで遠泳するような気分でした。おかげでこの連載も一回ぶん休んでしまったわけだけれど、そもそもあまり気負ってやる類のものではないので、僕個人としてはまあ仕方ないかなと考えている。でも出したい時におならを出せない生

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