使える財務指標#1 いきなりステーキ!で学ぶ「既存店売上高」の使い方
今回から、「脱・丸暗記の財務分析」をテーマに財務指標の使い方をシリーズ化してまとめていきたいと思います。第一回目は「既存店売上高」を取り上げます。※厳密にいうと財務指標ではありませんがスルーしてください。
なぜ「脱・丸暗記」なのか?
企業を分析するとき、どの財務指標を使うのが適切なのかは、なかなか悩ましく、簡単には答えが出ません。けれど、適切なモノサシを選ぶことができなければ、企業の実態を理解することはできません。
世の中には数多の財務指標が溢れかえっています。資格試験や社内の研修でこれらを勉強した経験がある人は多いと思います。けれど、多くの場合丸暗記になってしまっています。私もそうでした。
丸暗記型ではなく、使える財務指標をまとめていきたいと考えています。
既存店売上高(前年比)とは?
既存店売上高は、企業が任意で開示する指標です。法律で開示しなければならないものではないので、開示しなくても罰則はありません。けれど、多くの飲食業や小売業は自社のwebサイトなどで開示しています。
なぜ多くの企業は既存店売上高を公開しているのでしょうか。それは、既存店売上高が企業の調子を測るバロメーターだからです。どういうことでしょうか。
そもそも店舗型ビジネスの売上高は、全店売上高と既存店売上高に分けられます。全店売上高は、新店効果を含んでいます。つまり大量に出店を続ければ、この指標は「お化粧」することができてしまうという欠点があります。
一方で、既存店売上高は前年に存在していた店舗が対象です。新店の売上は含まれません。ですから企業の真の実力が浮き彫りになるのです。消費者から本当に支持されているか、がはっきりと表れます。
このような理由から、外部のステークホルダー、特に投資家は既存店売上高を重視します。その要望に応える形で、多くの飲食業や小売業は既存店売上高を開示しているのです。
既存店売上高(前年比)の使い方
財務分析のお作法は「比べる」ということです。数値単体では分析が浅くなります。何かと比較することで、企業の実態が立体的に見えてくるのです。
既存店売上高を比較する対象は、大きく二つあります。
一つ目は、全店の売上高との比較です。既存店と全店の売上高を比較することで、企業の業績理解が進みます。例えば、売上高が成長している企業を分析する場合、その理由が新規出店の効果によるものなのか、消費者の支持が広がって既存店売上高が伸びているからなのかが見えてきます。
二つ目は、競合他社との比較です。競合他社と数値を比較することで、マクロな環境変化の要因を除外することができます。例えば、消費増税の前月に家電量販店や百貨店の売上高は大幅に伸びました。つまりその大部分は、外部環境の変化によるものだったわけです。
しかし、例えば丸井と大丸の既存店売上高が大きく違っていたらどうでしょうか。そこには企業個別の戦略や施策が反映されているはずです。このように表面的な数値にとらわれないためにも、財務指標は何かと「比べる」ことが必要なのです。
いきなりステーキ!を既存店売上高を使って分析
最後にいきなりステーキ!の既存店売上高を使って、同事業にいつから不調が生じていたのかをチェックしてみます。その為に、まずは全店売上高の前年比を時系列で見ていきます。
いきなりステーキの売上高は2019年の7月まで常にプラス成長を続けてきました。これだけを見ると非常に好調に感じられます。けれど、店舗数の推移を見るとそのカラクリが見えてきます。
2017年1月に115店舗だったいきなりステーキ!は、2019年12月には490店舗にまで拡大しています。たった3年で店舗数が5倍弱になった計算です。大量出店によってステーキ業態のマーケットシェアを抑えに行く戦略を採っていたものと考えられます。
では、既存店売上高はどうなっているのでしょうか。
いきなりステーキ!既存店売上高の不都合な真実
いきなりステーキ!の既存店売上高は、実に2年半以上に渡ってマイナス成長を続けています(2020年12月まで継続中)。大幅な客離れが生じていることが分かります。
全店売上高がマイナスになったのは2019年7月でした。一方、既存店売上高は2018年4月から100%を割り続けてきています。そこには1年3ヶ月のギャップが存在しています。既存店売上高をウォッチしていれば、早くからいきなりステーキ!の不調に気づくことができたわけです。
まとめ
今回は既存店売上高(前年比)についてまとめました。この指標は、消費者の支持を表すバロメーターです。顧客からの支持率と言ってもいいかもしれません。売上高から新店効果を取り除くことができるからです。
業種別で考えると、既存店売上高(前年比)は、店舗数によって業績が変化しやすい飲食店や小売店を分析するときに、とても役立つ財務指標です。
今回は以上です。
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