見出し画像

「怒る声がしんどい」「人に気を遣いすぎる」・・・そんな小中高生に届け、この一冊。【串崎真志『繊細すぎてしんどいあなたへ――HSP相談室』 (岩波ジュニア新書)】

この本は、「HSP」(Highly Sensitive Person=人一倍敏感な特性を持つ人)や「HSC」(Highly Sensitive Child=人一倍敏感な特性を持つ子)といったアルファベット3文字を知らなくてもいい、もっと言えば「5人に1人めちゃくちゃ敏感で繊細な人がいる」ということも知らなくてもいい。とにかく、次の6つにとても困っている小中高生がいたら、絶対に読んでほしい。

・怒っている人が怖い(緊迫した場面から離れたい)
・友だちの顔色をうかがってしまう(人に気を遣いすぎる)
・教室に居づらい(人疲れする)
・人の気持ちに気づく(共感力が高い)
・空想が大好き
・匂いや音に敏感

20年近く前の僕もそうだった(というか今もそうだ)。自分に向けられていなくとも怒鳴り声や他人が怒られている状況がどうしても怖かったけど、それは誰にも言えることではなかった。言えたとしても「気のせいだ」「甘えるな」の一言で片付けられていただろう。でも実は、ほかにも「怒っている人が怖い」人はたくさんいたのかもしれない。ただ言い出せないだけで。

「HSP」「敏感な人」「繊細な人」というタイトルが含まれる本が最近増えている。しかしそれらは主に大人がその繊細さに悩んだときに手に取りやすいものや、「敏感な子どもの育て方」という意味合いで書かれている本が多い。そんな中でもこの本はかなり希少な「繊細さに悩む小中高生」に向けて書かれた本である。

この本がほかのHSPやHSCの本と一線を画しているのは、数多あるHSPやHSCの特徴の中から厳選してこの6つに絞って悩みを解説している、という点にある。たとえば人一倍繊細な子どもの特徴としてはほかに「正義感が強い」とか「服のタグを気にする」という面もあるのだけど、この本はそこまでカバーしていない。こう書くと情報量が少ないのでは?と思われるかもしれないが、しかしかえってこの6つにとことん特化することによって、HSPやHSCの困りごとをハッキリさせて、よりわかりやすく解決できるようになっている。

前述したように小中高生向けに書かれていることもあって、先に挙げた6つの悩みをわかりやすくストーリー形式で紹介している。部活の顧問が怒る声にショックを受ける男子中学生、SNSのぶっきらぼうに見える返事を気にする女子中学生、ガヤガヤした雰囲気が苦手で教室に居づらい男子・・・いずれのストーリーも、まちがいなく教室に1人いるであろう生徒(や先生)を題材にしている。そう、これを届けたいあなたが主人公の物語だ。

そしてこの6つのストーリーは一部登場人物が共通していて、一口に「繊細」と言ってもずいぶんと見方が違うように書かれている。こうした設定によって、繊細な心を持つ人は身近にたくさんいることをあらためて気づかせてくれるストーリーになっている。

こうした生きづらさ、傷つきやすさは、これもまたHSPやHSCの特徴でもある(と、この本でも断りが入っている)。しかしそれは裏を返すと「多感力」でもあり、人に対する抜群の思いやりを発揮したり生きる力として活かせる方法がたくさんあることを意味している。これは実際そうで、社会に出てから僕自身の「繊細な一面」に助けられたことが、けっこうある。

この本を通して、帯に書いてあるように「繊細でよかった!」と思えるようになった子どもたちがいたら、僕はとても嬉しい。そしてその繊細さは絶対にこの先の未来で役に立つひとつの「武器」であることは、何度でも強調しておきたい。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?