イメージのスイッチ
突然だが、あなたは本当のコーラの味を知っているだろうか。
おそらくこの文章を読んでいるほとんどの方は、これまでに何度もコーラを飲んだ経験があるだろう。
しかし、私たちが普段飲んでいるコーラは、「これはコーラである」という強烈な思い込みによって形成された、半分ヴァーチャルなものなのではないかと私は思った。
すなわち、私たちはコーラを飲むとき、物質としてのコーラと一緒に「コーラとはこんな味がする飲み物だ」というイメージも味わっているのではないかということだ。
私がこんなことを考えるきっかけになったのは、友人のコーラをアイスコーヒーと間違えて飲んでしまった事件にある。
喫茶店の席に置かれた二つの黒い飲み物。何も躊躇することなく、「これはアイスコーヒーだ」と思い込みながら口に入れたコーラは、信じられない程に普段飲んでいるコーラと異なる味をしていた。
生まれて一度もコーラを飲んだことがない未開の部族が飲んだコーラは、私たちが飲んでいるコーラと異なる印象の飲み物として捉えられるだろう。
未開の部族にとっての初めてのコーラのように、アイスコーヒーという予想が裏切られ、味の前提情報が消失したコーラは、CMや過去の記憶といったイメージのコーティングが施されていない初めての味のように感じられたのだ。
私たちは何かを食べたり見たりするとき、一緒に対象のイメージも感じ取っている。イメージは対象を知覚したときの感覚をスイッチしてしまうほど、強烈な力を放っていると言っても過言ではないだろう。
さて、私は最近、この対象のイメージが3回も切り替わるという体験をした。それは自宅の部屋で仕事をしていたときのことだ。
パソコンのキーボードを打っている最中、部屋のどこかから「キッキッキ」という甲高い音が聞こえてきた。そのときは音が小さかったこともあり、隣人が錆びついた蛇口か何かをひねっている音なのだろうくらいに思っていた。
しかし数日経ち、隣人の騒音と思っていた「キッキッキ」という音が、実は家のそばにいる雛鳥の鳴き声だということが分かったのだ。
気づくと外は暖かくなっており、鳥が巣を作る季節になったのだと思うと、「キッキッキ」という不快音は自然を感じさせる穏やかな印象の音に変化した。ところが、しばらく時間が経ったある日、またもや「キッキッキ」という音は、雛鳥の鳴き声ではなかったことが判明する。
というのも、鳴き声だと思っていたその音は、なぜか私が部屋でパソコンのキーボードを打つたびに聞こえてきていたのだ。
このことに気づいた私は、パソコンを置いている机を揺らして音の出どころを探ることにした。すると、机の足と板を連結している部分が擦れることによって、「キッキッキ」という音が発せられていたことが分かった。
その事実を知った瞬間、雛鳥のさえずりだと思っていた心地のいい音は、たちまち机の足が揺れる不快な音へと変わってしまった。
この体験から、対象のイメージは受け手の認識をハックすることで、何度も切り替えることができるということが分かる。
もちろん、イメージのスイッチには自分自身の脳を騙す必要があるため、容易なことではない。しかし、他者の協力を仰ぐことで、対象の認識を簡単に変えることもできる。
最後に、皆さんに私の経験を応用した「イメージのスイッチ法」を伝授してこの文を締め括ろうと思う。
今後あなたの家族や友人に、「さりげなくコーヒーを出すふりをしてコーラを持ってきて」と頼んでみてほしい。そのコーラを飲むことで、イメージが削がれた純粋なコーラの味を感じることができるかもしれない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?