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日本のマスメディアの立ち位置を比較検証してみる

「権力のチェック機関」「オピニオンリーダー」「国民の代表」「第4の権力」

マスメディアを形容する表現は多様ですが、どんなメディアも「情報を伝える媒体」を役目としています。私たち国民は、彼らが伝える情報やニュース解説を通して、日本のいろいろな問題や事件、政治家の不祥事などを知ることができます。

情報を手軽に収集する媒体として新聞・テレビを活用している人は多いでしょうが、彼らマスコミと呼ばれる人はどんな“立ち位置”からニュースを伝えているのでしょうか?

たとえば、内閣支持率などを調べる世論調査。テレビ新聞各社が定期的に行うものですが、調査機関によって数字の開きが結構あったりします。

そのような現象が起こるのは、政権との距離感がマスコミ各社で異なるからに他なりません。やはり人間のすることですので、好き嫌いの感情が働き結果に反映されたりします。

権力のチェックをマスコミに委ねている国民にとって、マスコミがどの立ち位置から政治のニュースを伝えているか。

あるいは、どのような思想に基づき、社会問題を伝えているか

知っておくことが大切です。

インターネットが発達してメディアも多様となりましたが、ここでは大手マスメディアと呼ばれ、依然大きな大きな影響力を持つ新聞テレビの政治的立ち位置について考えてみたいと思います。

新聞

全国5大紙(読売・朝日・毎日・日経・産経)+ブロック紙の中日新聞(東京新聞)の立ち位置はどこにあるのでしょうか。

マトリックスで図解してみました。


メディアマトリックス7

保守とリベラルについて、明確な定義はありませんが、ここでは以下のような定義として扱います。

・保守

日本の国柄や文化、伝統を重んじる姿勢。外交・安全保障、領土問題といった、政府にしか対応できない問題への関心が高い。

原発再稼働や憲法改正、沖縄の普天間基地移設に賛成もしくは前向きな立場。

自民党や日本維新の会など、保守色のある政党の政策に理解を示す向きが見られる。

・リベラル

古い慣習の是正や規制改革に前向き。貧困問題やシングルマザーの収入改善、マイノリティ問題など弱者保護対策を重視。

原発再稼働や憲法改正、沖縄の普天間基地移設に反対もしくは消極的な立場。

立憲民主党や社民党、国民民主党、共産党、れいわ新選組といったリベラル色の強い政党にシンパシーを感じるような論調が目立つ。

・発行部数

主に発行部数を基準に、メジャーかマイナーかを仕分けしています。

《発行部数》※ABC協会調べ 2019年度

・読売新聞:約827万部

・朝日新聞:約560万部

・毎日新聞:約250万部

・日経新聞:約230万部

・産経新聞:約140万部

・中日新聞:約240万部

・東京新聞:約45万部

※参考

現政権との距離

憲法改正に積極的で、女性宮家の創設には慎重な姿勢。領土問題や歴史認識問題への関心が高く、首相就任前は靖国神社への参拝も欠かさなかった安倍晋三首相は「保守政治家」と評されます。そのため保守系新聞は支持する側に回りやすく、対照的にリベラル系新聞はどの政策にも反対のスタンスで、森友学園・加計学園問題も厳しい追及が目立ちました。

中国・北朝鮮に厳しい外交政策、日米同盟を軸に防衛強化を図る安全保障政策も、リベラル系新聞とは相容れません。集団的自衛権の一部行使を認める日米安保改正にも強硬に反対を貫き通したことは記録に新しいです。

なお、「保守系新聞は外交安全保障政策への関心が高い」と書きましたが、これにリベラル側があまり関心を示さないのは日本特有の現象だと言えます。本来、国の守りを話し合うのに保守もリベラルもないわけですが、日本の場合、安全保障政策を突き詰めていくと憲法9条の問題におのずとぶつかります。リベラル側は「9条改正絶対反対」しか言わないので、あまりこの問題には触れたくないのかもしれません。

・地方新聞の報道傾向

全国紙の報道傾向について取り上げましたが、地方紙の存在も忘れてはなりません。というのも、各地域では地元に根付くブロック紙が圧倒的なシェアを占めるのです。地方出身者・在住者はよくご存じのことと思います。

九州の西日本新聞、北海道新聞、沖縄の沖縄タイムスおよび琉球新報などが有名で、中日新聞などは東京新聞を買収したことで全国紙と変わらないくらいの発行部数と影響力を持ちます。

政治的な立ち位置ですが、ほとんどの地方紙はリベラル色が強いです。

そもそもの思想がリベラルというのもありますが、それには共同通信という、全国の新聞社に国内外のニュースを配信する報道機関が大きな存在となっています地方新聞は共同通信が書く社説をそのままトレースしており、自然と論調が近しくなります。共同通信の政治的思想は完全なリベラルで、朝日新聞や毎日新聞などとそん色ありません。

このような特色から、地方紙のほとんどはリベラルな思想をバックに記事を書く傾向があり、自民党政権への批判も強めのトーンとなります。

テレビ

新聞の購読層は減少傾向で、テレビ離れも加速していると言います。とはいえ、ワイドショーから政治関連の情報を得ている人は少なくないでしょうし、その影響力は無視できません。

テレビ局にはどんな報道番組があるのでしょうか。代表的なものをご紹介します。

テレビ報道2

厳密に言うとワイドショーは「バラエティ」に属しますが、政治関連の情報も扱っていますし、実際見ている人は多いと思うので取り上げています。

テレビ局は新聞社ほど主張や論調がはっきり定まっているわけではありません。が、基本的にリベラル路線です。日本でもっとも保守的と呼ばれる産経新聞と同グループのフジテレビが、番組に保守派のジャーナリストを呼んでいるくらい。本当かと疑う人は、原発再稼働にはっきりと賛成したり、普天間基地移設の必要性を強く主張するような番組を見たことあるかどうか、思いを巡らしてみてください。おそらくそんな記憶はないでしょう。反対に、集団的自衛権の一部行使を容認する日米安保に反対、原発再稼働にも反対、沖縄普天間基地移設にも反対、首相の靖国神社参拝にも反対、このような番組は既視感あるという方は多いのではないでしょうか。これだけを見ても、NHK含めテレビ局という組織が基本的にリベラル路線であることがわかります。

テレビの政治報道の最大特徴は、放送法に準じた報道を行う必要があること。放送法第4条に「公平中立であること」という規定があります。極論、新聞はどんなに偏った意見を載せても大丈夫です。しかしテレビは原則それができません。ただ、放送法がどれだけ報道番組の公平性を担保しているかは微妙なところです。ある番組でいくら偏ったことを述べても、別の番組で反対意見を話していたらバランスは保たれている、というのがテレビ局側の見解のようです。

また、民放テレビ局はスポンサーという存在がいてはじめて番組制作が可能となります。それが政治報道にどう影響するかは未知数ですが、スポンサーの意向を無視した番組制作は考えられません。彼らがもっとも怖れるのは、視聴者のクレームや政権圧力などではなく、スポンサー離れだと言っても言い過ぎじゃないでしょう。

日本の報道の自由を阻害する「クロスオーナーシップ」とは?

テレビ朝日は朝日新聞グループ、TBSは毎日新聞グループ、日本テレビは読売新聞グループ、フジテレビは産経新聞と同一資本のフジサンケイグループ。

新聞とテレビが同じ資本にあるという事実は、単純にその名称から、多くの国民が何となく理解していることと思われます。しかし、これが「言論の自由」「報道の自由」を大きく阻害している事実には、ほとんどの国民が気づいていないかもしれません。

異なるメディアである「新聞」「テレビ」が一体化した「クロスオーナーシップ」は、アメリカやヨーロッパといった先進民主主義諸国では禁止されています。マスメディア自身による相互チェック機能が働かなくなるからです。日本は、クロスオーナーシップ制度を「何の疑問もなく」維持し続けている、極めて珍しい先進民主主義国家となります。

報道の自由を体現しているはずのマスメディアですが、彼らだって完璧ではなく、間違えることもあります。批判されるべき問題点もあるでしょうし、報道姿勢に疑問を感じる部分もあるでしょう。しかし、たとえばテレビ朝日が読売新聞の報道姿勢を批判したことがあるでしょうか? 毎日新聞がフジテレビの報道番組のこの点がおかしい、あるいはNHKが毎年のように犯罪者を出している組織体質や、受信料の強制徴収に疑問を呈す民放テレビ局なんてあるでしょうか? それどころか、テレビの報道系番組は新聞記事をそのまま紹介するコーナーを当たり前のようにやっています。こんな光景は他の民主主義国家では考えられないと言われますが、日本国民の多くは何の疑問もなく受け入れています。

大企業や政治家の不祥事を威勢よく批判するマスメディアですが、同業他社のことは批判しない「なれ合い体質」があることを指摘しないわけにはいきません。そして、報道機関が批判を受けずに力を発揮し続ける状態は、独裁国家における報道機関とほとんど変わらない危険性に早く気づいてほしいものです。

言論・報道の自由に反するクロスオーナーシップ制度の問題に多くの国民が気づいていないのは、マスメディアが“報道しない自由”を行使しているからです。もちろん、こんな制度をいつまでも放置している政治の責任も追及されなければなりません。が、いつも追及する側の新聞・テレビ局の既得権益に関わる問題なので、相変わらず光が当たらないまま時代が経過しています。

一事が万事、この問題に限らず、マスコミの不祥事や誤報、問題体質などは、相互チェック機能が働かないゆえに目立つような相互批判もなく、非常にゆるい環境で彼らは「権力を監視する」などと言っています。ついこの間も、検察庁法改正問題に関連し、朝日新聞と産経新聞の記者が検事総長と賭けマージャンをやっていた事実が暴露されましたが、結局報道機関の責任はウヤムヤのままで収束しました。

どこかのよく分からない団体がやっている「報道の自由度ランキング」で、日本が下位に甘んじているのは政権が圧力をかけているからだと言いますが、果たしてそれが理由でしょうか。「他人に厳しく自分たちに甘い」マスメディア自身の問題も大きいと、自分たちで思わないのでしょうか。(実際政権が圧力かける怖い存在ならそんなこと口に出せないだろうし、それ以前に自分たちが圧力に屈していることを認めることになるのだが)

最後に

新聞テレビの政治的立ち位置についてご紹介しましたが、他にもインターネットの政治系チャンネルや動画コンテンツ、週刊文春・新潮、オピニオン誌や文芸誌といった雑誌などからも政治情報の入手は可能です。ただし、日本は政治に無関心な層が圧倒的と言われます。そんな状況下において、政治リテラシー形成に多大な影響を及ぼすのは既存大手メディアだと思い、今回のような構成となりました。

やはり最後に紹介した「クロスオーナーシップ」の問題点は多くの国民が認識してほしいところです。マスコミは「第4の権力」とも言われます。政治家や政府に対しては選挙で退場勧告が可能ですが、新聞テレビがどんな誤報や捏造報道をしても追及されませんし、検証すらされません。一言訂正しますと言って終わりです。彼らにすべて退場しろとは言いませんが、あまりにも間違いや意図的とも思える印象操作、捏造とおぼしき報道が多いのは、やはり緊張感がないせいだと思われます。国民から監視されていると思えば緊張感も増すでしょうし、そのためにも国民にはマスコミがどのような意図で報道し、どんな問題体質を抱えているかについて知ってほしい。そんな思いで今回の記事となりました。


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