一ノ瀬翔太

1992年生まれ。編集者。江永泉・木澤佐登志・役所暁・ひでシス『闇の自己啓発』、J.Y…

一ノ瀬翔太

1992年生まれ。編集者。江永泉・木澤佐登志・役所暁・ひでシス『闇の自己啓発』、J.Y. Park『J.Y. Park エッセイ 何のために生きるのか?』、マイケル・サンデル『実力も運のうち』、宮本道人・難波優輝・大澤博隆ほか『SFプロトタイピング』など

最近の記事

『百年の孤独』の最初の20ページの面白さは尋常ではない

『百年の孤独』の最初の20ページの面白さは尋常ではない。頭がぐらぐら揺すられる。のっけから「長い歳月がながれて銃殺隊の前に立つはめになったとき、恐らくアウレリャノ・ブエンディア大佐は、父親のお供をして初めて氷というものを見た、あの遠い日の午後を思いだしたにちがいない」である。現在が定まらないまま死に際に飛ばされたかと思ったら、即座に遠い過去へとぶん投げられる。というかアウレリャノ・ブエンディア大佐って誰だ、そして「恐らく……ちがいない」と推定しているお前は誰だ。 新潮社の単

    • 妻にクリスマスプレゼントでもらった筆箱がすごい便利

      風邪をひきやすくなったと思う。風呂で湯船に浸かったまま寝落ちして目覚めたら風邪をひいていたり、歯ブラシをくわえたまま寝落ちして起きたら喉がやられていたりした。風邪をひきやすくなったのではなく寝落ちしやすくなったという説もある。週の半分以上は寝落ちしている。風呂を沸かしている間によく寝落ちしてしまう。 これは悪癖、悪い習慣。 良い習慣の話もある。 最近筆箱を妻にクリスマスプレゼントで買ってもらって、すごく便利だ。筆記具を筆箱に入れることが習慣づいてきたらこちらのもの。いち

      • ポストコロナ

        コロナに感染して、咳が長引いたけどほぼそれも治ったかなというタイミングで妻がマカオでもらってきた風邪がうつって、並行して左の尻が日に日に腫れて痛く、医者にかかったら肛門周囲膿瘍であり痔瘻にもなっているだろうということだった。酒を飲みすぎた休日があり、そのときの水様便が肛門陰窩から入り込み、ポストコロナの弱い肛門腺が細菌に負けて炎症を起こし化膿したのではないだろうか。肛門周囲膿瘍を切り、膿を出した。気持ち悪い大量の膿。痔瘻なら手術。 だからこの1か月と少し、横になってばかりい

        • 電波とこんにゃく

          人類、電波を通信に利用したのもすごいし、「こんにゃく芋を乾燥させた後すり潰して粉にし、水と混ぜて捏ねた後、石灰水と炭酸水を加えて、丸めた物を煮て固め、煮物にして食ったろ!」もすごい。

        『百年の孤独』の最初の20ページの面白さは尋常ではない

          炎上大変でしたね

          去年12月、サントリー学芸賞の授賞式に出席した際は、「炎上大変でしたね」がしばしば会話のとば口だった。申し訳ないし消えたいと思った。昨日は翻訳出版納涼会があり、ハヤカワ新書の調子はどうですかと色々な方から声をかけていただいた。本が単体を超え集合体として認知される、その感じが面白い。

          炎上大変でしたね

          閉じていたい

          朝に文章を書くと心が落ち着き、わりと一日持続する気がする。閉じているからだと思う。slackなどでこちらの意思と関係なくメッセージが飛び込んでくる状況は精神に障る。未来を考えることも健康によくない。 今日もあと10分で開かれていく。 と書いていたらAmazon Echoから「あと10秒で 世界が終わる そんな瞬間が もしも来たら その10秒で 君に触るそれ以外は ねぇ 何もねぇ 何もねぇ 何もねぇ 何もねぇ何もねぇ 何もねぇ 何もねぇ 何もねぇ」と流れてきた。歌詞の意味を

          閉じていたい

          2022/10/3-7

          来年4月の新レーベル立ち上げに向けて日記を書こうかなと思っていたところ、某レーベルの元編集長からも日記をつけるといいよ、後々の自分のためにと言われたので書いている。今週は月曜日に装幀の初回打ち合わせと企画会議、火曜日に著者と打ち合わせ、水曜日に著者になっていただきたい人と打ち合わせ、木曜日に社内説明会、金曜日に編者と打ち合わせをした。多方面に色々あるが、あまり中身をオープンにできないので、日記といって何を書くべきか迷っている。迷っていることをそのまま書いたらいいんじゃないです

          ニュー・ダーク・エイジにおけるネガティブ・ケイパビリティあるいは闇の自己啓発

          ニュー・ダーク・エイジにおけるネガティブ・ケイパビリティあるいは闇の自己啓発

          脳を剥がす

          歌会に参加予定だったけれど歌がぜんぜん作れず、リハビリしたいと思った。肩甲骨剥がしのように、仕事と癒着しきった脳を剥がしたい。それでnoteだ。日記。夜、妻と車でお台場に行った。近々、人を乗せて車を出す用があるから、運転の練習がしたかった。車はカーシェアサービスで借りた。車中では岩瀬敬吾の『New Speakers』を流した。2003年の音。運転はほとんど問題がなかった。東京湾を眺めながら妻はチュロスを私はチョコアイスを食べた。大学生の頃、同じ砂浜で妻と遊んだことがあり、たぶ

          脳を剥がす

          共感本の1年

          共感に関する本がたくさん出た1年だった印象がある。それも、共感の危うさを説くものが。 『「利他」とは何か』(集英社新書)で伊藤亜紗は、「共感が否定される背景にあるのは、私たちが現在、地球規模の危機にあるという認識です」と書いている。地球規模の危機――気候変動、新型コロナウイルス。世界の複雑さは増大し続け、人間の想像力はそれに追いつけない。「共感」が行き届かない範囲が必ず出てくる。『Humankind』(文藝春秋)でルトガー・ブレグマンは、ポール・ブルーム『反共感論』を参照し

          共感本の1年

          チンパンジーだけ残った――『Humankind』と『資本主義だけ残った』から

          『隷属なき道』で知られるルトガー・ブレグマンの新作『Humankind 希望の歴史』が翻訳刊行された。現代にはびこる性悪説を覆し「人間の本質は善である」と雄弁に説く本書では、2000年に経済学者ジョセフ・ヘンリックが行なった「ホモ・エコノミクスが実在するかどうか」という調査が紹介されている。「五大陸、一二か国の一五のコミュニティを訪れ、そこで暮らす農民、遊牧民、狩猟民、採取民を対象として、一連のテストを行った」らしい。調査結果は、No。 どこでも、いつでも、調査結果が示すの

          チンパンジーだけ残った――『Humankind』と『資本主義だけ残った』から

          締切と人生と『ライティングの哲学』

          『ライティングの哲学』(星海社新書)を読んだ。書くにあたって大事なのは冗長性を許すこと、という指摘に触発されて、これを書いている。千葉雅也さんは研究者の性分として冗長な文章を自制してしまっていた(小説を書いたことでそれが変わってきた)というが、これは編集者の病でもあると思った。帯という数十ミリのスペース上に、情報を効果的に入れる。ヒトは情報ぎらいだから、無駄な情報をそぎ落としていき、その本の「売り」になる必要十分な情報を。デザインとの絡みで、きれいな見た目になるよう1行あたり

          締切と人生と『ライティングの哲学』