毎月の「といろく」で深める、保護者とのパートナーシップと“十人十色”の子ども理解──写真で知ろう!小規模保育【園運営】
月に一度、子どもの成長を写真と言葉で振り返る「といろく」。保育士と保護者の交換日記のようなこのツールが、子どもを共に育てていこうとする保護者のまなざしや、一人ひとりの子どもをより深く見ようとする保育士の姿勢にもつながっています。
<といろきっずたまプラーザ保育園/神奈川県横浜市>
■ ねらいと配慮
『子ども十人十色、十人十育。』を掲げる、といろきっずグループ。子ども一人ひとりの気持ちや個性が大事される社会を目指すなかで、保育士と保護者が子どもたちを真ん中にして、「共に」育てる意識を持つことを大切にしてきました。今回紹介する「といろく」は、そのツールのひとつです。
月ごとの子どもの記録である「といろく」では、保育士が子どもたちの成長をそれぞれ写真と言葉で振り返り、保護者にもコメントを返してもらいます。ひとり1冊、毎月1ページずつ増えていき、最後に12カ月分をファイルごと保護者にプレゼント。わずか1カ月でも子どもの変化は著しく、それをきちんと記録しながら皆で共有する目的で、といろきっずたまプラーザ保育園でも他の系列園に倣い、2018年の開園以来行ってきました。
とはいえ、日々の保護者連絡(ICTシステムを利用)や指導計画をはじめ、さまざまな業務があるなかで、保育士が月に一度これを用意することは簡単ではありません。誰が、いつ、どのように行っていくのか……議論を重ねる過程では、「ここまではできない」と簡易的なものに変えた時期もありました。
しかし、10人いれば10通りの育ちがある、とする法人の理念を体現するうえで、非常に重要なツールであることも感じてきました。研修などを通じて、職員の意識が揃ってきたこと、保護者への写真販売など他業務との連動もスムーズになったことなどを経て、全員で楽しみながらこれを作成するようになってきています。
■ 振り返り
「といろく」を積み重ねていくと、園の中にさまざまな変化が生じていきます。
まず一つは、保護者の反応です。記録を読んでコメントを返す作業には相応の負担もあるので、「簡単に一言いただければいいですよ」とお伝えしてはいますが、月を追うごとに応答がどんどん濃くなっていきます。毎月楽しみにしていただいているようで、最初はお一人からのコメントだったのが、そのうち複数の保護者からお返事がくるようになる、というケースも少なくありません。
まだ低年齢なので子どもたちは読めませんが、「あ、◯◯ちゃんだ!」など写真を通じて親子のコミュニケーションの機会になっているとも聞きます。「祖父母にも見せたいのでもうちょっと返却を待ってください」などとおっしゃるケースもあり、園での生活を広く発信してくれるツールにもなっています。
また、次に入園される方への見学時には、必ず「といろく」をお見せしています。保育理念がわかりやすく伝えられることもあり、「こういうものを作る園なら」とあえて当園を選んでくれる保護者が増えているのも感じています。
一方、「といろく」の作成を職員全員が行うなかでは、保育士が子どもを見るまなざしにも変化が。それぞれの子どもの記録担当者を毎月変えるようにしてきたことで、「この子にはこういう側面もあるのかも」と、一人ひとりへの多面的な見立てにつながってきたと感じています。
当然、職員ごとに子どもと関わる時間には差もありますが、独自に開発した付箋「ニヤリホット」で、そこをカバーしてきました。これは保育士が思わずニヤッとしたり、ほっこりしたりするエピソードを気づく度にメモしておき、皆で共有するためのツールです。「といろく」の作成にあたって、「実際どういう様子だったの?」などとメモを残した職員に話を聞く時間を通じ、子どもに対する共通理解を皆で持てるようになってきました。
■ 「小規模保育」としての視点
といろきっずでは、特定の担任を設けず、すべての子どもに全員の保育士で向き合う「全員保育」をしてきました。さまざまな保育士が多様な関わり方をするなかで、子ども一人ひとりの個性が発揮される、その一つの表れが「といろく」の記録です。そしてそれは、この規模の園だからこそ、今の形で実現できたと考えています。
「ニヤリホット」のメモも、「ヒヤリハット」メモとあわせて、事務室のボードに常に貼り出しています。すると、貼ってある枚数が少なかったら、「最近この子をあまり見れてないのかもしれない」と客観的に可視化できます。そんな時、常勤/非常勤などの枠にとらわれずに、職員同士も遠慮することなく子どもに新たな関わり方をしていけるのが、小規模保育園でこの活動を行う良さになっていると感じます。