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こぼれ落ちていく4月
葉桜の頃、東京へ行った。
ビルを背景に、散りかけの桜を見た。
人がたくさんいて、にぎやかくて、あざやかだった。
生まれたての本を背中に抱いて、私は歩いた。
人生の匂いが濃くて、すこしくらくらした。
先日、本をつくったことを発表した。
いろいろな方からことばをいただいた。
動悸がしばらくやまなかった。
ようやっとすこし、深呼吸できるようになった。
本をつくることは、生きる覚悟を決めることだった。
この世界で、死ぬまで生き抜く覚悟を。
そうして、私のなかで死んでいくはずだった彼らを、世界に放した。
彼らは私の手を離れて、新たな人の手に、本棚に、旅立っていった。
彼らがこれからどんな景色を見るのか、私には、わからない。
大切にされてほしいけれど、そう思うのはおこがましい。
どう受けとるかは、私が決められることではない。
人にはそれぞれの感情があり、記憶があり、祈りがある。
どう受け取ってもいい、受け取らなくてもいい。
私には、それらを、コントロールできない。
私は私で、ひたすらに祈ることしか。
でも、受け取ってくれた人には、
本当に、ほんとうに、ありがとう、と思う。
あなたの本棚に居場所をくれて、
あなたのお店に居場所をくれて、
あなたの記憶に居場所をくれて、
本当に、ありがとう。
願わくば、あなたに届くなにかが、救いという名前をしていたらいいと思う。届かない身勝手な願いを、今日も、抱きしめている。
地獄みたいな世界でも、美しいと思える一瞬があれば、私たちは生きていける。あなたがあなたの世界で、救われていたらうれしい。
4月が散っていく音がして、夕方にはもう夏の気配がして、初々しかった春はなにかを失って、すこし大人びた顔をして、また、私の前から遠ざかっていく。
あなたは今年、どこで、誰と、桜を見ましたか。
散っていくから美しいなんて、あまりにさみしくないですか。
さみしいときはさみしいと、美しいときは美しいと、感じたことをそのまま表現することに、私たちは臆病になりすぎたようで。
ところで、今日はいい天気ですね。
眠れない夜のための詩を、そっとつくります。