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父の介護と永別まで

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#親の介護

うしろからこっそり

うしろからこっそり

いつもと少しちがう道を通って
近くの商店街まで行く途中
ある細道のところに差し掛かった時に

よろよろと歩くようになった
今は亡き父が、転んだりしないか心配で
見つからないように、こっそりと
後ろから父を見守りながら
歩いた道だったことを思い出した

父の足腰が段々と衰えてきて
歩くスピードもゆっくりになり
はたから見てもハラハラするくらい
よろよろしながら歩いたり
自転車にも乗っていた時期で

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あら、そう

あら、そう

「あら、そう・・・」

その後にお悔やみの言葉が続くのを
私は無意識のうちに期待していたが
わかりましたというような意味以外の言葉が
福祉の係の方から発せられることはなかった

父の介護が必要になってから
福祉の係の方には
色々とお世話になっていた

ある時は
父の認知症の診断を受ける病院に
何故その福祉の係の方が
一緒に付き添ってくれたのか覚えていないが
その時には係の方と父は
何度も言葉を交わ

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夜明けの着信

夜明けの着信

夜明けの着信で
父の危篤を知り
慌てて支度をして
病院併設の老健に到着すると

父は昨晩から熱が出て
早朝に血圧が急激に下がり
肺炎で今晩が山場だと聞かされた

2-3日前に
電車で2時間ほどかけて老健まで
父に会いに行った時には
特に変わった様子もなかったが

年を取って
抵抗力が弱くなると
ちょっとしたことでも
大事につながってしまう

会わせたい人がいたらすぐ呼んだほうがいい
それから心肺停

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温度差

温度差

「あ、お蕎麦屋さんが来た」
どこかの病室のドアがバタンと開く音が聞こえると
入院中でベッドに寝ている父が言った

父の病室にお蕎麦屋さんが来るわけがないが
父はお腹が空いてたのかなと思いながら
認知症の思考回路には逆らわず
私は、「あ、そう」と相槌をうった

誤嚥性肺炎で入院したこの病院では
ナースステーションで職員の方が
父と一緒に食事をしてくれたり
温かく接してくれたおかげで
父はとても穏やか

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自転車回収

自転車回収

会社が午前半休の日だったので
身支度を整えて
そろそろ仕事に出かけようかというお昼時に
家の電話がなった

丁度電話の近くにいた私が
受話器を取ると

救急車の隊員の方からで
父が自転車で転んで病院に運ぶところだが
父のかかりつけの医者があれば
教えてほしいとのことだった

父は頻繁に出かける場所に自転車で行っていたはずだが
迷子になってしまったようで
何故そんな場所に?
というような所で転んだと

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ヤギ男

ヤギ男

食が細くなり
床屋にも行けなくなり
髭もそらなくなった父

顔もしぼんで細くなり
ざんばら髪で
伸びるに任せた無精髭

そんな父の顔を
ある日まじまじとよく見ると
まるで山羊のようだった

もちろん
こんなヤギ男になるまで
放っておいたわけではなく

既に母の介護を長年していたので
父にも介護サービスが必要だと感じてからは
ケアマネージャーに相談したり

近所の通えそうなデイケアを探し
通えるよう

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