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温度差

「あ、お蕎麦屋さんが来た」
どこかの病室のドアがバタンと開く音が聞こえると
入院中でベッドに寝ている父が言った

父の病室にお蕎麦屋さんが来るわけがないが
父はお腹が空いてたのかなと思いながら
認知症の思考回路には逆らわず
私は、「あ、そう」と相槌をうった

誤嚥性肺炎で入院したこの病院では
ナースステーションで職員の方が
父と一緒に食事をしてくれたり
温かく接してくれたおかげで
父はとても穏やかに過ごすことができた

それまでいくつかの
病院や介護施設でお世話になった父は
普段は穏やかだが

認知症のせいか
夜中に病室の窓を開けて
部屋の中に枕の羽毛をばらまいて
部屋中に羽を散らばせてしまい
職員の方から
家族ともども罵られるように怒られたり

特別養護老人ホームでショートステイ中に
新聞紙を丸めて近くにいたお年寄りをはたいてしまったため
もうそこの老人ホームでは面倒は見れないと言われてしまったり

迷惑をかけてしまったのは本当に申し訳ないが
認知症とはこんなものだという
私の認識とは違って
いつも悪人のように
責め立てられて
謝罪をしてきたので

この病院に入院するときにも
無意識のうちに
また何かお咎めを受けて
謝ることになるのだろうと覚悟していたが

いつもあたたかく優しく接してくれて
今までお世話になった施設との温度差を感じるとともに
何も怒られたりすることなく退院できたことに
感動さえ覚えた

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