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あら、そう

「あら、そう・・・」

その後にお悔やみの言葉が続くのを
私は無意識のうちに期待していたが
わかりましたというような意味以外の言葉が
福祉の係の方から発せられることはなかった

父の介護が必要になってから
福祉の係の方には
色々とお世話になっていた

ある時は
父の認知症の診断を受ける病院に
何故その福祉の係の方が
一緒に付き添ってくれたのか覚えていないが
その時には係の方と父は
何度も言葉を交わしていた

既に自宅では母の介護をしている状態で
そのうえさらに身体の大きな父も
在宅介護をすることは考えられなかったので

父はいくつかの特別養護老人ホームに
ショートステイでお世話になったり
時々体調を崩して病院に入院をしたり
老健に入所しながら
特別養護老人ホームに空き出るのを待っていた

有料の老人ホームも
自宅からなるべく近いところとなると
その当時では容易には見つからず

段々範囲を広げて探してもらうと
電車で2-3時間かかる所に
すぐ入所できる老人ホームがやっと見つかったので
入所の手続きを進めている最中に
父が思いもよらず
肺炎であっけなく亡くなってしまった

母の介護はその当時で10年近く続いており
父は体調を崩して介護が必要になってから
まだ1年も経っていなかったので
この先まだ長い介護の日々が続くものと
私は疑いもなく思っていた

だから
父は本当にあっけななく
逝ってしまったように思えるが

人の力を頼ることが得意でなかった父は
身も心もヨロヨロになりながらも
横紋筋融解症で立ちあがれなくなる
本当にギリギリまで
野生動物のように
ずっと誰にも助けを求めずに
一人で何でもやろうとしていた
あるいは助けてもらいたくても助けてとは
言えなかったのかもしれないけれど

がっしりした体格だった父が
こんなに早く亡くなってしまうとは
全く想定外だったが

とにかく
父が突然亡くなってしまって
老人ホームの手配も進めていたので
お世話になった福祉の係の方に
父の死を知らせる電話をかけると
冒頭の「あら、そう・・・」
という言葉が返ってきた

福祉の係の方は仕事中なので
気の利いた慰めやお悔やみの言葉を
期待していたわけではないが

人の死も紙の上だけの出来事のように
感じられる対応に
虚しさと違和感を覚えずには
いられなかった


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