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夜明けの着信

夜明けの着信で
父の危篤を知り
慌てて支度をして
病院併設の老健に到着すると

父は昨晩から熱が出て
早朝に血圧が急激に下がり
肺炎で今晩が山場だと聞かされた

2-3日前に
電車で2時間ほどかけて老健まで
父に会いに行った時には
特に変わった様子もなかったが

年を取って
抵抗力が弱くなると
ちょっとしたことでも
大事につながってしまう

会わせたい人がいたらすぐ呼んだほうがいい
それから心肺停止した時に
蘇生措置を希望するかどうか
決めるよう言われた

延命はしなくていいと
漠然と考えてはいたが

生きるか死ぬかの問題を
今この場で決めてしまうのは
私だけでは役不足だと感じて

滅多なことでは連絡をしない
父の弟である叔父に電話で相談したが
特に驚きもせず淡々と
仕方ないといった風だった

確かに80を過ぎて
亡くなってもおかしくない年齢ではあるが
肉親の死を日常の一場面のように
淡々と受け入れる様に
私は何とも言えない気持ちにもなった

そしてその日の夜10時近くになって
ずっと苦しそうに呼吸を続ける
父のベッドの傍らにいた私に
病院の職員の方から
ベッドを用意したから休むようにと言われ

そうした方がいいかと思って
父のそばを離れようとしたところで
父の容態が急変して
10時を少し過ぎたあたりで
父は息を引き取り
苦しそうな呼吸の音も消えた

先生のご臨終ですの言葉を聞いて
悲しくて涙が流れたが
早朝に危篤を知らされて
あまりに急な一連の流れに
まだ自分の思考がおいついていなかったのか
少しポカンとしていたが

夜も遅いので病院に泊まるか
家に帰るか
まずは決めなくてはならなかった

家には介護中の母もいたので
父は病院に安置してもらう事にして
すぐに葬儀会社や親しい親戚に
父の死を知らせて
私はタクシーで家に帰った

確かに父が亡くなっても
私の時間は止まることもなく

父の死も
時間がたてば
日常の一場面として
記憶に刻まれていった

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