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『熱源』川越宗一

『熱源』読了―――

いやぁ・・・熱かった。


率直に、
手にとって、読んで良かった。

読み進める中で、
幾度となく目頭が熱くなった。

最初は、一人の登場人物に対して
幾つもの呼び名があることや、
見慣れない名前を覚えるのに苦労したけど、
特に前者の理由や背景を理解していくうちに、
気がついたらすっかり読み慣れていた。

恥ずかしながら、本作の登場人物の多くが
実在する人物だということを、中盤で知った。

偶然立ち寄った本屋で、
本作の重要人物の一人、
ブロニスワフ・ピウスツキと
記された別の書籍を見つけた。

「!?!?」

思わず手に取ると、まさに同一人物。

「え・・・実在の人なのか・・・」

それからは、尚更感慨深く読み入った。
フィクションとはいえ、史実に基づいている。

彼らのような人々が確かに生きていた。

迫り来る「近代」という波の中で、
文明を押し付けられ、
自らのアイデンティティを揺るがされながらも
誇りを胸に、極寒の地で魂を燃やし生き抜いた人々。

印象的なシーンを挙げるとキリが無いけど、
敢えて一つ挙げるとするならば、
後半、第五章「故郷」。

南極点を目指した探検隊開南丸が、
苦しくも国へ引き返そうとしたとき。

隊の一員であったアイヌのヤヨマネクフが、
一人で南極点に向けて犬橇を走らせた。

同じく開南丸の一員で、幼少期からの親友
シシラトカがヤヨマネクに飛びかかり制止する。

たとえ死んだとしても、
南極点に行ったと世界に認められるのは
アイヌの俺だ、南極点に辿り付いて島の
アイヌがアイヌとして生きられる故郷を作る
と言うヤヨマネクフに、
「誰かが死なないと作れないところで
誰が生きていけるんだ?」
とシシラトカ。

4ページに亘る二人の掛け合い。

最後には「帰ろう」と決意した、
ヤヨマネクフの心の言葉。

いつか見た故郷、小さな木幣、たなびいた煙。
悲しい経緯ばかりだが、それらに突き動かされてこれまで生きてきた。
親友に今、なお生きよと諭された。
生きるための熱の源は、人だ。
人によって生じ、遺され、継がれていく。それが熱だ。
自分の生はまだまだ止まらない。熱が、まだ絶えていないのだから。
灼けるような感覚が体に広がる。沸騰するような涙がこぼれる。
熱い。確かにそう感じた。

川越宗一(2022)熱源 文春文庫 p.420

この言葉とともに、
彼らが経験した過去のさまざまなものが、
頭の中に映像となって浮かんできた。

この後、項が変わるのだが、
思わず本を閉じて感慨に浸った。

物語は、太平洋戦争の終焉とともに終わりに向かう。

舞台は極寒の地であったが、
読み終えた頃には、私自身の心の中にも
熱いものが残った。


―――余談

個人的な話、最初に『熱源』を
読みたいと思った理由は、
野田サトル作、漫画『ゴールデンカムイ』で
アイヌ民族に興味を持ったこと。

我ながらメジャーだと思うけども、
読んだことのあるファンなら
納得してもらえるはず。

仕事の出張で北海道に行ったときは、
1日滞在を延ばして小樽にある
小さなアイヌ資料館に立ち寄った。

もっと知りたい。

2020年に北海道の白老郡白老町に開業した、
ウポポイ 民族共生象徴空間」に行きたい・・・
近々タイミングを見て、行こう。

最近は、OKI DUN AINU BANDを聴きながら通勤する日々。
※何かと影響を受けやすいタイプなので。

そして、『熱源』に登場した人物たちに関わる書籍も探して読んでみよう。周辺の史実をもっと勉強したいという意欲を駆り立てられた。

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